「本音」







「ウサ公ー!」

 男にしては甲高い声が、木に当たり響いて、釣りを続けるキバの耳にも届いた。

「うわ、何てタイミングで来やがるあのバカ……。しかも煩くて魚が逃げる」

 キバが呟いたと同時に、無警戒な彼は心配そうな顔をしてキバの後ろに飛び出してきた。

「うわ、なんだよキバじゃん」
「気付くの遅過ぎ。お前、此所が戦場だったら死んでる」
「だってさぁ、ウサ公がまきびし踏んだまま逃げちまったんだってば……」
「ひっでぇの」
「俺じゃないってばよ!! 練習場に入っちまったみてぇなんだ」
「なら今、お前のこと大ー好きな奴が向こうの方に行ったから、知ってるんじゃねぇの?」
「はぁ? お前何言ってんだってばよ? 俺ってばそんなに誰かに好かれてんのか?」
「そうそう。好かれまくり。お前の班の黒髪エリートくんにさ」
「んー? なんでサスケ? 嫌われてるの間違いだってばよ」
「ビンゴー。だけど好かれてるのはホント。ま、訊いてみりゃわかんじゃねぇ?」

 たしかに、気になりはする。
嫌われているより好かれている方が遥かに気分が良いけれど、よりによってあのサスケが?
ただ、安直に訊くのもどうか。『俺のこと好きか? 嫌いか?』なんて。

 かくして彼の『ウサ公探し』は、サスケ探しとなった。
とくに呼んだりはしないが、ナルトの眼は真剣そのものである。



 その頃サスケは水を取り終えて帰る途中、足元に迷い込んだウサギを見つけていた。
血の滲む足を引き摺っている。どうやら忍具で足を痛めたようである。
別に放っておいてもバチが当たりはしないだろうが、目の前でみすみす血を流して死なれるのはどうも気分が悪い。
 チィ、と舌打ちをしてウサギを抱き上げようとしたその瞬間。

「サスケェぇぇえーッ!!!」

 ……は?!
 サスケは心臓が止まるという貴重な体験をした(最も二回目だけれど)。

「あ! ウサ公! サスケ! あ、えっと!!」
「落ち着いて話せ」

 ウサギにも反応した事から、どうも当初のナルトの目的は怪我した兎を追うことだったようだ。
だが、何故俺の名を?

「あのさ、あのさ、サスケってば……その、俺のこと……好きなの?」

 サスケはやっぱりな、という顔をして、意外と冷静に切り返した。

「キバから聞いただろう」
「え、うん……」
「……だったらどうする?」
「え?」
「俺が本当にお前のことを好きだったら如何するつもりだ」
「えっ……どうするって……どうって……」

 ナルトは真っ赤になって黙った。答えに迷っているのは明らかだ。
横から川の流れの音がやけに大きく聞こえた。暫く続く沈黙。

 肝心のサスケはといえば、ナルトを見据えたまま微動だにしない。
それに比べ金髪の彼は、もじもじそわそわと落ち着かない。
まだ答えが見つからないらしい。

「別に、良い、ってばよ……」

 やっとその彼が絞り出した言葉は、曖昧に空中へと消えて行った。
サスケが直ぐには反応しなかったからだ。

「何が良いんだ?」
「え……! だから、お前が、俺のこと好き、でも。」
「本当だな」
「……?!」

 サスケはふぅ、とため息をついて、一度だけ眼を伏せると、直ぐに開けてナルトと向き直る。

「フン、んなわけあるかウスラトンカチ」

 サスケの一言に、ああなんだそういうことか、とばかりにナルトがほっとした表情を作り出す。

「そ、そうだよな。男同士だしさ! あのさ、あのさ、俺ってば、ちょっと誤解してたってばよ」
「何が誤解だったんだ?」
「? 変なサスケだな……だから、俺ってば恋人みたいな『好き』だと……」
「それだ」
「は?」
「お前が死ぬほど好きだっつってんだ」

 サスケはぽかんとしているナルトの足元のウサギを捕まえ、足に刺さったまきびしを取って
てきぱきと応急処置を施した。全てはナルトが何も喋れない内に行われた。

「そろそろ日が暮れるぞ。ウスラトンカチ」

 最後の七文字が言われるか言われないかの内、ナルトはみるみる耳まで真っ赤になった。
先程のサスケの言葉を理解するまで、丸々一分以上掛かったとうだ。


 そしてサスケはフッと見えなくなり。
 あとには、幸せそうにナルトの足元で眠るウサギと、真っ赤になって今にも湯気の出そうなナルトだけが残っていた。






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ハイ、「釣りをする人」後半です。とうとう告白しちゃいましたね。
やっとサスナルぽくなりましたか? うおーまた短い。
どうも「釣り」ってキバのイメージがあって。絡めたかったんです。