進行波管    

クライストロンは超短波帯で高い増幅率と電力を得ることができますが、速度変調の方式は本質的に波長への依存性が高い欠点があります。これは速度変調により電子密度の変化が大きな位置は波長により決定されることと、入力/出力のエネルギーの交換がQの高い空洞共振器で行われることから増幅する帯域が非常に狭いことです。このために電話回線の長距離中継器や放送のための用途には適当ではありません。広帯域の増幅を行うためには空洞共振器による結合をあきらめて入力信号を進行波のままで長い区間に渡って電子流と結合させることが必要です。乱暴な表現をするなら電波を電子流で後押しする形でのエネルギー供給を行って増幅を行わせるわけです。通常の環境では電子の速度はそんなに高速にはできません。数千Vの電圧での加速でも高々光速の数十分の一の速度です。従って電子の通路に沿って電波(正確には入力の超短波により発生する電界)を遠回りさせる遅波回路を設けることでほぼ電子の速度に近づけるわけです。進行波管の構造は概略以下のようになっています。

カソードで発生した電子は加速電極により加速されたのちほぼ同等の電位にあるコレクタに向かって直進します。この直進の経路には周囲に磁界が設けられており、分散を防いでいます。この直進経路に沿った形で螺旋状に巻いてあるのが電波の通路に当たるわけです。この経路にそって電界は電子の速度より少し遅めになるように設定されており、追い抜く電子が少し減速する形でエネルギが電波に与えられるのです。これによって長い管の反対側では増幅された電波が出力されます。

このようにして広帯域の超短波の増幅ができるはずだったのですが、実際には簡単に発振してしまい実用になりませんでした。これは増幅された進行波が入力側に逆流することで生じる現象で、入力と出力の分離が完全にはできない構造によるものです。
この問題を解決したのが当時Bell研究所にいたPierceで、彼は進行波で得られる利得の半分にも及ぶ減衰回路を中間に置くことで反射による発振を防止することを提案し、これによって進行波管は増幅器として利用が可能になりました。実際の減衰回路は管の内面ガラスにカーボンを塗布するなどの方法で行われています。

進行波管はこの管の周囲を電子流を中央に絞り込むための収束用磁石で覆われていますが、それを外したものの写真は以下のようなものです。

進行波管は現在では順次固体増幅器にとり変わってきていますが、それでも放送衛星などの大出力の分野では安定した実績から未だに用いられています。