「ガードレール」







 よし、ガードレールの上、坂の下まで歩けたら明日サクラちゃんとデートできる!
大声で叫んだ金髪の彼は、白く細いガードレールの上に飛び乗った。
ガードレールのちょっと反り返った部分に、土が付いて落ちた。

 彼にはまだ少し大きめの学ランは、ズボンの裾を踏みそうでハラハラものだ。
もう既に砂で薄汚れたシューズをぐらぐらさせながら、彼は器用に両手でバランスを取って歩く。
 ガードレールの上の部分が円柱のようになっていたのが幸いというか不幸というか、
そうでなければ彼はそんなことを思い付かなかったであろうに。
表情は生き生きとしていて、とてもではないが邪魔をする気にはなれなかった。

 まったく見ていて飽きないというか、危なっかしいというか。
ナルトの半分以上はきっと好奇心で出来ているのだと俺は確信した。


 これからガードレールは、夕陽の沈む地平線の見える坂道を下ってゆく。
まぶしい。夕陽に向かって歩いているような感覚。
 だけれどそれ以上に。五十センチくらい一気に身長が増えた、隣の金髪野郎がまぶしい。
落ちそうではあるけれど、手が足が必死に落ちるのを抵抗している。
右に左に揺れながらバランスを保っている。なかなか器用に渡っていく――。


 落ちろ、落ちろ……。

 俺は密かに眉をしかめて、ナルトの危なげな足元を睨んだ。
 別に彼がこのガードレールを渡りきったとて、サクラがナルトを気にする筈もあるまいに、何故か。
ガードレールを渡って行くのを、彼はあまりに嬉しそうな顔をしているもので。
まるで、この細い道が彼女の心へ続いているかのように。

 続いていないのに。そんなの。

 あまり良い気分ではなかった。折角、久し振りに下校時間が同じになったというのに。
 いつもそうだ。サクラちゃん、サクラちゃんと現を抜かすナルトを見て、何故こんなにむしゃくしゃするのか。

 車が一台大きな音を立てて隣を走り去った。静かな夕暮れ時なので辺りに音が響く。
その風でナルトの髪がふわり、と持ち上がる。
眼に掛かった前髪をまた、右手でかきあげると、ナルトはガードレールに乗ったまま伸びをした。
 金髪が夕陽に反射してキラキラと輝いている。
こんなにオレンジ色の視界の中で、変わらないその碧眼が、嬉しそうに俺を見る。
痛々しげな頬の傷も、今ではナルトのトレードマークだ。


「なぁサスケ、」
「何だ」
「誰か好きな先生居るー?」
「いや……特に」
「珍しいなお前も。でもさ、でもさ、間違っても担任の片目銀髪は好きになれないってばよ」
「カカシか?」
「うわー、もう呼び捨てだってばよ。うん、でもそう」
「実力は認める」
「でも容姿とセンスはぜってー認められねーってばよ!」

 そういってナルトはガードレールの上を走り始めた。

「あんまり調子に乗るなよ、ウスラトンカチ」
「へへーっ、平気だってばよー!」


 平気だってばよー、と叫んだ瞬間、ガギンと嫌な音がして、ナルトの駆け出した右足は道路側に飛び出していた。
よろけながらも右足を道路に着地させ、続いて前のめりになったのを、左足を出す事で防いだ。
全てが一瞬の出来事で、俺も驚くやら呆れるやら心臓がばくばく鳴るのを止めるのに必死になる。

「わっ、とっ、とォ……! あっぶねぇ!!」
「だから言ったんだ……」
「だってさー、一気に降りた方が気持ち良いじゃん!」
「乗ったこと無いからわからん」
「サスケも乗ってみろって! 夕陽がもっと見えて――ってもう沈みかけてんな……」
「まぁな」

 残念、といった調子でナルトは名残惜しそうに、オレンジと紺色のグラデーションを奏でる空を仰いだ。


「じゃ、そろそろ帰るってばよ。早く行かねぇと一楽のラーメン、味噌がなくなっちまうんだ」
「今日もラーメンかよ」
「毎日ラーメンだ」
「……野菜食え」
「嫌いだもん……」

 あはは、と笑ったナルトがはっと思い出したように叫んだ。

「あぁぁーッ!! ガードレールから落ちちまったから、明日はサクラちゃんとデートできないってばよ……」
「……」
「……まーいいや。背ェ高くなっていつもと違うサスケに見えたし」
「あ?」
「上から見るのって案外楽しいんだぜー」
「元悪戯小僧の発想だな」

 それを聞いたか聞かずか、ナルトはじゃあなーサスケ!と大きく手を振って走り出した。
おう、といつものように返事をして、ナルトの小さくなるのを眺める。
全くスタミナだけは人の何倍もあるんだからな……。



 一番星が見える。ガードレールに乗ったところで星は近くなんかならない。


 でも、“上から見るのって案外楽しいんだぜ”というナルトの心境に、ちょっぴり近づけたような気は、した。






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学生サスナルです。学園パラレル? 良いよね学生。
因みに中学生辺りが良いかなと。(笑)