G管
金属管は塗装を黒色とすることで輻射放熱をおこなっていましたが、大電力では温度が上昇する問題がありました。このため大電力用の6L6や整流管の5T4は特別に大型のケースを用いましたがそれでも依然として放熱の問題が残りました。また金属管のボタンステムは耐圧の面から高電圧を使用することに制約がありました。頂上の電極は金属管との間を小さなガラスで絶縁するものですからグリッドの引き出し程度にしか使えませんでした。
ST管の改良としてベース部分だけをオクタルソケットにして標準化したものがG管です。バルブとステムは従来のST管のものが使われています。電力管と整流管の多くがこの形態を採用しました。また単に従来のST管の製造ラインで製造してコストを引き下げるために金属管と同じ系列に相当するG管も作られました。この種類は特性上から制約があり後述のGT管にとってかわられます。後の世代ではG管も円筒系の外形とボタンステムを採用して一見してGT管と区別がつかなくなっています。
G管は名称の後に-Gのサフィックスがつきます。
GT管
金属管は技術としては革新的なものでしたが、いわゆる民需用にはどうしてもコスト面では不利であり、また中が見えないことは断線や過負荷の状態が判らないなど使い勝手が悪いことになります。これを改善し、低コストで金属管に劣らない特性を持つ構造としてGT管が考案されました。
GT管では従来のST管のステム(押しつぶしたような形状からPinched Stem:日本では「つまみステム」と称していた)を小型化し、引き出し線の静電容量とインダクタンスを減少させたバンタムステムを採用しました。これはオクタルソケットが排気管をピンの中央にあるキーの部分に収容する構造であるためにステムの短縮ができたのでありST管/G管より高周波特性は改善されています。
GT管は金属管とは公称の電気特性は同一とし、原則としてピン互換性を保っています。また金属管の優れたシールド特性を維持するために高周波用では陽極の外周にさらに金属のカバーまたは網を配置したり、特に高周波回路用では引き出し線が集中するソケット部分に金属管のケースに相当する金属カバーを設けたものもあります。このシリーズは相当する金属管の名称の後に-GTの名称がつけられています。GTとはGlass Tubeの略と言われています。
GT管は金属管の改良型をベースにしているために金属管の初期にあった上部の引き出し線は原則として用いられていません。しかし実際にはグリッドや特に高電圧を使用する送信管やテレビ用の一部にはプレート電極をここに引き出したものがあります。金属管では頂上の電極は従来のST管と異なる小形のものを使用していましたが、GT管ではこのままではガラスとの接合が不十分なために金属管との互換性も合わせて大きな皿の上に金属管と同じサイズのものが重なった構造のキャップを使用しています。互換性の必要のない送信管の6146などでは従来のST管サイズのキャップも使用されています。
GT管になってから、1ピンをケースに接続すると言う制約がなくなり、8ピンがフルに利用できるようになりました。たとえば独立したカソードの双3極管である6SL7-GT/6SN7-GTなどは、GT管よって初めて実現できるようになったのです。真空管式電子計算機であるENIACでは6SL7-GTによるFlip-flop回路が記憶素子として用いられており、使用している真空管の多くが6SL7-GTです。
GT管は米国では相当に普及しましたが、日本では戦前に一部が実用化された他は前述のRCA社特許の関連もあってほとんど採用されないままでMT管の時代に入ってしまいました。テレビの時代になってやっと大型の出力管や整流管に一部に採用がされただけです。
後の世代ではGT管はほとんどがステムにボタンステムを採用してできるだけの小型化と特性の向上を図っています。よく誤解がされるのですがGT管はT9以下の円筒バルブを使用した管だけに対する名称です。これ以上の大きさの管(例えば6CA7など)は形は似ていますがGT管とは称さないでG管のほうに分類されます。
LOCK-IN管(ロクタル管)
これは主に欧州で発達した形で同じく金属管からの進化型です。発端はSylvania社がRCA/GEのライセンスが必要な金属管/GT管を避けるために開発したものです。形式としては金属管の外周をすべてガラスに置き換えたものと考えればよいのですが、さらに大きな特徴は金属管でも採用していなかったベース部分を廃止した構造を採用したことです。従来のベースはベークライト等の絶縁物に中空のピンが取り付けてあり、ステムからの引き出し線をこの中空のピンを通して下部で半田付けしていました。これをガラスからの引き出し線自体をピンの材質としてそのままソケットに差す構造にしたことです。金属管では信号の引き出し部分だったボタンステムが管底全体の構造として採用され、信号線の長さは金属管よりもさらに短縮されました。これは当然強度の問題がありますが、引き出し線が細いなら挿入力が少ないので何とかなるわけです。しかしこれではGT管と同じ大きさの管を支えられないのでベースに相当する部分に金属カバーをつけこの中心に位置決めキーを設けました。この位置決めキーはGT管と同様に排気管の収容を兼ね、また金属カバーと一体化しているために信号引きだし部のシールドも兼ねています。さらにこのキーは下部に括れがあり外部ソケットとのロック機構となっています。(名称のロクタルとはLock-Inタイプの8本足Octalに由来しています)
この構造は革新的なものでしたが、米国では一部の車載機器用に採用されただけです。しかしこれ以後の真空管の構造には大きな影響を与えました。
不運と言えば、開発がRCA/GE社で行われなかったことで、本来ならGT管にとって代わるだけの性能とコスト削減の可能性を持っていた管です。実際に、超短波帯の小型送信管4X150Aなどのシリーズはこれと同規格のソケットを採用していますし、テレビ時代のマグノーバル管やコンパクトロンもこの形式のボタンステムを採用したことで、最終的にはGT管に対して勝利を収めているのです。但し実際のロクタル管は構造上の検討が充分でなく、ピンの長さと太さの不足からロック機構が十分に機能せずしばしば脱落事故が発生したとも言われています。
LOCK-IN管は名前としては金属管と同様にサフィックスはついていません。しかし米国では名称から容易に区別がつくようになっています。(名称の項参照)