鍵をなくしました、鍵を。

「裕太」

大切な鍵を、

「裕太、本当に」

それしかないのに、

「ねえ裕太」

それだけだったのに、

「 裕 太 」

なのに僕は、僕は

僕はなくしてしまった。
望んでもないのに、否応無しに、前触れもなく、

「裕太、裕太」

そこへ近付く弟の背中に縋るように僕は付いて行って、

「もう、帰らない」

その向こうへ行ってしまった人はプツリと捨ててしまった。
僕の鍵は、 捨 て ら れ た 。

そしてドアには鍵が掛けられ、
僕はドア越しに君を想いながら、
捨てらてた鍵を欲して堪らない。

お願い、僕たちをやめないで。
お願い、僕を捨てないで。

03.08.14