Thief Panic?
新しいクラスにようやく落ち着いて――と、筋書きはそううまくも行かないみたいだ。
なにしろ、“新シイクラス”は一年生の始めに体験しているものだから、
今度は慣れてからのクラス替えなのだ。
人見知りしてしまうのが人の情ってやつなのだろうな。
あのガラス事件以来、前のクラスには何の異変も無く、むしろみんなが仲良く(?)過ごすことが出来た。
去年よりいくらか早い桜前線が、卒業式や入学式や進級に花びらを散らせてくれなかったのだけど、
ユリちゃんのマインドはまだ春らしい。
誰もが浮かれる恋の季節だと、何故か春のキャッチフレーズにはそう記されていることがある。
私がそれに言い訳を付けるのは負け惜しみにしか聞こえないのだが。
でも、反抗したいときがある。
誰もが恋愛をしたいと望んでるわけじゃない――男に興味が無くて何が悪いんだ?
無いもんは無いよ。――あぁ、失礼。話がそれました。
とにかくまぁ、世の中の女の大半は恋愛だ何だって――。
別に邪魔したいわけじゃないけど、春イコール恋の季節って結び付けては欲しくないと思う。
春の授業。
やっぱ、春イコール眠気じゃないかしら。
あの蛍光灯の微妙な明るさと、黒板に叩き付けてる爽快なチョーク音が、私の瞼を閉じに来る。
ガタタッ、ガタタッ。
んぉ? 工事音?
違う。どうももっと近くから聞こえる。
その奇妙な音に、先生も顔をしかめる。
「何でしょう、今の音は?」
みんながザワザワと上を見上げる。
ガタタッ。
なんだ。暖房だ。このポンコツエアコン、さっきから故障寸前に騒音立ててるのか。
そしてそのとき、ガガガ、と工事音がした。
工事音と暖房の騒音は、微妙に違うような気がした。
みんながホッとした表情を浮かべて、再び授業に専念した。
数週間後。
今日の四時間目、私にとっての地獄の時間――体育が終了した。
次は、授業の中で一番実用的であり、一番楽しい時間が待っている。
授業じゃないのかもしれないけれど。
そうさ、お弁当だ。
「鍵当番、今日は誰?」
鍵当番と言うのは、教室移動の際、生徒の貴重品が盗まれないように教室に鍵をかける人の事だ。
もし忘れたりすれば、教室は出入り自由、貴重品なんか取り放題だ。
鍵当番は重要だった。
ガララ。
「ちょ、開いてるじゃん! 誰よ、今日の当番ッ」
気の強い子が無理矢理抉じ開けようとすると、いとも簡単にそのドアは開いた。
拍子抜けして、みんなが開いていたんだとばかりに教室に入ろうとする。
先頭の子が立ち止まったので、数人がゴツンと前の人に頭をぶつける。
「何で止まるの?」
全員が教室に入ろうとして、その場の空気は凍りついた。
まず、窓が一つだけ開いていて、カーテンも窓ガラスも汚れていた。
無惨にも机は、真ん中らへんから開いている窓に一直線に、道を開けるように倒れていた。
倒れた机からは教科書や筆箱がバラ蒔かれている。
爽やかに揺れるカーテンも、無気味にしか見えなかった。
「……泥棒……?!」
ヒュゴオ、といつもより強い風が吹いた。
「せんせぇえぇっ!」
数人がバタバタと廊下を走って、悲鳴を上げながら職員室に向かった。
「は……鉢巻だけ置かせて」
誰かが苦笑いをしなから教室に入ろうとする。
「ダメだよ荒らしちゃ!」
ユリちゃんが制する。
「わかんなくなっちゃうじゃん!」
またドアの前に固まっている全員が無口になった。
近くの駐在所の御巡りさんが現場の検証をする。
みんなが、先生に現場を荒らさないように荷物の検査をするように命じられた。
誰も盗まれた貴重品などを見つけることは出来なかった。
つまり、誰も何も盗まれなかったということだ。
私のカバンには、モノの配置のズレや異変は見つけることが出来ない
