「破滅への2時間」

「Red Alert」(後にTwo hours to the doom、邦題「破滅への2時間」)、作者はピーター・ジョージと言う英国退役空軍将校)
元軍人らしく余計なものを全く含まない純軍事的な背景による軍事スリラーと言う感じの物語です。
しかし、この背景には当時に米国の保守派の間に流れていた共産主義者シンパによる陰謀(一部の自治体で水道水に虫歯予防の名目で弗素関連物を混入することの陰謀説)、ソ連は政権崩壊に備えて「汚い水爆」を用いた自殺兵器を準備している等の説への米国民の恐怖も否定できないようです。
時代は1950年代後期当時の設定であり、爆撃機はB-52です。

物語は米国の核搭載爆撃機基地の一つで司令官がこの種の噂から精神的に不安定になり編隊指揮官に命令書を渡したことから始まります。
これは戦略空軍の中枢にソ連からの先制攻撃が起こったときのための例外的な命令でそのとき生き残った基地の司令官は独自の判断で核攻撃命令を出すことが出来ると言うものでした。
この命令書を開封した各機長はそれぞれ2時間の距離にあるソ連の戦略拠点への侵攻を開始します。この事態を知った大統領はペンタゴンで対応を協議しますが、放置する(又は更に攻撃を強化する)と言うオプションはソ連の自殺兵器の存在の情報を入手していた大統領により否定されます。
爆撃機基地に隣接して演習中だったレインジャー部隊に基地の攻撃と呼び戻し暗号の入手が命令されて、米軍同士の戦闘の後に基地は間もなく陥落しますが暗号を知る司令官は自殺しています。
副官が生前の司令官との会話からその暗号が「地上に平和を」(PeaceOfEarth)ではないかと推定し、それを用いることで殆どの爆撃機は呼び戻されますが一機だけ戦闘機からの攻撃で大被害を受けた爆撃機だけが命令を受領できずミサイル基地に水爆を投下します。
米国はその代償にソ連潜水艦が小都市への攻撃を黙認することにしますが、実際には損傷によってミサイル基地への爆弾は不発(核融合は発生せず)で終わりと言う結末です。

小説としては面白みは乏しいのですが時間刻みに同時進行的に展開される構成と誤った情報による核攻撃への代償に自都市の破壊を認めるなどの筋書きが前述の「フェイル・セイフ」に先行したものでこれを剽窃との判断が行われたようです。
この小説をベースにしたスタンリー・キューブリックの「ストレンジラブ博士又は...」の映画はあまりにも有名になりました。

前書きより
「これはある戦いの物語である。北極海で、基地で、また多くの人々の頭の中で行われる戦いの物語である。
これは非情で残酷な物語である。何故なら非情と残酷は戦いの常であり、とりわけ核兵器による戦いではそれ以外のものはあり得ないからである。
何よりも大事なことはこれが実際に起こりうる物語であることであり、一たびそれが起きたときあなたと私に残された時間は2時間しかないことである。
それは破滅に至る2時間である。」