軽騎兵の突撃4
パジェット卿の率いた第2列は彼らの指揮官がもはや戦場から離れたとも知らずに苦戦していた。ほとんど望みはないように思え、馬は疲れほとんどの兵士が負傷していた。それにもかかわらず彼らは退路に現れたロシア槍騎兵に挑みかかっていった。英国騎兵が接近するとロシア槍騎兵は引退がり混乱の中で間を通り抜けることができた。
他の生き残りの部隊も砲列のあたりで立ち止まりCardiganを見つけて指示を受けようとしたが見当たらない。残りの指揮官達は生き残りの騎兵を集めて撤退するしかなかった。混乱は極まっており誰も何事が起こったのか、だれが死に、だれが生き残ったかもわからない状態だった。彼らが戻り始めたころにCardiganの幕僚の一人だったロッキード大尉がLucanのところにやってきてCardiganの行き先を尋ねた。LucanのCardiganはずっと前に戻っていったとの答えを誤解したロッキードは再び戦場に引き返しその後彼を見たものはいない。
撤退は前進よりもはるかに困難だった。人も馬も消耗し尽くしており、全員が傷を負っていた。皆は馬を放すのを嫌がり動ける馬は負傷兵を運ぶのに使用された。丘の上から見物していた人々にはこの幽鬼のような一隊があの軽騎兵連隊だったとは到底信じられなかった。ペースは遅くよろめく負傷兵を支えながらゆっくりと戻ってくる。騎兵部隊の整然とした編成は後影もなく血を流す馬に負傷兵が載せたれている。丘の上からこれを見ていたデュバリー大尉夫人が「おお、あれが軽騎兵連隊なの?」
ロシアの槍騎兵がよろめく負傷兵に襲い掛かり斬りつけ捕虜を得ようとしたが、Causeway高地からの自軍の砲撃に驚き去っていった。砲撃は1マイルの距離まで及んだが幸いなことに南側だけだった。北側の高地のロシア砲兵と歩兵はフランス軍騎兵の機転による攻撃で追い払われていたのだ。
死体や死にかけの仲間とともに軽騎兵の生き残りはあるものは走り、あるものはよろめき、また這うようにして安全な場所まで戻っていった。パジェット卿は殿軍の一人だった。最後の坂を下ったところで彼はさっそうと馬に乗ったCardiganに出会った。パジェット卿はCardiganに心底から腹を立てた。後日彼は「任務の放棄だ」とまで書いている。最善のサポートを依頼し「砲列で落ち合おう」と言っておきながら最悪の状態にある彼の連隊を置いて消えうせた。「おーい、Cardigan殿はどこにおられた?」、「ここだよ、ジェニスと砲列で一緒だったな」。ジェニス大尉は13竜騎兵の数少ない生き残りの一人でCardiganと行動を共にして砲列を駆け抜けたのだった。
後までCardiganを悩ます「彼は実は突撃の途中までしか行かず、帰りに合流したのだ」との噂はこのような行動から生まれた。最後の生き残りが戻ると軽騎兵連隊はBalaklavaの見える丘に整列した。これまでに要した時間は20分間でしかなかった。Cardiganは前に進み出ると「諸君、これは馬鹿げた行動だった。しかし私の過失ではない。」と大声で告げた。それに答えて連隊の生き残りは「閣下、気になさらずに。我々はもう一度だってやります。」と繰り返し、これは廃馬となった馬を射殺するピストルの音が聞こえるまで続いた。
700騎近い騎兵が出撃し、戻ってきたのは195騎だった。第17槍騎兵隊は37騎に、第13竜騎兵隊は2名の将校と8人の兵となってしまった。500頭の馬が殺された。