Lie Or Truth ...?




二年生になって早々と、ユリちゃんは同士を見つけたらしい。
そう、同じ“カズちゃん好き”の同士。
そんなのがいること自体、私には顔を歪めたくなるくらい恐ろしいことなのだが、
ユリちゃんは喜んでいるらしい。

その子の名は石塚いずみさん。

スポーツをやる姿はまさに百合の花。
勉強もけっこう出来る方で、努力家で、なんだか模範生徒のお手本みたいな人だった。
だから、最初は取っ付きにくい人だなんて思っていたのだけど、とんでもない。
アイちゃんみたいに、いつもニコニコしていて優しいから、みんなと直ぐ仲良くなれている。

そして、彼女もけっこう私と同じ漫画を読んでいたりする、気さくな面を見つけて、
私もちょっと喜んでいた。
(ちなみに、好きなキャラも一緒だった)

真面目そうな人に、自分と同じ共通点を見出せると、とても楽しくなることがある。
私は今、まさにそれだった。

彼女がアイちゃんと違うのは、人に同調してくれることが多いということ。
誰しもが彼女に共通感を覚えるのは、それのせいなのであろう。


そしてこの初夏、新たな協力者が発見される。

松田実夏さん。
元が四組で、伊藤先生の担任だったらしいのである。
そして、何を隠そうこの私の部活仲間なのだ。

伊藤先生の噂話や情報なら、真っ先に聞くべきなのが彼女だろう。


そして、今日聞いた話。

「なぁなぁ、伊藤先生って好きな人居ると思う?」

ユリちゃんが私の肩をバシンと叩く。

「何言うのキリっ。それで好きな人居たら、私の立場は一体どうなるのよ」
「いいよどうなっても……」

そりゃ、いいわけないのだが、萌ちゃんが超クールに切り返す。
ユリちゃんは更に不機嫌そう。

「えーっ、ユリちゃんて伊藤先生と付き合ってるの?」

石塚さんの渾名はイズちゃん。今の会話が聞こえて、思わず加わってしまったらしい。

「付き合ってるって程じゃないよォ……」

ユリちゃんは照れながら、困ったような、嬉しそうな顔をする。
またまた。
それを言って欲しかったくせに。

「伊藤先生の……好きな人かー。誰だろう」

密かに自分だといいなーなんて考えているんだろうがよ。
私は心の中でキツーいつっこみを入れる。

「伊藤先生ねー、高校生に彼女いる、って話だよ?」
「嘘……」

火のないところに煙は立たぬ。
人の噂に戸は立てられぬ。

それらの諺が、目の前で見せ付けられたような――少なくともユリちゃんはそんな気分だったのに違いない。

「でも噂だしー……。それに、そんな薄情な男なら付き合ってないでしょうがよ、ユリちゃんと」
「うん。噂、噂」
「だって……火の無い所に煙は立たぬって……」

「いやいや。それがですね。女子校の場合、タバコの先っちょぐらいの火で、山火事ぐらいの煙になるんですなぁ」
「どういう意味、それ」
「高校生に理科の質問されてたとか、ただの雑談だったとか、それぐらいで付き合ってるって事になっちまうわけよ」

我ながらこの女子校の論理はわりかし合っているのじゃないかと推測する。
先生がちょっとした発言をすれば、そこから考えられる勝手な推測の、なんて速く廻ること。
つまりそれが“噂”になってしまうのだ。
やっぱりまぁ、それが今の世の中のやり方に成ってしまったのだろうけど、
私はたまに、それにちょっとだけ腹が立った。
同じことをやったことが有るだけに――むしろこれは呆れ、か?

本人は、そんなつもりは無かった筈。
だからといって絶対的に伊藤先生に味方するってワケでも無い。
百パーセント、それが嘘の噂なのだと断言出来るまでの証拠は揃っていないのだから。

如何して何処からどうやって廻ってきたのか知らないけど、それを真に受けてしまうってコトは、
ユリちゃんはかなりの真剣さ。


「だからさぁ、被害妄想やめようよユリちゃん」
「……被害妄想?」
「そ。その“恋の病”とやらに掛かっちまうと、どういうわけか小さなコトで心が揺れるからさ」
「それはわかってる」
「……あ、そ」

