「総司、死ぬな」

 そんな顔をして、そんな白い顔をして、
 力強い手が、襟首を掴む。
 揺すぶられる意識は既に朧。

 「総司」

 声が聞こえる、僕の大好きな人の、声。

 「総司」

 僕なんかで、あなたはうろたえてくれるんですね。
 僕なんかで、あなたは泣いてくれるんですね。
 僕なんかで、あなたは外聞を厭わずいれるんですね。

 「馬鹿野郎っ」

 僕なんかの生に、縋ってくれるんですね。

 こんな時、何を言えば良いのか丈夫でない僕には分からない。
 喉が張り付いているけど、それでも。

 「総司、総司、駄目だ、目をつむるな、総司」

 声を出そうとしたら、生ぬるい液がこぼれた。
 鉄の味のする喉が、風通しのよい廊下の音をたてる。

 「総司!」

 僕の顔を濡らすのは、僕のそれではなくて。
 嗚呼、土方さん、ありがとう。
 あなたが悲しんでいる傍らで、僕は天に昇れる心地です。
 あなたの安否より、自らの至福が今、何よりも大きい。
 夢心地というのに相応しいくらい、今僕は。

 「総司!」

 ごめんね土方さん。
 僕は最後まで、自分のことしか考えられなかった。
 ごめん、こんな僕に、泣いてくれてありがとう。
 悲しんでくれてありがとう。
 ありがとう、ありがとう、ありがとう、

 「総司」

 認知するあなたの声は窄まる一方。
 駄目だ、やっぱり駄目だ。

 「総司、嫌だ、総司、目を、目を開けてくれ」

 遠くなる感覚、薄れていく感覚、疎らになる感覚、
 あなたの声が、小さくなる。

 視界が、まるで見えなくなる。

 暗闇だ、本当の、暗闇だ。
 あなたをおいて行く罰が、この静けさというのなら。
 この身を百度委ねても構わない。

 「総司」

 だけど嫌だ、
 置いていきたくない、
 あなたを一人にしたくない、
 あなたから離れたくない。

 「総司」

 陳腐な言葉だけれど、今の気持ちはそれしかない。

 「総司」

 本当に、大好きでした。
 僕のすべてがあなたでした。

 「総司」

 もう触れられない寂しさ、
 もう声を交わせない侘しさ、
 もう顔を見れない悔しさ、
 もう声を聞けない切なさ、

 連なる侘しさは、ついに消える。

 「ありがとうございました、土方さん」

 あなたの叫びが、こびりついて離れない。




2005.2.5