多空洞クライストロン
BK振動による高周波の発生の研究は効率の面などからある段階で行き詰まっていましたがイタリアのHeilが誘導放出の概念を確立してHeil管を提唱します。当時のStanford大学にいたHansenはこれを応用して2個の電極間の電子の走行による時間差を外部で帰還すれば高周波の発振器となるアイディアを考えます。彼の下で研究していた学生だったVarian兄弟はこれを電子の速度を変調する機能と割り切っての利用方法を考えました。最初に加速された後に特定の周波数で速度変調された電子はその後に走行するにつれて一定の間隔でグループ化される位置ができます。この速度と周波数で定まる位置ではあたかも密度変調されたように見えるわけです。その位置で外部に誘導出力をすることができると加速した部分のエネルギが加わって増幅作用が得られるのです。このクライストロンは速度変調を行うための入力用と誘導電力を取り出すための2個の空洞共振器を備えています。兄弟はこのクライストロンの事業化に成功し、Varian社は現在のシリコンバレーにおける成功神話のさきがけになりました。このクライストロンは原理的に特定の周波数でしか増幅作用を持ちません。2空洞、後には3空洞を持つクライストロンは大電力の送信用や最新型のレーダー、高エネルギー粒子を発生させるための線形加速器の電力源に用いられています。図の右端のc(コレクタ)は電子を加速するための電極で、衝突した電子により加熱されるだけで信号には無関係です。
反射型クライストロン
これはBK振動管の発展型のようなものです。グリッドに代えて空洞共振器を一個だけ備え、負の電位を与えるプレートに相当するのはリペラー(反射器)と名前を変えています。空洞の共振周波数とリペラーまでの往復する間での波長の整数倍が一致すると発振する訳です。空洞共振器は内蔵したタイプと外部に取り付けたタイプの2種類があります。外部空洞タイプ(2K28など)のほうが周波数の可変範囲が広いのですが、使用には空洞内蔵タイプのほうが手軽です。内蔵タイプでも実際には空洞の寸法を可変とし、リペラーの電圧を調整することによりわずかながら発振周波数を変えることはできます。この可変の方式にはネジ等で機械的に寸法を変えるもの(2K25等)と内部にヒータを設けて温度の変化で寸法を変えるもの(2K54等)があります。
反射型クライストロンは当初はレーダ受信機の局部発振用に実用化されました。これによって送信用のマグネトロンが周波数の微細な調節が困難であった点をカバーして安定した中間周波を得ることができます。これ以後も受信機の局部発振などに利用されてきましたが現在ではここは半導体のカバーする分野となり、シンセサイザで精密な周波数が簡単に発生できるようになってしまいました。