「梓の初恋っていつよ」
例によって例のごとく酒に酔った先輩の恋愛談義。
彼女は豪快に飲み潔く酔っ払う。
自分はちびちびとなめるように飲み酔い方も中途半端だ。
飲み方にも性格が出る。

「私の話はいいですから先輩の話を聞かせてください」
「だめよう、そうやっていつもごまかすんだから」

酒の入ったグラスを左手に、自らの顔の前で右手人さし指をちちちと振る。

「いやそういう訳では」

先輩から目を外し両手に持ったグラスをくるりと回す。
揺れる水面に自分の顔が映っている。
今日はどうもあまり酒が進まない。
飲むのは好きだが気が乗らない日も勿論ある。
しかしこの人の誘いであれば否とする事はほとんど無いと言って良い。
酒に酔ってからまれるのはいつもの事だがそれが嫌ではないのだから。

「じゃあどーゆーわけなのよぅ」

やけにしつこくて苦笑する。

「私には明確に恋をしたという実感を持った事が無いんです」
「むぅ、梓らしくてコメントのしようもないわ」

ハニーブロンドを揺らしてがっくりと首を落とす。

酔っている時は普段のオーバーリアクションが二割増だ。

「ね、つまらないでしょう。それより」
「ダメよ!!」

伏せていた顔をがばっと上げて目を見開く。
ただでさえ大きな目がまん丸で正直怖い。
つい引いた上体をそのままに、両手をお椀のようにして先輩の顎あたりにやる。

「なによ」「こぼれますよ」「何が」「目玉が」
「おいっ鬼太郎っ・・てやーだ酔ってるわね梓ったら〜」

げらげら笑いながらばしばしと叩かれる二の腕が痛い。
無論、先輩のほうが酔っている。

「えーと何の話だったっけ?」

痛む箇所をさすりながら思い返す。
「確かダメと」
「そうそう。いーい?先輩からのありがた〜いお言葉」
「はいはい」「ハイは一回!」「ハイ!」
「よろしい」おほん、と芝居がかった仕草でひとつ咳をして眉を吊り上げる。

「梓みたいな恋愛免疫のない女が、大人になってから変なのにハマると抜け出せなくなるのよ!
こわいわよー」
その脅すような口調に思わず吹き出しそうになり、咄嗟に顔を背ける。
「な、なによ〜」
「私の事はご心配なく。それよりマリーさんはどうなんですか。シュタインさんとは」
明らかに貴方のほうが変なのにハマッているではないかと、言外に滲ませるとむくれた様子で前を向いた。

「あたしとシュタインはそんなんじゃないですー」
「早くそうなるといいですね」
「こらっ」
生意気なやつめ〜とくすぐり攻撃をかけてきたのでぎゃあぎゃあと二人して騒いでいたら、
他の客の迷惑になるからと放り出されてしまった。
憤る先輩をなだめながら、腕を組んで夜の道を歩く。
空には星が瞬いている。自分も少し酔っているので戯言を口にしてみる。

「マリー・シュタインなんていいじゃないですか」
「ちょっともうやめてよねー梓のいじわる〜」

もたれかかってくる体は自分より小さいのになかなか重くて、
こちらからも押し返すようにしながら先輩の住居を目指す。
街灯にぶれる影が後ろからついて来る。
寄り掛かる重みが段々増してきて、そろそろ支えきれなくなってきた。

「マリーさんもう少し頑張りましょう」
「ん〜」

先輩は半分眠りかけている。仕方ないので路肩にあるベンチに避難した。
腰掛けるなりずるずると体を預けてきて膝枕のような状態になる。

「マリーさん」
「五分だけー・・」

不鮮明な声でそう呟くとすぐに寝息を立て始めてしまった。
諦めて自分の上着を脱ぎ彼女の肩にかける。
情けないが自分では先輩を運ぶことは出来ないので、
こうなったら彼女の同居人に来てもらうしかない。
ポケットを探り携帯を取り出したところで少し考え、また仕舞った。
取り敢えず五分くらいはこうしていてもいい。
彼女の頬に掛かった細い金髪を指で直す。
恋といった意味ではないが、
死武專に来て初めて好意を持った人物が先輩だと知られればやはり引かれるだろうか。
彼女を初めて見た時、まるで天使のようだと思った。
随分暴力的で気さくな天使だったが。
見つめる寝顔が一つくしゃみをしたので慌てて携帯を取り出す。
研究所まではもうすぐなのだが、連絡して先輩の同居人が来るまでまだしばらくあるだろう。
彼女が結婚すればこういうことも出来なくなるなと考え、
少し寂しい事だがそれでも早く結婚してしまえばいいと思った。

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マリー先輩が好きな梓にゃん、たまらんです。
確かに梓はマリー好きだよねぇ・・・

変なのに引っかかるわよ

私のことはご心配なく

のやりとりに萌えました・・・!
梓にゃんは素で「自分だけは変な男になんか
絶対引っかからない、先輩じゃあるまいし」って
本気で思ってるタイプだよね。(笑)
自信持ってそう。
んで、シュタインといい感じのマリーを見て
「・・・私だったらああいう男性は選びませんけど」って
思ってんだよね。
で、そういう梓の方がろくでもない男に
引っかかってしまうというところがたまらなく
面白くてありがちだと思う件。(笑)