□ PROLOGUE □

いつ現れたのか
どこから来たのか
そこには小さな男の子が立っていた。
珍しく雪の降る日だった。

その子の名はギルティ
生きながらにして有罪の烙印を押された、
愛を知らない悲しい子だった。


生きる理由が見つからない――
ギルティは絶望の淵に落とされて――


悲しみしか持たないギルティに
ある日
空から女神が降ってきた……









 ソルガ村は、冬になっても雪があまり降らない土地として有名だった。しかし、今年は何年ぶりかの極寒の寒さが観測されていた。すでにこの時期、クリスマスはとうに過ぎていて、今までの明るい村の一色も、ゆっくりと新しい年を迎えるための準備を始めていた。
 午後になると、さっきまでの太陽はすっかり隠されて、どんよりしたグレーの雲が空を覆った。そして、間もなくちらほらと雪が降り出した。

「まぁ、今日は特別寒いと思ったけど、雪が降るなんてねぇ」
「困ったわね、うちの子ったらコートも着ないで学校に行ったのよ」
「寒いわね。そろそろ家の中に入った方が良いかもしれないわ」

 外にいた人達は、少々驚きはしたが、誰ともなく家の中に入っていった。人通りはどんどん少なくなっていった。
 やがて夕方になり、人通りはすっかりなくなった。家の灯かりが窓から外に漏れ、中からは楽しそうな声が聞こえていた。

 さくっ、さくっとかわいい音がしたかと思うと、橋の上に小さな男の子が現れた。まだ五、六歳くらいなのであろう。華奢な身体や端整な顔立ちは、見る者全てに「かわいい」の印象を与えるものがある。しかしながら、その子はコートもなければマフラーや手袋もしていない。着ているものは半そでのシャツとダブダブの長ズボンだけだった。
 彼には、父親の顔も母親の顔も記憶になかった。

コンコン

 寒さに耐え兼ねてか、彼は家のドアをノックした。

「はーい」
 明るい女性の声がして、あとから続いて彼と同じくらいの男の子の声が響いた。
「ママぁ、誰?」
「あら? どうしたの坊や? こんなに寒いのにそんな格好で」
「迷子……なんじゃないのか? 入れてやれよ」

 びっくりされる。それはそうだろう、寒空の下半そで色白の男の子が尋ねてきたら誰でも驚く。
「とにかく、ちょっと入って、身体を温めておいき」
 その一家は彼を迎え入れてくれた。

「キミ、名前は?」
「……ギルティ」
「お父さんとお母さんは誰?」
「……知らない」
「おうちは何処にあるの?」
「……知らない」

 家に入れてもらうと必ず聞かれるこの言葉を、ギルティは素っ気無く当たり前のように答えた。彼自身も、あまり親のことや自分の生まれ育った家のことを深く考えたことはなく、その答えを返すのも慣れてきてしまっていた。
「スープが出来上がったところだから、みんなで食べようね」
「じゃあ、今夜は僕のベッドを貸してあげるよ。羽毛の布団は温かいよ」

 その家の人達は、心優しい人ばかりで、ギルティに温かい言葉をかけてくれた。彼は、初めてそんな人達に出会えた、と思った。

 ――こんなに優しくしてもらえたのは初めてだな。どうして優しくしてもらうと嬉しくなるんだろう……?

 その晩、ギルティは温かいベッドの中で、隣の部屋から聞こえる家族の談話を聞いていた。

「――どうしたらいいと思う?」
「このまま家で引き取るわけにもいかないでしょう?」
「それは無理だな。もう一人養うことなんかできない」
「でも……可哀想じゃない」
「じゃあお前は家が破産しても良いというんだな? 何処の子なのかもわからないのに」
「そういうわけじゃないけど……」

「明日になったら役場に行って聞いてみよう」
「……それがいいわね」

 ギルティは確信した。自分はここにいてはいけないのだと。何処に行っても自分は嫌われるのだと。
 ギルティはベッドから跳ね起きた。そして、音もなく窓に忍び寄り、静かにその窓に手をかけた。シャー、と厳かな音を立てて窓は開いた。ギルティはそこからそっと外に出た。今度は靴も履かずに。

 自分はここにいてはいけない、という追い詰められた気持ちだけが、彼の足を前へと走らせた。

 ――やっぱりだめなんだ。僕は生きていても仕方ないんだ――

 ギルティは走った。どこか遠くに行ってしまいたくて。もう自分ではいられなくて。こんなに切ない気持ちにかられたなんて、自分の存在を知って以来じゃないかな、とギルティは思った。

 どれだけ走りつづけただろうか、ギルティはもうヘトヘトに疲れていて、一歩足を踏み出す毎に身体がどんどん重くなっていった。そして、周りの景色は見たことのないものばかり。

「もう……歩けない」
 ギルティはそっと、橋の欄干によじ登った。そこから見える河は、真っ黒な怪物のようで、もう表面は凍り始めていた。
「ここから落ちたら、僕は凍って死ぬんだろうな……」
 ギルティがゆらりと後ろに傾いた時だった。
ドカ――――ン!! ……どさっ

「……!?」

 大きな音がして、橋の真ん中当たりに白いものが降ってきた。それが何なのかは、近づかなくてもすぐにわかった――女の子だ。
 ギルティはぽかーんとしてうつ伏せになった女の子を見つめた。死んでいるのか……?

