Second Date +Youth+
遠足で海へ行くっていうのも何だかポピュラーだけれど、意識して海へ行ったことが無い私には少し楽しみ。
子供っぽく騒ぐのは性に合わないし、別に、とよく話をはぐらかしてはいたけれど。
私は遠足の話に成るたびに、まだ見ぬ海を思い描く。
「あぁ〜っ、カズちゃんと海で青春、ってできたらなぁ」
ユリちゃんはただ今、完全版夢見る少女。
今の彼女にはどんなけなし言葉も意味を成さないのであろう。
「青春ってなにさ……?」
胡散臭そうに尋ねる萌ちゃんに、ユリちゃんは速攻で返す。
「決まってるじゃない! 海辺を二人で走るのよ」
「何の為に?」
「鬼ごっこー!」
さもそれが当たり前のように。
彼女の空想の世界には、絶対に入りたくないと心の底から思う。
「……ダサっ……」
そっと悪態を突いた私に、ユリちゃんは目を輝かせて屈託の無い笑顔を向けた。
いつもなら、なによう、と怒って私にドツいているところなのだが。
「まっ、キリには解らないでしょうけど?」
「解りたくも無い……」
諦めと呆れと、それからまだ悪態を突いている気持ちが入り混じった微笑を、私は露骨に浮かべてみる。
それに気付いたのは萌ちゃんぐらいだったと思うのだけど。
――でも――。
本当に、“青春”てなんだろう。
雨の中を走ったときも、萌ちゃんと二人で青春だとフザけ合った。
ユリちゃんは海辺を走ることが青春だと妄想している。
気にすると段々、酷く気になり始めて。
私は試し半分にパラリと辞書をめくった。
――青春。
若い時代。人生の春にたとえられる時期で、希望を持ち、理想に憧れ、異性を求め始める時期。
五行説で「青」が春を表す色だから言う。
へェ。
私は言葉でつらづらと書かれた文面を眺めて、ため息をつく。
成るほどね、人生の春、か。そりゃ納得できるといえばそうだ。
たしかに、今のユリちゃんはどれにも当てはまっている(特に理想に憧れるのと異性を求め始める部分が)。
でも――。
いつもの否定的な、私のマイナス思考が邪魔をする。
何だかしっくり来ないなぁ――。
遠足前日の夜になって、母さんが念を押す。
「明日。遠足でしょう」
「あー……、そうだったっけね」
そう、そうなんだよ、と言いたい気持ちを必死に抑えて、私は気の無い返事をする。
「支度したの?」
「……したよ……今頃やってたらやばいでしょうが」
海かぁ――私は椅子の背もたれに寄り掛かる。
家の近くには川が流れているけれど、小さな谷の小さな川だから、とてもじゃないけど海に見立てるのは無理がある。
しかもその水は一方向にしか流れていないから、引いたり満ちたりの海とは絶対に違うのだろう。
早く“海”が見たい――思いは募るばかり。
「どうしてバスに乗った瞬間寝ちゃうわけ?」
本当に偶然、隣の席だったユリちゃんが、首をカクンと前に倒した私を揺り起こす。
仕方ないだろう? 昨日の夜は海が見たくてあんまり眠れなかったんだから。
「ドウシテバス内デ寝カセテクレナイワケ?」
私は今のユリちゃんの言葉をそっくり返還する。
頼むから寝かせてくれ! 私が海で倒れてビシャビシャになっても良いのかっ!
……あぁ、別にいいのか。
ユリちゃんが暑いといって開けた窓。
刹那感じる潮の匂い。いつかもこんな感じで、ふと匂ったんだっけ。
私はどうも懐かしいものは駄目だ――。
意外と詩のネタ探してる、変な中学生なんだなぁ、と私は今更になって思う。
目の前には、真っ青とは言えないけれど、静かな海が広がっていた。
「ユリちゃんのお待ちかねじゃん、青春の自由時間」
意味がまだあやふやなのにそんな言葉を使いたがるのは、私のちっぽけなプライドのせいなのか。
「うんっ。カズちゃんとこ、行ってくる」
私が萌ちゃんとずっと一緒にいるのは、ユリちゃんの青春とやらを見せてもらって、二人で笑うって寸法だ。
ユリちゃんがバシャバシャと駆けて行く。
その拍子に、私の白いサンダルと萌ちゃんのフォレストグリーンのサンダルは泥を被る。
心なしかズボンも濡れた気がする。
「だぁッ! なにすんの新品に!」
萌ちゃんが少し悪態をついて、カズちゃんに近づきながらスピードを落とすユリちゃんを眺めた。
ユリちゃんが楽しそうに、そして少し恥ずかしそうにカズちゃんに話しかける。
話し掛けられる前は足首まで水に漬かって、いかにもたそがれている感じのカズちゃんだったが、
ユリちゃんに話し掛けられて、視線を落として嬉しそうに振舞う。
こういうときのユリちゃんは、この上なく楽しそう。呆れるぐらい楽しそう。
なんだかなぁ。
私は、少し目をそらして、相変わらず同じ運動を繰り返す波を見る。
奥まで行ってみたかったけれど。海の、奥底、深く深く。
暫く彼等は話し合っていた後。
いずちゃんやミカちゃん達数人がカズちゃんとユリちゃんの会話に加わり始めた。
ユリちゃんは何か伝えた後、笑顔でその人達に手を振った。
案の定、ユリちゃんは私達二人のところに戻ってきた。
「あぁ、青春はやらなかったの?」
「うん……」
戻ってきたユリちゃんは何だか怪訝そうな顔をしている。
「あれェ? いずちゃん達が来たからヤキモチ?」
「違うの……」
いつもは頬を赤らめて突っかかるけど、ユリちゃんは次に少し視線を落とす。
「なんかね。遠くばっかり見てるの、カズちゃん」
「……はァ?」
意味がわからなくて、聞き返す。
「最初話し掛けようとしたときは、空よりもっと――もっと遠くを見てたの。だから焦っていろいろ話し掛けたんだ。
別に態度が変だったってわけじゃないんだけどさ。
なんかね。目が。目が遠くを見てた」
まだいずちゃん達と話してるカズちゃんを眺めて、ユリちゃんがそう言った。
「うっわ、臭っ……どうせ変な事考えてぼーっとしてただけだよ……」
冷やかす萌ちゃんと一緒に、私はあははぁ、と苦笑いをする。
大笑いできなかったのは、遠くばかりを見つめる好きな人が無性に心配になる気持ちが、わかるような気がしたから。
帰りのバスの中、私は一人考え事をする。
疲れきった生徒達はもう寝てしまっているから、バス内は異常に静かだった。
青春、ってさ。
何も好きな人がいる状態そのものを指すわけじゃない。
若い時代だったら今だってそうなんだから、若い人が必ずしも恋の感情を抱いているとは限らない。
だったら――。
青春は――。
お互いのことが不安で、でも好きで。
何だか不安定な状態のこと、言うんじゃないかなぁ。
だから、確かめ合うんだ。
“青春”の言葉を借りて。
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† 1500Hitに、VAMPIREサマに差し上げました。リクエスト「舞台は海、セカンドディト」 †
ユリちゃんのモデル本人さんには不評でしたこの話(苦笑) そんなに嫌いデスカこの話(笑)
いや彼女俺がクサいの書いたからイヤだったらしい。。