アタナソフのABCコンピュータ2


ABCコンピュータの概要のスケッチ

ABCコンピュータの設計資料を元に作成された論理的な構成図を以下に示す。



主要な部品である論理ユニットとキャパシタドラムは製作当時のものが現存し、これを以下の図に示す。
また使用された真空管である双三極管6C8Gの同等品の写真を示す。


右が1ビット加減算の論理ユニットで7個の真空管(アタナソフ自身の論文からオクタルベースの双三極G管6C8Gであることが判明している)から構成され手造りのコンパクトで丁寧な作りである。
左がキャパシタドラムでスケッチによると2個が横置きで設置されていたらしい。


以下に真空管を主体に構成された、恐らくメモリ関連ユニットと、それを手にした開発者の一人であるベリー氏の写真、および加減算の論理ユニットの回路図を示す。
この当時に完全に分離した構造の双三極管はGT管の6SN7等が生産に入ったばかりで、6C8Gは頂上グリッドと言う少し大きくなるが、ヒータ電流が0.3Aと省電力であった。
50ビットのデータをメモリから読みだして保持するには100個に近い双三極管が必要であったに相違なく多分このユニットはその一部であったのだろう。


ABCコンピュータのブロック図とそれぞれの役割については復元者によるものを以下に示す。



アタナソフの論文には1ビット加減算の回路が解説されている。 これはおそらく最初に発表された、後に言うRTL論理回路の原型になるものであるが、これを詳細に解析した専門家はこの回路は抵抗の値とプルアップ・プルダウンの手法により巧妙に各種の論理に対応させた手造りのもので一般性には疑問を持っているようだ。
全装置でただ一個しか用いられていない回路から汎用性のある論理ゲートの構成法とは言えないのだろう。

ABCではほとんど全てのレジスタに相当する部分がキャパシタドラムで構成されており(例えば1ビットのキャリーの保持も)、アタナソフはこれに拘った設計としたようだ。
しかし毎分3600回転と言う回転数から必然的に生じる回転待ち時間(平均でも8.3msecは動作における大きな制約になるのは仕方ないことである。元々クロックとして60Hzの商用周波数を利用していることもあり、電子化による高速性を引き出した装置とは異なったものである。

アタナソフに本気で電子回路による論理回路設計に取り組む気があれば、より汎用性の高い回路構成など考案するに至ったであろうが、当時に利用できた形状が大きく消費電力の大きな真空管を用いる限り制約は大きく、実際10年も経たないうちに半導体の時代がやってきたのであるから物理研究が本業の彼にとってはやはり手を広げなかったことが正解であったろう。