真空管の構造(その3)

MT管(Miniature Tube)

小型化のために、外装を総てガラス製とし、電極からの引き出し線をそのまま外部接続に用いる構造は、以前にも一部の超高周波用途に使われていました。Acorn管およびDoorKnob管がそれです。またLock-in管も実際には下部の金属の保護カバー以外はすべてガラス製です。 これを小型化のために一般向けに採用したのがMT管です。構造はLock-in管と同じようにボタンステム採用の全ガラス管ですが、大きな違いは排気を頂上部で行ったことです。このためベースの中央に排気管を配置したLock-in管よりはるかに小さな外形とすることができました。排気管自体もそれまでのようにケースで保護することなく封じきりの状態です。これは外形が小型になったので相対的に構造の強度が高くなったことで可能になったのです。ピンは円周上の8等分の7箇所に配置し、欠けている部分がガイドになって位置決めがされます。後には一回り大きな9ピンのものも作られ、これは10等分の9箇所にピンが配置されています。7ピンのものをMiniature管、9ピンのものをNoval管と区別することもあります。

最初は電池管(乾電池で動作する直熱型)として作られました。この時代には同じような趣旨でベースだけは残したミゼット管なども作られています。1940年の初めに販売された最初のシリーズは1.4V/0.05Aのシリーズ1R5,1T4,1U5,1S4です。これに後に大型出力管として1.4V/0.1A,2.8V/0.05Aの両方で使用できる3S4などが加わります。

日本でも東芝で1940年に1R5/1T4/1U4/1U5/3S4の各種を製造したとの記録があります。しかし恐らく試作レベルに終わったのでしょう。実用になったならば真っ先に使用されるであろう日本の軍用機種は依然としてはるかに性能が低く電池の使用量、電圧も大きなST管の電池管が継続して使用されました。

1941年の暮れには最初の傍熱型管がRCA社からミゼット管の名称で9001/9002/9003のシリーズとして発表されました。このシリーズはAcorn管の延長として非常に小型の電極でヒータも6.3V/0.15AとAcorn管並みでした。ちなみに9004/9005はAcorn管です。この次に1942年に発表されたのはGT管で達成困難であった高周波への対応管でした。6AK5/6AG5/6C4/6J6などのシリーズです。これらはいずれもコストよりも性能を重視した品種です。バルブはT51/2の7ピンを用いています。同じ時期にドイツでも同様の趣旨で小型管を作っていたことが知られていますが、こちらはベース付きでした。

戦後の1945年秋に民需用としての6.3Vシリーズとこれに対応する150mAのトランスレスシリーズが発表されます。
 
6BA6 高周波5極管
6BE6 周波数変換管
6AT6 第二検波・低周波3極管
6AQ5 ビーム出力管
6X4 両波整流管

12BA6 高周波5極管
12BE6 周波数変換管
12AT6 第二検波・低周波3極管
35C5 ビーム出力管
35W4 両波整流管

1948年に最初の9ピン管(noval)12AU7/12AX7が登場します。これらの傍熱型のMT管は最初はコストの面からかなかなか種類も増えませんでした。しかし1950年代に入るとGT管に相当するほとんどの品種が製品化され、小型、低コストでしかも高周波特性が格段に優れていることから一部の大電力を扱うもの以外ではほとんどの品種を置き換えてしまいました。日本ではちょうどこの時期にST管からの転換が起こっているのでGT管の時代がなかったわけです。

よく実物を見ると、ST管/GT管/MT管で内部の電極の大きさは相当する種類ではさほど差がないことが判ります。ST管では上部のくびれた部分で支えるために電極は余裕を持って収容されていますが、GT管ではこのくびれの部分が直径になり、MT管では電極がガラスにぎりぎりのところまでになっています。一番大きな差は構造を支えているステム部分の大きさと引き出し線の長さでこれが高周波での特性に決定的な差を与えます。高周波の使用に対応するために引き出し電極のシールドの目的でボタンステムのピンの中央部に円盤状のシールド板を設けた品種もあります。MT管のソケットには中央に金属の管が設けられて、それがシールド板とキャパシタンスで結合するのです。 テレビの実用化には、このMT管が大きく寄与しています。白黒テレビの時代でも20個以上の真空管を使用していたテレビはMT管の使用なしでは大きさとコストの面から普及しなかったでしょうし、何よりも200MHz付近の上位チャンネルはGT管では到達困難な領域でした。


SMT管(Sub-Miniature管)

この種の管の最初のものは意外に古く、1940年にRaytheon社から偏平型のものが補聴器用として出ています。このシリーズで用いられたCKシリーズの名称(恐らくCool Kathodeの略)は同社ではトランジスタ時代の最初にも使用していました。この発表は戦前の情報の少ない時代にも「無線と実験」などに記載されていました。恐らくこの小型で加速度に耐性のある構造の技術は砲弾に組み込む近接信管(VT-fuse)に利用されたのでしょうが、それを想像できなかったのは日本の技術者の怠慢です。RCA/Sylvaniaの両メーカはこのあたりでは立ち後れていましたが戦後になってからまずT3バルブの、さらにT2バルブ、最後にはT1バルブ(外径6mm)の円筒のバルブを持ったものが作られます。