
「じゃ、あなたは地獄行きね」
「ヘッ……!? イヤ、あの、その……イヤだああぁぁッ!!」
亡くなった人の行列の分かれ目に立っている女の子は、もう慣れているように
反抗する者を暗い方の道に追いやった。
感の良い人ならもう察しは付くだろうが、ここは天国と地獄の狭間である。
この女の子に行き先は「地獄」だと宣告されればそれまでで、
「天国」と言われればその後、至福の光に導かれるというわけだった。
「交代だよ、霙。お疲れ様」
死神の仲間がやってきて、霙の肩にポンと手を置く。
「あっ、ありがとうです。じゃ、あとはヨロシクね」
仕事は時間制になっていて、四時間ごとに区切られている。
霙はこれから、下界のパトロールに行って、死にそうな奴を引き連れてこなければならない。
はっきりいって霙は、この仕事をイヤだと思っていた。
下界のヤツらの霙を見る目は、何時も恐怖に見開かれている。
一度で良いから、感謝の目を向けられてみたかったのである。
いた。死にそうなヤツ。
(ふーん。コイツは「朝霧迅雷」。あぁ、あの「淡雪」っていう子にナイフで刺されたのですね)
霙はその家のドアをノックした。
「ハイ」
ちょっと年上の女の人の声がする。
そして直後、黄色い声が聞こえてきた。
「黒茶姉ちゃんッ、誰!? 依頼人だったら殺すわよッ」
「やめてよ淡雪、でももう仕事やってないのよ」
どうやら淡雪は酷く不機嫌なようだ。
ちょっとでも逆らえばナイフの刑だろうと予想される。
「あれ? ……どなたですか?」
鎌を持った霙を一目見て、黒茶は笑顔だがちょっと不思議そう。
「こちらに死にそうな迅ら……、あれ?」
霙は言ってみて気付いた。
“死にそうな奴”の気配がサッパリ消えていたのだ。
「誰か来たの、黒茶お姉ちゃん?」
紺が玄関にやってきた。
そして、霙を見て、黒茶と同じように不思議そうな顔をする。
「迅雷君は居ますけど……どうして死にそうだと?」
「あんたは? 先に名乗りなさい」
「だって、必要ないでしょう?」
霙の即答に、淡雪は相当お気を悪くされた様子。
「それ以上ふざけてると殺すわよッ」
スバッ!
淡雪の豪速ナイフは空を切る。
「……!?」
「あなたに用は無いですよ?」
ゾクッ。
一瞬霙が見せた、全てを見透かすような凍て付いた眼差しに、紺は鳥肌が立った。
気が付けば、霙は淡雪の後ろに居て、スタスタと家の中に入ろうとしていた。
「ちょッ……! 待った!」
黒茶がびっくりして霙の肩を掴もうとする。
スゥ。
霙の体が透けていた。
「……!」
霙はチラリと黒茶を見た後、迅雷の居る居間に向かって歩いていった。
「あなたが朝霧迅雷君?」
居間で腹をさすっている迅雷に、霙が声をかける。
「……あんたは誰さ?」
「霙です」
「みぞれ? 職業は? 何で鎌持ってンの?」
「死神だからです」
「で、その死神がオレになんか用?」
霙はびっくりした。
自分が死神だと知って、驚かなかった人は居なかったのである。
「驚かないですか?」
「何か用なのかと聞いてるんだが」
「……」
「何も用は無いのか?」
「あなたを連れに来たです」
「オレまだ当分生きると思う」
「私もそう思うです」
「はァ?」
「だって、死ぬ気配が消えちゃったんです」
霙は俯きながら言う。
本当のことだ。
「……いいや。他を当たるです」
「……あ?」
「失礼しましたァー」
霙はそう言うと、家の壁をすり抜けて外に出て行ってしまった。
「しに……がみ?」
「じっ、迅雷君、大丈夫っ?!」
「あぁ?」
「“あぁ”って……今、女の子来なかった? 髪、みつ編みにした……」
「来た。で、壁、すり抜けてった」
「あの子何者なの?」
「死神だと」
「へぇ……」
「次に来たら殺してやるわっ!」
淡雪はまだ不機嫌らしかった。
霙はパトロールを続けた。
「……あーぁ……。生神になりたいなぁ」
生神、とは死にそうな人を死神より早く、こっちの世界に帰してあげる者達である。
よく「奇跡の生還」と言われるのは、死神より早く生神が助けた証拠なのだ。
でも実際、死神の方が数が多いから、「奇跡の生還」はそうそう簡単にあるもんじゃない。
霙はどっちかといえば生神にも憧れていたりしたのだった。
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