井手先生ー97年単独太平洋横断記録(抜粋)
"SPICA 3"

4月13日8:00 紀伊田辺の文里港を出港。海上保安部の最新の黒潮情報
に従い、その中央部まで南下を続ける。
4月23日前日から季節外れの台風1号が北上を続け、N25°、E140°にあり、
東北東に進んでいることを、オケラネットの無線で知る。
(中略)
4月には珍しい台風1号が小笠原諸島を北上し、SPICA3と遭遇した.地獄の夜が明けた。
18時から時化はじめた海は、波高8mに達し、経験したことのない海況となった。
チャートテーブルの真上からも海水が噴出し、 無線機などの機材が使用できないような被害を受ける一歩手前、非常事態となった。
(中略)
日頃、揺れない大地に生活する人たちにとって、常に激しく吠え、大きな
波を泡立たせて、片時も私を許すことのないこの 大きな海を創造することは難しいと思う。
太陽は赤く燃え落ち、日本列島は水平線の彼方に沈んだ。やがて闇が訪れる。
(中略)
5月16日夜明け1時間半前、バースで眠っていた。
激しい衝撃音とともに、私の身体はフォクスル近くのトイレの前まで飛ばされて、
背中を打った激しい痛みで動けなくなった。
背中の痛みから、身体を引きずるようにしてハッチを開いた。
私は血の気が引いた。「マストが倒れる」
(中略)
6月4日セント・フランシスヨットクラブの桟橋に、頭を雨に打たせるにまかせて
横付けした瞬間、達成感で胸が熱く、生きる証しを見た思いに
「よくがんばった」と自分とそして”SPICA3”に言い聞かせた。
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