A Rival In Love
“あの”デートから一年経った。
クラス替えがあって、いろいろな人と別れてしまった。
でも、何故だか私とユリちゃん、それに萌ちゃんは一緒のクラスだった。
嬉しかったからいいのだけど。
ユリちゃんの恋が終わる気配も無く、いつまたボディーガードをやらされるかと私は冷や冷やしていた
(担任が伊藤先生でなかったことにユリちゃんはかなりの不満を感じていたらしい)。
新しいクラスに微妙な緊張感が流れ、だれも同じクラスだった人としか話そうとしない。
家は近い? などありきたりな会話しかなく、おまけに質問と返答の数秒で終わってしまう。
慣れるまではずいぶん時間がかかるのじゃないかと思う。
「ねぇ、どの先生が好き? あたしは伊藤先生が好きなのっ」
粘り付くような、お世辞にも聞いていて良い気分ではないような声が聞こえてきた。
内容からして、質問された方はたまったもんじゃないだろう。
「だってわかりやすくて、なんかかっこいいでしょ?」
どの先生が良いかとか自ら聞いてきたくせに、自分の好みをベラベラと列ねていた。
流石に聞いていない振りをしていたユリちゃんも、そちらの方をチラリ伺った。
「え……とォ……私は……佐藤先生かな……」
「へーぇ。伊藤先生は? 嫌い?」
席の場所からして、あのフザけたことをくっちゃべっているのは(少なくともユリちゃんはそう思った)、
三橋愛子【みつはし あいこ】さんのようだ。
ユリちゃんが軽蔑と恨みの視線を送っているのを見て、私も萌ちゃんも吹き出さずにはいられなかった。
「……クククッ……どうよ、ライバル出現のご感想は?」
二年生になったばかりのときに有るガイダンスが終了して、私もユリちゃんも帰路についた。
「キリったら怒ってる私見て笑うだけなんだもーんっ、フォローしてくれても良かったじゃない」
ユリちゃんはそっぽを向きながら話す。
「言っときますがね、うちはキミタチの恋のキューピッドじゃないから」
「それはわかるけど」
「わかるんだったら言うなよ!!」
「でもさ、三橋さんって自己紹介でも嫌われてるって雰囲気じゃなかったよね?」
「……」
ユリちゃんは考え込んでしまって、何も喋らなかった。
「大丈夫だって! あのテのベラベラ女は嫌われ者が殆どだから」
根拠の無い私の論理でユリちゃんを元気付けようとするが、彼女は一向に顔を上げる気配が無い。
ところがどっこい。
三橋さんはかなりの人気者だった。
落ちたものは拾ってくれる、誰にでも笑顔、まさに好青年の女バージョンだった。
「でもこういうヤツってバカだから!」
またしても根拠の無い話を持ち掛けるが、それも数日後破られることになった。
国語のミニテスト、彼女は百点を取ってしまったのである。
ちなみに私は九十六点だった。たしか萌ちゃんも同じ点数。
帰り道、彼女はこの上なく落ち込んでいた。
「……二点も負けた……」
「あんたねェ、私に勝っといて贅沢言ってんじゃないよ……」
九十八点で落ち込むユリちゃんが、私にはイヤミの姿にしか見えない。
「どうしよう……私じゃ勝てない……」
「……勝つ負けるの問題かい……私には二人ともスゴイ人だと思うけどなぁ」
「誰と、誰が?」
「だから、ユリちゃんと、三橋さん」
「……スゴくないよぉ……」
それきりユリちゃんは無口になってしまった。
「今日なんでしょ? 伊藤先生の誕生日」
「うん……」
「渡すんでしょ? 何か」
「……うん」
「――まだアイちゃんのこと気になってるの?」
「……」
「ライバルになればいいのに」
「……」
「とにかくさ、渡しちゃおうよ」
私が促して、いざ職員室に入ろうとすると、他でもない三橋さんの声が聞こえてくる。
今、一番聞きたくなかった声なのに――私もユリちゃんも目の横を引きつらせた。
我慢しても目の横が痙攣してしまう。ピクピクピク。
「せんせぇっ、誕生日おめでとぉ」
「おぅ、どうもありがとう」
受け取る伊藤先生はなんだかうれしそう。
私は心の中で伊藤先生を侮辱する。
――バカだ……アヤツ……それ以外の何者でもないわ――
「あれぇ、キリちゃんとユリちゃんだ。あっ、じゃあね!」
職員室から出てきたアイちゃんが、何の悪びれもなしに挨拶して通っていく。
「あははぁ……」
私もユリちゃんも、「引きつった笑顔」でしか見送れない。
「渡すの……やめようかな」
「まだ先生が心変わりしたわけじゃ無いじゃん、渡しなよ」
「……うん」
ためらいがちに入って行ったユリちゃんを見ながら、私は息を飲んで見守る。
はたから見たらストーカーじゃないか。
「カズちゃん、これ、誕生日おめでとう」
沈黙が流れる。
――何だ? 何でここで沈黙?
ぎょっとした私が片目を出して覗くと、伊藤先生は信じられないというような顔で固まっていた。
――そんなにユリちゃんからのプレゼントが意外か?
「あ……っ、えっと――そ、の、ありが――とう」
――何、無茶苦茶動揺しまくってんだよ……。
私から見れば、耳を赤くしてプレゼントに動揺している男教師なんて馬鹿らしい事この上ないが、
ユリちゃんはそれでかなりの満足度を得たようだ。
さっきよりはうれしそうな顔でユリちゃんが出てくる。
「喜んでもらえた?」
「まぁね」
――いや、あれは喜び過ぎてハイテンションだぞ?
「アイちゃんに勝ったと思う?」
「うーん……どうだろ。カズちゃんによる」
伊藤先生の横を、佐藤先生が通りがかる。
「良かったですね、生徒達にプレゼント貰えて。嬉しかったんじゃないですか?」
「あぁ、まぁ……」
伊藤先生が照れながら答えた。
カシャン。
「あ……」
ユリちゃんのシャープペンが机から転がり落ちた。
「ハイどうぞ」
アイちゃんがそれを拾ってユリちゃんに渡してくれる。
「あ、どうも有り難う――」
「ううん」
「あ、あの――!」
ユリちゃんが思いついたようにアイちゃんを引き止める。
「ん?」
「……聞いても良い……?」
「うん。どしたの?」
思わずユリちゃんが立ちあがる。
「……あのさぁ……好きな人、いる?」
「あぁ――うん。いるよ?」
「……誰?」
「小学校の頃の男の子でねー、勉強も運動も出来て格好良かったんだー!」
「「 へ? 」」
私もユリちゃんも素っ頓狂な声を上げる。
「いっ――伊藤先生じゃ無いの……?」
「あれ? 私、そんなこと言ったんだっけ?」
「……」
「うーん、伊藤先生は好きっていうか――そうだなぁ、男の先生の中ではって感じかな。
でも男の先生だったら田渕先生の方がカッコイイよね?」
「へぇー……」
「ん? で?」
「あっ、いや、別に……いるのかなぁって……!」
「ふぅん。――じゃね!」
笑顔でアイちゃんが行ってしまってから、私もユリちゃんも目を丸くして顔を見合わせる。
「違うってよ。ライバルじゃないって」
「良かったぁあーっ!」
ユリちゃんがはぁーっとため息をつく。
「ん? でもさ、ガイダンスで聞いた声と今のアイちゃんの声って違わない?」
「……あ……」
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