知ってしまった。
あの日、夢ではなく、血と共に横たわるものを床に見付けて。
















口のはには渇きかけの赤。
唇を青くした白い顔。
既視感に襲われるが、夢でないとこは知れていた。

気が付けば、膝を赤く染めながら総司を抱き起こしていた。
力の入らない冷たい身体。
喉が勝手に叫んでいる。
自分の音に気に留める暇もないほど、胸の奥がギリリと痛い。

「嘘だ」

震える顎の骨、溜まる唾液、膝の小僧まで震えていた。
熱くなった何かが緩やかに、急速に冷めていく。
総司の温度につられたように。

「総司総司総司総司総司」

力の加えたままに揺れる総司。
身体がぐにゃりと曲がる。

嗚呼これはもう、二度と動かないのか?

「嘘だ」

また笑って俺を呼ぶよな、
呼んだら答えてくるよな、

「総司!」

壁から返ってきた自らの声を耳で感じた時、
青白い首筋に触れていた手に伝わる細い振動。
断続的な脈。

静だと思ったものの動。
微かに頬に伝わる息遣い。

胸の奥が溶けて、そうして涙腺も溶けるのだ。

よわよわしい生、
偉大なる安堵、
定まらぬ指先、
総司に付いた二色の水、
未だ余韻を残す動悸、

嗚呼、総司。



診察方に診せたのち、布団に寝かせた総司は、
先程より幾分顔色を良くさせていた。

整った、だけど細い息。

生きている総司。
生きている総司。
生きている総司。

知ってしまった。
総司、俺は知ってしまったよ。
総司がいなくなったのちの、己が姿を。

どうしてくれる、
どうしてくれる、

俺はこんなにも弱いのは。



2005.3.18