「シャム双生児」
例えばの話。
何かの間違いだったのだとしても、二人が『繋がった状態』で生まれてきたら――。
帰り道、いきなりアイツはコロリと性格を変える。でももう慣れたことだ。
「疲れんなぁ、バカの真似ってーのはさ。興味ない女にくっついてみたりさぁ」
ふと、先程の彼が「サクラちゃーん」とかなんとか云いながら走って行く姿が眼に浮かんだ。
浮かぶ彼の姿が全部偽りだというのだから驚きだ。
「何でソコまでして自分を偽るんだ」
「知らねぇよ、気付いた頃にはそうしてた」
そんな細かい事まで覚えてねぇーよ、とそっぽを向いたナルトの顔を、夕陽が照らす。
眩しくてよくそちらが見えない。
太陽色の髪の毛を持つその少年は、今にもその夕陽にとけ込んで消えそうだった。
「お前を遠く感じるよ」
「遠く? は? なんだってばよソレ。こんなに近くにいんのにさ。おかしなヤツだな……」
ニヤリ、と意地悪そうな笑みを浮かべながら、普段より数倍速い動作で俺の後ろに回るナルト。
彼は指でクナイの真似をして、ぐさりと俺の背中を刺しながら、任務しっぱーい、とからから笑った。
「ばぁーか」
「お前に言われちゃおしまいだな」
「そりゃそーだ」
馬鹿にされた記憶など久しい。
懐かしがるのもやや奇怪ではあるのだけれども、俺はむっとするより先に何年振りかなどと考える。
サスケ歩くの遅ぇよー、とナルトがまた俺をなじる声が聞こえた。
返事もままならず俺はまた歩幅を広げなければならなかった。
ナルトの歩幅は小さいのに速い。ちょこちょこと歩くその姿は狐のそれを連想させた。
「なぁ、シャム双生児って知ってっかー?」
「あぁ? なんだいきなり」
「頭とか、体の一部がくっついたまま産まれる双子だってばよ。あれで産まれたらずっと一緒だったのにな」
「あんなにひっついてたら気色悪くてしょうがねぇ」
「年中一緒なんだぜ? 自分の背中が狙われることもねぇしよ! 良くねぇ?」
「良くねぇ。生活すんのに不便だ。第一、双子っていったらそっくりなんだろ?
同じ顔が後ろにくっついてるとか考えるだけで気持ち悪ィ」
「あー……、そういやそうだな。ククッ、妙にリアルな事言うじゃんか、サスケ」
「お前こそ今日は何だ。ずっと一緒だとかロマンチックなこと吐きやがって」
「別にぃ? 面白いかなって」
くすくす、とナルトが笑う。
俺の顔を眺めながらその悪賢そうな笑顔を称えた少年に、俺は目を細めた。
急に何を言い出すかと思えば、――ずっと一緒、だと?
――「ずっと一緒」。
たしかに嬉しいことなのかもしれない。
気付けば後ろに居て、いつでも手を握り締められて、いつでも声を聞けて。
――けど。
「そんなもんで産まれたらお互いの顔が見れねぇじゃねぇか」
急に言われた言葉に素っ頓狂な顔をしたナルトが、愛しくて愛しくて愛しくて。
思わず俺はその頭に手を回す。
俺の腕の中で抵抗もせず、くすくす笑うだけのナルト。
おかしいか、と訊いても、すぐには答えない。
「今日初めてのサスケのキザゼリフー。ニシシシ」
「最初で最後だ」
「うそこけ」
「本気だ」
「うそだね」
「なんで」
「俺がまたキザゼリフ吐く度にお前も言わなきゃいけないから。」
「……」
「じゃあまた云ってみよ。『そんなもんに産まれなくても俺達はずっと一緒』だってばよ」
「……んだよそれ」
「アハハ、今度は通じねぇか」
「……言って欲しいのか?」
「別にー。」
「……。帰るぞ。」
俺はまたこの“ナルト”に言いくるめられてむしゃくしゃして、腕からナルトを解放してからそう言った。
「アレー? 離しちゃうノー? 寂シイナー、サスケクーン」
「……気持ち悪ィ」
「ばぁーか」
今日二回目の「ばぁーか」。
きっと一生くっついているなんていうくらい幸せな響きは無いはずなのに。
なんてわがままなんだろう、恋に堕ちた“人間”というものは。
『二人じゃないとつまらない』だなんて?
それでも二人は『ずっと一緒』。
例えばの話。
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サスケ×スレナル ちょっとずつ慣れてきました。
でも本来のナルトを忘れそうで怖いわ。