「不死身のビーナス」
嫌な夢を見た。
俺の名前を必死に呼ぶ声、そして口元を隠し気味に黒服を纏った、見覚えのある顔。
そうだ! 俺の一番愛する男と――俺の一番憎む男が。
――サスケェ!
――愚かなる弟よ。
――やめろ! そいつから手を離せ……、
そしてその二つの声は、遠く、遠く、遠く……。
俺の視界はどんどん、赤く、赤く、赤く……!
ピピピッ、ピピピッ……。
妙に生々しく現実に引き戻してくれた目覚し時計を掴んで、俺はアラームを止めた。
あの映像は空虚なものであったはずなのに、胸の鼓動はまだ続いている。
まただ。最近何度、こうして悪夢から醒めただろう。
一番愛する男が、一番憎い男に殺されていく夢を。
ああ、想像するだけで苦しい。
何故、こんな夢を見るのか。
朝こうして起きて待ち合わせの場所へ向かえば、その笑顔を必ず見ることになるというのに。
否、いつも見ているから失う恐怖に駆られてこんな夢を見るのかもしれない。
あの完璧な笑顔をなくす拷問に比べたら、命を絶った方が楽なくらい。
今は失うのが怖いから。
「サスケくん、お早うー!」
時間に几帳面なサクラが一番に声を掛けてくる。
ああ、と曖昧に返事だかどうだかも怪しい呟きを返してから、周りを見回す。
まだ来ていない――。
勿論某上忍は来ない。此れで来ればいつもより早いくらいだ――そう思った瞬間。
「お早う、諸君」
「もう、お早うなんて時間じゃないわよ!」
「あれ? ナルトが来てないね」
「……」
サクラの言葉を無視して上忍の第一声はそれだった。
どうやらサクラは自分の言葉が無視されたことに少しむっとしたようだったが、
ナルトが来ない事には矢張り気に成ったらしい。
今までナルトが少し遅れるということはあっても、カカシより遅かったことは無かった。
「なんかナルトから言付けとかないの?」
あったら今頃こんな心配してねぇよ、とばかりに俺は眉間に皺を寄せた。
「そりゃないか……」
「珍しいわね、ナルトが待ち合わせ時間に来ないだなんて」
「……」
今朝の悪夢が頭を廻る。
『――サスケェ!』
『愚かなる弟よ――』
違う、関係無い! そんな事があってたまるか!
だが――、まったく無い、とは云い切れない。
「ん? どうしたのサスケ、そんな怖い顔して」
「サスケ君、どうしたの? 具合悪いの?」
「……いや。ちょっと急用がある」
そして俺は言うが早く、全速力で駆け出した。
-----------------------------------------------
相互リンク記念に久至様・円様に献上致しました。
-----------------------------------------------
差し上げ物なので続きが見たい方はどうぞ久至様・円様のサイトへv
⇒「裸電球」