物語背景:第二チャプター中盤あたり?
傾向:ラブラブベタベタシリアスありがち風味(笑)

どんな味なんだ。(笑)




私があの夜
あいつの家で
あいつがあいつの妹だという子と
日常のたわいもない話をして
笑って
怒って

それまで一度も見たことのなかったあいつの
兄としての顔を見た時

そのあまりに優しい眼差しに思わず

その眼差しを自分に向けてくれたなら…

そう願ったけれど

それは間違いだったと
今はわかる。


in your eyes



どうしてこんなことになったんだろう

うりは今の自分の状況を冷静に考えながらそう思った。
私が今いる場所は首都:ゼーザスにある宿屋のひとつ。
木造建築で、
年代を感じさせるけれどもけして汚れているわけではない、良質な。

 簡素な作りの一人部屋。
あいつらと一緒の部屋ってわけにはいかないからね。

 今は何時なんだろう。外はよく晴れていて、
薄い真っ白な飾り気のないカーテンを引いても
太陽の光が薄く、ゆったりと部屋に差し込んでくる。
時折、弱い風がカーテンを揺らすと、
そこからまぶしい光が差し込んで、私は時々目を細める。
 ベッドに横になって、眠れもせずに、ぼんやりしていると
外の人の話し声や、足音がよく聞こえる。
普段は気にも止めないから聞こえないだけなんだと
当たり前のことにいちいち納得したりして。
今すぐ外に出かけたいなぁとか考える。
そうか。いつもなら今は剣術の稽古をしている時間なんだわ。

めずらしく私は風邪を引いた。
体調管理はしっかりしているつもりだった。
実際ここ数年、風邪で寝込むようなことはなかったし、
一人ぐらしで、わいわいとお見舞いにきてくれるような
友達もいないし
一度風邪を引くと面倒だからと気をつけていたのに。

仕方がないので今日は横になっているからと
他の3人に伝えた。

ゆるはいつものとおり王立図書館に出かけた。
ゼーザス王立図書館は人間の国で最も大きな図書館で
目がくらみそうな高さの本棚がいくつもあるらしい。

よしはハチミツを塗ったトーストや、ホットミルクを作ってくれて
あれこれ世話を焼いてくれたけど
私が「少し眠りたいから」と言って追い払ってしまった。

あいつは…
「鬼の目にも涙、ウルセリアが風邪」
などと馬鹿馬鹿しい憎まれ口を叩いてどこかへ出かけていった。
おそらくアルバイトか何か見つけていたんだろう。
また朝早く出かけて夜遅くまで帰ってこないに違いない。

そこまで考えた時、ふいに小さく2回、ドアをノックする音がした。
控えめな音。
よしが様子を見にきたのかしら。

「どうぞ。」

よしには今日だけ鍵を渡してある。

鍵をまわす音がして、ゆっくり静かにドアが開いた。
うるさい音を立てないように、明らかに気をつかっているドアの開け方。
よしらしい。


「あらら、せっかくよしが作ってくれたもん
 手ぇつけてねぇの?
 そうだろーと思ってさ。
 この俺がもっと食いやすいもんを買ってきてやったぞ。」


なんで。

なんであいつなの。


ということで
風邪で寝込んでる私のすぐよこに
図々しくイスなんか持ってきて、
あいつが果物をむいている。

それが今の状態。

アルバイトはどうしたんだとか
何でよしに渡したはずの鍵をあんたが持ってるんだとか
そもそも何しにきたんだとか
そういう疑問がいくつも一瞬でわいてきたけど

今ここでこいつと言い争う気力もない。


私は横目であいつを盗み見た。

小さな丸いイスにあいつは足を組んで座っている。
手の中には果物ナイフとラ・フランス。
窓から差し込む薄い光が、
長くたらした前髪にさえぎられて、伏せた瞳に影を作る。
果物をむく手を動かすたびに、
前髪が揺れて、顔に落ちる影も一緒に揺れる。

口さえ開かなければいいのに。
勿論口には絶対にださないが。

あいつは手の中のラ・フランスをするすると器用にむいていく。
時々、ラ・フランスの汁がぽたぽたと床に落ちて
木目の床の色を変えた。


不思議な感じ。
いつもならこういう時は他人の顔を見るのも嫌なのに。


「できあがり。」


そう言ってあいつが
差し出したお皿の上にやや小さめに切ったラ・フランスが
ふぞろいにならんでいる。


「……ラ・フランスなんてめずらしい…」

私は思ったことをそのまま口に出した。
病人にむいてあげる果物の定番はりんごではないだろうか。
りんごは消化にいいとか言われているし。

そういわれたあいつは初めてそのことに気がついたような
顔をした。

「ああ…そっか…そうかもな…」

そして
一瞬に表情を変えた。

それは

忘れもしない

あのときの

あの夜の。

「…なつみは…りんごが嫌いなんだよ…
 そっか…だよな…

 お前は?

 お前は何が好き?」

あいつは

酷く優しい目で私を見た。

しかし

私は…

私はそれを願っていたはずなのに…

酷く

嫌な気分になった…


いつも遠慮もなしにドアを開けるあいつが今日はひかえめに
ドアを開けた理由。
口やかましいほど喋るあいつが今日はあまり喋らない理由。
似合いもしないのに果物をむいてくれる理由。
優しく見つめてくれる理由。

あいつは

愛しい妹が

風邪を引いたときのことを

思い出している。


私はあいつに背を向けるように寝返りを打った。
差し出されたままのラ・フランスののったお皿が
行く場を失って宙に浮いた。
見えないけれどきっとあいつはお皿を持ったまま
唖然としているだろう。


「要らない。食べたくないの。」


私はなるべく声に感情がのらないように素っ気無く
言った。

「ん?ラ・フランス嫌いなのか?」

「そうじゃない…」

感情がのらないように返事をしているつもりだけど
どうしてもその声色は乱暴になってしまう。

「じゃあ食べなさい。
 具合が悪い時は嫌でも何か食べた方がいいんだから。」

やめて。

そういう言い方。

「はい、あーんして。あーん。」


「いい加減にして!!!!」

私は

怒鳴りつけた。

イライラする。
同時に胸がつまる。

あいつの方に顔が向けられない。




わたしは

あんたの

妹じゃあない…



私があの夜
あいつの家で
あいつがあいつの妹だという子と
日常のたわいもない話をして
笑って
怒って

それまで一度も見たことのなかったあいつの
兄としての顔を見た時

そのあまりに優しい眼差しに思わず

その眼差しを自分に向けてくれたなら…

そう願ったけれど

それは間違いだったと
今はわかる。


ゆるやよしのような仲間とも
いつもあんたが遊んでいる女の子達とも
あんたの大好きで大切な妹の子とも違う目で

私を見て欲しい

ただ優しいだけの目で
私を見ないで…

 

■あとがき■

某方に捧げさせていただいたもの。

版権だとクサいのはあまりかけないのに
オリジだとこんなのもOKといういい見本。(笑)