対水上艦・射撃管制レーダー
22型レーダー
旧日本軍の海軍用レーダーはセンチメートル波を利用した点では世界水準のものであった。
マイクロ波による索敵と照準用のレーダーとして艦船搭載型のいわゆる22型レーダーのその最終タイプ(第一ミキサーに硫化鉄ダイオードを用いたもの)のブロック図を示す。
22号レーダーブロック図
このレーダーではアンテナは送信・受信を分離された円筒型ホーンアンテナアンテナが用いられ、給電には円形の導波管が使用されている。
潜水艦用には送受一体型のアンテナが用いられた。以下に伊402号潜水艦に搭載されたアンテナの写真を示す。
ブラウン管上には反射までの時間(距離)が表示される。信号の強度はパルス高であり、輝度変調ではない。
以下に次の回路図について説明する。
送信部回路
22号レーダー送信部回路図
送信部は水冷式マグネトロンM-312を用いており、その出力が導波管でホーンアンテナに導かれる。
変調はマグネトロンのフィラメント回路に直列に接続されたカレントトランスに変調部からの出力を与えることで行われる。マグネトロンの磁石は外部電磁石である。マグネトロンの陽極と電磁石を冷却するために水冷ポンプから冷却水が供給されている。マグネトロンの電源にはアノード側に直流7,000Vが与えられ、カソード側に変調信号として5,500Vの負の変調パルスが重畳される。
マグネトロンM-312の単体性能は以下の通りである。
・フィラメント 10V/19.5A(195Watt)
・フィラメントエミッション 2A
・アノード電圧 11,000V
・磁界 700ガウス(外付け電磁石)
・アンテナ出力 尖頭2KWatt
・許容アノード連続損失 500Watt
・発振波長 9.875±0.5%センチメートル(3037MHz)
0.5%の精度とは言っても、これは15MHzに相当し、所定の中間周波を得るには局部発振用マグネトロン(M-60S)をこれから正確に中間周波分ずらした位置の周波数に設定することが要求される。
これは送信管に合わせて予め選定していたM-60Sに対しての磁界を調整して概略を合わせ、アノード電圧を調整して微調するのであるが、現場での故障に対しては問題が多かっただろうと思われる。
変調部回路
22号レーダー変調部回路図
変調部は4個の送信管が用いられている。初段のP112は表示部の同期パルスを入力し増幅する。2段目の5極管P220はスクリーングリッドとサプレッサグリッドに設けられたトランスにより入力に同期してブロッキング発振を行い、この出力で終段の並列接続したS182を駆動する。この出力が送信部のカレントトランスでマグネトロンを変調する。
電源部回路
22号レーダー電源部回路図
電源部には高真空の整流管K-251を用い、水銀整流管は用いられていない。これは保守性の面を考慮したものと考えられ、陸軍と異なり戦場に設置される装置では稼働率を重視したものであろう。
電磁石の励磁にはブロック図ではセレン整流器とされているが、部品表では亜酸化銅整流器となっている。
マグネトロンの電源だけは安定化した交流電源が用いられ、この目的のために外部に大形3極管UV-211Aプッシュプルのブロッキング発振で安定化回路を設けている。
受信部回路
22号レーダー受信部回路図
受信部は海軍センチメートル波レーダーにおける最大の弱点であった。初期の22型レーダーはM-60Sを用いた超再生受信機を用いていた。このマグネトロンM-60Sは低電圧で発振する小型のもので、概略送信波長に合わせて発振の臨界状態に置かれたマグネトロンが微弱な受信電波を検出して発振する現象を利用したもので、簡単な構成で比較的高感度であったが、不安定で実地では使い物にならなかった。
この不安定さを解消するために、これをM-60Sのオートダイン検波(無線電信を受信する受信機の手法であり、発振状態にある受信マグネトロンが入力電波との差分の周波数:無線電信では可聴波を発生する)に変更したが、これでは発振強度と受信感度の最適性を得ることは困難であり、受信感度は大幅に低下して実用にならなかった。
これを硫化鉄を利用した鉱石検波器を用いるスーパーヘテロダインとしたものである。
しかし送信・受信のマグネトロンは現物合わせでの組み合せであるから中間周波数14.5MHzに設定し、帯域幅は2MHzと広帯域であった。超短波レーダーに用いたようなダブルスーパー化は採用されていない。
中間周波増幅には中止になった1940年の東京オリンピックでのテレビ放送受信に向けて開発された10,000mhoを超える高gmのST管UZ-6302が用いられている。中間周波トランスはLCに並列に抵抗を入れてQを低下させることで広帯域化している。
鉱石の出力を5段の中間周波増幅の後に2極管接続のUY-76(これも時代ものであるが)で第二検波、増幅後に表示部に出力している。
パルスの波形を忠実に増幅するには広い帯域が必要であるが、ここでは送信・受信マグネトロンのばらつきをカバーするための広帯域化であり、増幅器の性能はゲイン×帯域で決まるので周波数のずれを帯域でカバーすれば、その分増幅度は低下し、雑音成分だけ増すので、この代償は余りに大きすぎる。
中間周波の帯域は必要最小限に絞ることが感度・雑音排除には必須であり、そうしなければ妨害電波などにも極めて脆弱なものとなる。
ドイツと英国の開発競争でも妨害から逃れるための周波数の可変機構などが採用されており、このような広帯域シングルスーパーのレーダーが戦場で活躍できる機会は少なかったに違いない。
22型修正4版に対応する表示部の回路図は復元できていない。
電源の安定化のための工夫として、表示部の直流300Vは低内部抵抗の3極管UY-6A3Bを4本並列にしたシリーズレギュレータを用いている。この6A3Bは2A3の6.3V版を傍熱管とした日本独自のものである。
米国では専用の6AS7-Gが用いられた。
いずれにしても、この形式が確定したときには肝心の射撃管制に用いるための稼動できる主力艦は存在しなくなっており、潜水艦だけでしか有効に利用されなかった。