「釣りをする人」
修行の途中、喉が渇いたので小川を探した。
森の作りは大体把握していたので、小川と自分にどのくらいの距離があるか、
そして小川の近くに誰か居るかどうかがわかる。
『その』人物は気配を消していないようで、同時に水音も聞こえてくるし、どうやら水作業でもしているらしい。
声が聞こえる。……動物?
岩陰からそっとその人物を見ると。
「よーし、赤丸、白くなったな! ヒャホー! 冷てェ! 水かけんなー!」
アカデミーで見たことのある――たしか『キバ』とかいったか。
今は第八班に所属されていた筈だけれど。
声を掛ける必要もない、もう少し上流で水を取って帰ろうとしたとき。
「オイ! バレバレだぜー、超エリート優等生のうちはサスケくーん。」
キバは最後の名前の部分をゆっくり皮肉った調子で呼んだ。
ちぃ、面倒な、とサスケは肩をすくめた。話す事も訊く事も無いというのに?
「何の用だ」
「つれないねぇ、俺の釣り針くらい釣れねー。」
「お前の下手な釣りといっしょにするな。大体忍者のクセに気配も声も消さないとはな」
「趣味の時間までいちいち気配消してられっかよ。面倒臭ェ」
はぁー、とキバは大袈裟にため息をついて見せてから、動く気配のない釣竿を一瞥した。
それからサスケに向き直って真剣な表情になる。
「なぁ、サスケさぁ」
「馴れ馴れしく呼ぶな」
「……フ、ナルトには呼ばせてるくせにな」
「は?」
本当の事を言えば、キバからその三文字の名前が出てくる事自体不愉快だった。
その上、そうだったかもしれないと思うと、一種の焦りが生まれてくる。
「有名だぜー、エリートサスケくんはナルトにしかサスケって呼ばせないってサ」
「知るか」
「ま、良いけど。それより俺が訊きたいのはサ」
「……」
「本当にアンタはナルトを好きなのかって事だ」
サスケの眉がピクリと動いた。図星? あぁそうさ、油断していた胸中にストレートヒットさ。
そりゃ嫌いだといったら大嘘だ。いくら俺でも顔が引き攣ってすぐ言い返されるに違いない、
“ナルトが好き”なんだと。
「お前には関係ない」
「ふーん……。ま、俺も関係ないから全然良いんだけどな。そんなん訊かなくても。男同士なんざまっぴらだ」
なら訊くな、とサスケはぼそり呟いた。
赤丸が走り寄って来たのを抱き上げていたキバは、その悪態には気付かなかったようである。
「さて、と。俺は釣りしなきゃなー。今日の晩飯とってこいってお袋に脅されてンだよなァ」
「下らん。俺は行くぜ」
「おう。引き止めて悪かったな」
「まったくだ」
サスケがくるりと背を向けたその時、キバがぽつりと呟いた。
「じゃあ俺ら、四角関係だよなァ……」
ふと、彼の班の無口な女子が思い浮かんだ。同時に。その女子がじっとナルトを見詰める場面さえ浮かんで。
サスケはギリ、と唇を噛んだ。
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否キバサス!!なんでこれキバサス!?(汗) Novel「本音」の前編です。
一応、「四角関係」はコレ↓です。キバとサスケの間に何も無いのは気にしない。
キバ→ヒナタ
↓
サスケ→ナルト
短いなぁこれだけだとホント……。