「いたた。どうもアスファルトって慣れないわ」
「!?」
 女の子が起きあがった。……生きていたらしい。いや、それどころかギルティを見てにこにこしているではないか。ギルティのように、この寒空の下、純白のワンピースで半そでだった。そして、見ているだけでも寒いのが、彼女が素足だったこと。

「君は……誰?」
「あたし? 女神。まだ見習いっ子だけど」
 “女神”と名乗った女の子はさも当たり前のようにそう言い、服についた泥や雪を払い始めた。……ん? 女神? 女神に見習いも一人前もないんじゃないか? ギルティはさらに怪訝そうな顔で女の子を見つめた。
「まぁ、こっちの世界の人には信じてもらえたことないんだけどね。あはは、実は着地に失敗しちゃったのよ」
「……君はなにか、その……"こっちの世界"に用があってきたのかい?」
「あら、用もなにも、あたしはあんたに用があって来たんだから」
「……僕に?」
「そうよ、そう。忘れるところだった。あんたったら今、死のうとしてなかった?」
「……はぁ?」
「あれ? あたしの思い違いかなぁ……この橋から降りようとしたように見えて」

「……僕は生きていても仕様がない人間だから。今日も除け者扱いされて……ねぇ、君が女神なら、僕がどうしてこの世に生きていなくちゃいけないのか、知ってるはずだよね?」
「……」
「どうしてこんなにまで辛い思いをする人間と幸せになる人間の差が大きいの?」

「あたしが知るわけないでしょ」
「……はぃ?」
「あたしはまだまだ習うことがいっぱいある。見習いっ子だって言ったでしょう? 一人一人のそういう疑問に答えるのは大変なの」
「……?」

「でも――あたしには夢がある」
「……夢……?」
「いつかお母様のように正女神になること。これからもっと勉強して、この世界の人全員を幸せにするんだから」
「……!」
「最初から不幸な人間や幸福な人間なんて決まっていなかった――人間自身が自分の幸不幸を定めたのよ――それなのに人間ったら、不幸になったのは神のせいだって決めつけたり、私を幸せにしてくださいなんて願ったりしてさ。いい迷惑よね」
「……!」
「だからね、あんたも夢を見つければいいんじゃない? 夢を見つけるために生きてるってのもロマンチックよ」
「夢を……見つける……?」
「マイナス思考で死のうとか言い出すよりよっぽど良いわよ」
「……うん……」

「そろそろ戻らなくちゃ。あたしも勉強しないと怒られちゃうから」
 女の子の身体が透明になってきた。ギルティはあわてて、せきこんで聞いた。
「また、会える?」
「さぁね、わからない」
「……! 今日は……ありがとう」
「えへへっ、そう言われるのも初めてかな。あんたが幸せの道を選ぶように祈っといてあげるから、夢、見つけておきなさいね」

 そういった女の子の身体は、雪が通り抜けている。
「あ……! 君の名前は?」
「あぁ、そうね、あたしはセレル。じゃあね、ギルティ。ふふっ、あんたの名前、可愛いわね」
 ――あれ? ……僕の名前、知ってるんだ――

 ギルティがそう思ったときには、もうそこにセレルの姿はなかった。


「……夢を見つける、か……」

 ギルティはそう呟くと、そっと上を見上げた。雪はもう降っていなかった。
 ――そろそろ夜明けだな。
 ギルティはゆっくりと歩き始めた。



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アトガキ。

 実を言えば、これは部誌用に書いた奴です(爆)【←文芸部所属】 何時にも増して文章の雑さ加減が目立ちます。段落分け滅茶苦茶ですね。
 そして、短編小説の処女作……でもないか。結構最初に書きました。だからなんか失敗作。
 雰囲気とかは上手く行ったと思ったんだけど、どうも“言いたかったこと”をストレートに文章で表し過ぎ。
ちょっとわけわかんない話、でしたね。

 ソルガ村? 
……ソルガ村ァ!?
 そうなんですね。気付かれた方もいらっしゃるかと思いますが(気付かれて無かったらどうしよう(笑))、ソルガ村の名前はここから取りました(そんな無責任な) 電脳詩歌IMITATION、の。だからもー、同じ村です。同じ村で良いです(死)