(その前にどういうモノの配置だったか憶えていなかった)。
二時間目にもらった最悪な小テストも盗まれていなかったし――、
マンガも盗まれていなかったし――。
え? イケナイもの持ってきてるって? いいんだよ気にするな。
財布もあるし定期券もあるし、大好きなゲームの会社の懸賞で当てたカードもあるし。
ギタルマンです(笑)当たったんです。
「……ッハァ……! ど、どうしたって?」
伊藤先生が、息を切らして走ってきた。
いや、どうしたってアンタがどうなったんだ、とその場の全員(ユリちゃんを除く)が思う。
「あの、泥棒が入ったらしいんです――」
イベント好きの子、池田さんが答える。
席がドアに一番近かったこともあって。
「……何か盗まれたのか?」
「いえ、誰も何も盗まれてないんです」
伊藤先生は心底ホッとした表情と、そうか、という短い掛け声を残した。
そして、チラリとユリちゃんの方を伺った。
ユリちゃんは直ぐに気付いて、照れたように笑った。
伊藤先生はユリちゃんより数倍照れたように笑顔をユリちゃんに向けて発した。
そして、ちょっと急いで去って行った。
クラスのささやかな笑いとざわめきが、伊藤先生の背後を追う。
「ねェ、今、ユリちゃんに向かって?」
小声でヒソヒソ、私はユリちゃんに尋ねた。
「うんっ」
語尾に思いっきりアクセントとハートを残して、ユリちゃんの瞳は幸福に輝いている。
ダメだこりゃ。
もう一度、現場の様子を確かめてみよう。
先ず、窓は一つだけ開いていた。鍵が掛かっていて、鍵の横にはガムテープが貼ってあり、
そこからガラスはヒビ割れていた。
つまり犯人(?)は、ガムテープでガラスの割れる音を防ぎ、
そこから手を入れて鍵を開けて侵入したってコトか。
で、教室の真ん中当たりまで歩いた。
でも、人が来たのか見つかりそうになったのか、そこから一直線に窓に向かって走った跡がある。
よっぽど急いでいたのか、一直線上の机を幾つかなぎ倒して行ったらしい。
御巡りさんがちょっと気がついたように周りの生徒に聞く。
「ねぇ、あの音って何?」
「え? 音?」
「あの――ガタタっていう」
「あぁ……暖房だよ。なんか壊れ気味で――」
「……ほぉ、暖房か」
御巡りさんも私が考えた辺りまでは把握していたらしい。
先生が緊急職員会議のために職員室へ一時戻って行った。
ガタガタガタ!
「うぇえ!?」
一番廊下側の後ろの机が音を立てて揺れた。
誰かが揺らしたのか? 違う、誰もいない!
「あ……っ、ゴメン……私のだ」
池田さんが、机の中から携帯電話を取り出した。
みんなの中に笑いが起こる。
「げっ……しかもバイブモードになってるよぉ……あ、誰か電話掛けたのかな、発信者通知がある」
ユリちゃんが口を挟む。
「ね、それ、何時何分になってる?」
「え? ……えっと……十二時二分……」
「それだよ!」
「……?」
ユリちゃんが自分の推理を披露する。
「犯人が教室に入ったのは十二時ちょっと前とかそれくらいじゃない?
慎重に侵入したのは良いんだけど、暖房のガタタっていうのと池田さんの携帯のバイブに驚いたんだよ。
だからすごくビックリして一直線に窓から逃げた。……違うかなぁ?」
「な、るほど……」
そういうことだったんだと、みんなが納得する。
たしかにそんなことが起こったら普通にはしていられないだろうな。
数日後、犯人は刑事さんに捕まった。
教室の床に靴の跡が付いていたこともあって、そいつと犯人像はピッタリ一致した。
暗闇の中、ガタガタと机を揺らしている人がいて、とても怖かったと犯人は語ったらしい。
私としては結構面白かった。
いや、何も盗まれたいとは、思わないけど。
<<BACK
† 555Hitに彩。サマに差し上げました。リクエストは「推理×恋愛」 †