力説してた私が何だか馬鹿みたい。
わかってるんだったら“私が判ってる”みたいに言わせないでよ、頼むから。

私がちょっとムッとして押し黙ったのを良い事に、また皆が話し始める。
何だかちょっとヤな感じ。

「ミカちゃん、それ、根も葉もない噂、なんでしょ?」
「うん」
「――だってさ」

ユリちゃんは、さっきよりは明るくなった様子。
でも、勿論“気にしなくなった”わけではなかった。


「そんなに気になるなら、直接聞けば良いじゃん」
「えぇー!」

ユリちゃんが、本当に“困った、イヤだ”という表情を露骨に表してこちらを見る。
そんな簡単に言うけどね、といった感じだろうか。
彼女、これ以上こういうことを云うと怒るんだろうな、きっと。


「それが出来ないから悩んでるんじゃなーい……」
「ユリちゃんっ、伊藤先生がそんな気移りしやすいヤツだと思うのっ」

イズちゃんの云った言葉に、皆が一瞬沈黙を漂わす。
それはきっと、“いや――気移りし易いんじゃないだろうか”といった皆の心の表れであろう。

「……愛は全てを信じること、でしょ!」
「全部を信じられる程付き合ってないもん……」

「でもユリちゃん、伊藤先生、思ってるほど軽く無いよ? てかあの人、やるときゃ真剣だから」
「そっ……そうだよね? ミカちゃんがわかってくれたよー」

ミカちゃんの助言に、ユリちゃんが顔を輝かす。

「だーめだよミカちゃん……元気付けちゃ」
「何処までも元気になってしまいますので」

「――で? やっぱり噂は事実なの? デマなの?」

萌ちゃんの質問に、誰も答えようとしなかった。
いや――詰まって答えられなかったのだ。





そんなわけで、何故だか最初の解決策、「直接聞けば良いじゃん」に辿り着く。
今の所それしか確かめる方法が無いのだ。
それに、でもでもとウジウジ躊躇するのが、私は嫌いだった。


一番大きな問題が、私達の前に立ち塞がる。

「……誰が聞きに行くわけ?」
「そりゃ……ユリちゃんでしょう」
「その元気がないから私達で来たんじゃん」

「聞きに行くとか言い出したのはキリでしょうっ」

「はァ!!? 絶対ヤダ!! 変な誤解をされたくないっ」
「それは皆同じなのっ」

「私……行くよ……」

「……ユリ……ちゃん……」

元気が無いのは元から。
でも、今この問題が一番気になってるのはユリちゃん、其の他の誰でもなかった。

「なんて聞けばいいの……?」

「……」

誰も思い浮かばない。
まさか職員室の中で“好きな人他にいるんですか”なんて大声で聞けないし。
呼び出すにも何だか不審過ぎるし。

そのときだった。


「伊藤先生、そういえば、今って彼女いらっしゃるんですか?」

丁度今、そしてたった今聞きたかった事が、佐藤先生の声で聞こえてきた。
その場に居る全員――ユリちゃん、萌ちゃん、イズちゃん、ミカちゃん、私――が唖然とする。

会話は続く。

「え……」
「フフッ……。前、早風さんを職員室に呼んでらっしゃいましたよね」
「あ、はァ……その、」
「仲が宜しいんですね」

後ろからでは良く見えないけれど、会話を聞くのにのめり込んだユリちゃんが、
頬に熱を溜めているのがわかる。
そして、肝心の伊藤先生はと言えば、えぇ、まぁ、と照れ臭そうに頭を掻いていたらしい。

その行動が、果たして伊藤先生の気持ちを反映させていたのかどうかは解らない。
ユリちゃんがそれで満足したのかもわからない。
けど、これだけは云える。

ちょっと解決、っぽくない?


“ヲトメの恋心”は、ちょっとしたことで直ぐ揺れる。
私はどうも、まだその感覚に慣れていないのだけど――(慣れたいとも思わないけど)。

タバコの先っちょの炎が、山火事ぐらいの煙になっちゃう、なんてよくあること。
ほんのちょっと押しただけで、実は消えてしまうのさ。



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† 1111HitにVAMPIREちゃんに。リクエスト「VAMPIREちゃんを登場させたもの」 †
※……VAMPIREサンがモデルになっているのは松田実夏サン(笑)