< bktube BK振動管とクライストロン


BK振動管

ドイツのBarkhausenの指導で電子管の電子の放出を研究していたKlauzは通常とは全く逆にプレートに負の電圧を、グリッドに正電圧を印加しての測定を行っていました。このときグリッドに異常に高い周波数の振動が発生しているのが発見されました。これは電子がプレートとカソードの間を往復し、それがグリッドに誘導電流を発生させていたものです。この現象によって得られる振動は当時の高周波の発生手段により得られるものよりはるかに高いものであったのでその後各国で追試が行われたのですが、効率が上がらないことから工業製品としては実用化されませんでした。

この原理により発生する雑音はBarkhausen雑音として名前が残っています。これは真空管の発生する雑音のうちで周波数の高い成分の一つです。

現存する唯一のBK振動管の写真は「電子管の歴史」に掲載されています。



速度変調

BK振動の現象を解明する過程で非常に重要なことが判明しました。それは電子管の増幅手段として電子の密度を変調するのでなく速度を変調することの可能性です。従来の真空管はグリッドに与える電位を変化させることで、カソードから引き出す電子の量を変調して、それを陽極電流の形で取り出していました。ここで問題になるのは周波数が高くなるとグリッドとカソードの間の距離を電子が移動する時間にグリッドの電位が変動してしまうために、高い周波数でのグリッドでの密度変調の効果が減少することです。この現象を少しでも軽減するためには高いプレート電圧で加速し、カソードとグリッドの間隔をできるだけ短くすることが必要でした。事実これ以降の超高周波で用いる真空管はこの間隔を狭くすることに努力して加工精度の限界に挑戦し、これにより高温になるグリッドの材質の選択や金メッキによるグリッドの温度上昇での二次電子発生を防止するようになります。

しかし陰極のそばに位置するグリッドではその電位により陰極から発生した電子の速度に与える影響は小さくありません。グリッドの電位が高いとグリッドを通過するときの電子の速度は高く、電位が低いと速度も低くなります。つまり電子はグリッドの電位により密度だけでなく速度の変調も行われていたわけです。

BK振動は、グリッドの電位で速度変調されたことによる密度の山が、プレートの負の電位で反射されてきて戻った時間にまたグリッドの電位が高いところに当たるようになる波長の周波数で発振作用が起きていたのです。


速度変調の原理図


図のように速度変調が行われていると一定距離の位置で電子流密度の変化が顕著な場所が発生します。この位置に置かれた共振器では電子密度の変化により発生する誘導電流も大きいのです。



誘導出力

BK振動の出力において誘導出力と言う概念が発生しました。真空管では出力はプレート電流の変化を外部の負荷回路を用いて取り出していました。しかしBK振動管では出力は、いわゆるプレートではなくグリッドから取り出されます。実際負の電圧が印加されているプレートには電流は流れこまないのですから負荷回路への出力はほとんどありません。グリッドには電子の密度の変化により負の電荷の密度の濃い部分と薄い部分が周期的に現れてそれがグリッドに誘導電荷を発生させます。最終的にグリッドに電子が吸収されてしまう以前にこのような誘導電荷により高周波のエネルギーがグリッドから、またはその周辺に置かれた誘導出力用電極から取り出される訳です。これ以後の超高周波の世界では内部に設けた空洞共振器により誘導出力を取り出すことが一般的になりました。

これによって、動作のための電力を供給する電極と出力端子が分離され、電力用電極の浮遊容量などが動作周波数を制限することを防止することができるようになりました。