「人が死んでいく様を、見たことありますか」

 穏やかに、和やかに、唐突に、総司はそういうことを言い出す。

 「人の死に目に立ち会ったこと、あるでしょう?
 たくさん人を殺めても、所詮知らない人ですからね、
 そいう人たちの死に目には合いますよね。
 死に目だって実感はしないけど。
 僕は藤堂さんが息を引き取る間際、そこにいました。
 段々、動きが小さくなってきて、呼吸がずっと弱くなって、
 視点の定まらぬ目だけが動いて、口を弛緩させて。
 嗚呼この人はじき死ぬんだと分かる。
 何も出来ない僕は、名前を呼ぶしか出来ない。
 そうして彼は目をあけたまま、何かを言いかけて、全身を緩めました。
 僕は藤堂さんの傍らにいて、手を持っていました。
 ぐにゃりと手が重くなりました。
 でも藤堂さんを見ると、魂一つ分、抜けて見えました。
 もう動かないと知れました。
 僕は双眸を静かに閉じてやりました」

 総司は視線を、こちらへ定める。
 その表情はいつもと同じで、本当に緩やかで、たおやかで。

 「腕の中で死なせてやればと、僕はその時になって、悔やみました」
 「総司は俺より先に死なない、いいな」

 総司は黙って頷いた。

 守れない約束をするのが、総司の癖だ。


2005.3.3