日本陸軍のレーダー

陸軍でのレーダー研究は当初は持続波(連続波)を用いて、目標からの反射との周波数差を検出することで移動体の存在と速度を判定するドップラーレーダーだった。これは現在でも気象観測から運動競技における速度の測定などに用いられている方式で、音響受信によっても結果を得られるなど取り付きやすい面もあったのであろう。

飛行機が金属性になると、その反射波を得ることが容易になり1937年にその受信に成功したことから1939年に技術本部に研究を移管して1940年に兵器化が完成した。
この装置は要地用電波警戒機甲とされた。

1941年からはパルス方式のレーダーの開発が開始され、鹵獲した敵レーダーも参考として電波高度計、地形判定などの機能も含めての電波標定機としての開発が行われた。

実用化されたレーダーは以下の通りである。

地上用電波警戒機
(1)超短波警戒機甲(ドップラー方式)
10W (80km)、20W (120km)、100W (200km)、400W (350km)の4種がある。1940年頃実用化。

(2)超短波警戒機乙 要地用(タチ6)
周波数 68MHz、72MHz、76MHz、80MHz 尖頭出力 50KW
対飛警戒距離 300km、測距精度 ±7km、測角精度 ±5度
重量 10トン

(3)超短波警戒機乙 要地、高度測定用(タチ35)
周波数 82MHz 尖頭出力 50KW
対飛測高可能距離 100km、測距精度 ±1km、測角精度 ±1度
測高精度 ±500m
重量 4トン
タチ6に相当、3機を製造実用化

(4)超短波警戒機乙 車装式野戦用(タチ7)
周波数 100MHz 尖頭出力 50KW
対飛警戒距離 300km、測距精度 ±5km、測角精度 ±5度
重量 自動貨車4両を含め 18トン

(5)超短波警戒機乙 車装式移動用(タチ18)
周波数 94、98、102、108MHz 尖頭出力 50KW
対飛警戒距離 300km、測距精度 ±5km、測角精度 ±5度
重量 4トン、移動性自動貨車4両に分載

タチ6号に関してはかって従事された方がWeb上にて貴重な資料を公開されているのが見受けられる。そこからブロックダイヤグラムをトレースしたものを以下に示す。ここでは送信機と受信機を離して設置することで受信機の損傷を防止しており、両者間はケーブル接続もしくは送信電波の受信により同期をとっている。
送信部は3極管のプッシュプルによる発振・パルス変調、増幅であり、受信部はダブルスーパーヘテロダインである。受信の高周波段にはエーコン管が使用されている。
表示用のブラウン管については、たまたま高校のときに実物を入手して、それを利用してオシロスコープを作成した経験がある。5インチ、緑色、単残光のブラウン管であるが奥行きがやたらに長くて使いにくかった。

送信機ブロック図
受信機ブロック図
使用真空管についての説明は資料調査中後に改めて行いたい。
探索距離300kmは波長が長いことと建造物などから欧州に比較しては有利であり、防空用の警戒レーダーとして空襲警報を出す目的には利用できたであろう。
しかし、本土に空襲が行われた時期には警報は出せても上空で待機して迎撃する性能の戦闘機が無い状況では防空システムとして敵の脅威にはならなかったものと推測される。