Jazzとは何でしょう




FIFTEEN: やっぱりJazzは楽しいのがいい (2)
現在の名手たちを聴こう
 
FIFTEEN: やっぱりJazzは楽しいのがいい (2)
現在の名手たちを聴こう

いよいよ「Jazzとは何でしょう」(三訂版)も最後の10枚目のMDになりました。「Jazzは楽しく、そしてスウィングするものでなくては」・・・その観点からテキストの最後は、音の良い最近の録音を中心に聴いて行くことにしましょう。

クラシックの演奏会では、今でもモーツァルトやベートーヴェン、ヴェルディやワーグナーをやっている。新しいものが好きならバルトークやショスタコーヴィッチも聴けます。楽しいのが聴きたければ、ヨハン・シュトラウスもいいでしょう。
ジャズの世界も同じです。聴衆を楽しませる正統派のジャズを演奏する人たち、グループ、バンドはいくらでもあり、我われはそれを楽しむことができます。常に前衛的なものを追いかける一部のファンには「マンネリ化している」と聞こえるジャズでも、一般の愛好者には「安心して聴いて楽しめる演奏」かもしれません。「安心して聴いて楽しめる演奏」の範囲内で自発性(スポンテニアスであること)独創性を発揮する余地はいくらでもあるからです。200年の長きにわたって弾き継がれてきた、モーツァルトやベートーヴェン、その他大作曲家の作品の数々が、それを立派に証明しています。

120.(MDI−1)
Do You Miss New York? Rosemary Clooney (vocal), John Oddo (piano),
Scott Hamilton (tenor sax), Warren Vache (cornet), Bucky Pizzarelli (guitar),
David Finck (bass), Joe Cocuzzo (drums).
[Do You Miss New York? Concord CCD-4537 DDD 1992]
ローズマリー・クルーニーと言えば戦後間もない頃に「カモンナマイハウス」などのヒット曲を歌っていたポップス歌手(江利チエミがその真似をしていました。その頃の録音は100.で聴きました)ですが、その後はもっぱらジャズを歌っています。今ではアメリカの「いいおばあさん」という役柄で、テレビのトーク・ショウの司会などで活躍しているようです。私にとってその昔5年間暮らしたニューヨークは、父親が青春時代を過ごし、また今現在息子が住んでいる街でもあるので、第三か第四の故郷のようなところです。最近とくに気に入っている同題名の彼女のアルバムからの1曲をどうぞ。

121.(MDI−2)
Autumn Leaves Scott Hamilton (tenor sax), Brian Lemon (piano),
Dave Green (bass), Allan Ganley (drums).
[East of the Sun Concord CCD-4583 DDD 1993]
前曲にも登場しているテナー・サックスのスコット・ハミルトンは、アメリカよりもむしろ日本で人気のあるアーティストかも知れません。日本の人気投票では常に上位最上位を占めてきている人です。これは彼の1993年のアルバム「East of the Sun」からの1曲で、「安心して聴けるジャズ」が今もあるということです。シャンソンの名曲「枯れ葉」はジャズ奏者の好きな曲だと、前に述べました。

122.(MDI−3)
Waltz for Debby Jean-Yves Thibaudet (piano).
[Conversation with Bill Evans Decca 455512-2 DDD 1996]
ジャン・イヴ・ティボーデは現在のフランスを代表するクラシック界の若手ピアニストで、1980年の第1回東京国際ピアノ・コンクール優勝者です。ショパンやリストそしてもちろん自国のラヴェルやドビュッシーなどのピアノ曲を得意としていて、現在非常に高い評価を得ています。この人はジャズをやらせても達者に弾きます。宣伝のコピーによれば、初見弾きが上手、難しい新曲でも楽譜を与えられたらその場ですぐにしかも見事に弾いてしまう。またジャズなどはレコードを聴いたら、すぐに鍵盤に向かってそのとおりに弾きはじめるのだそうです。この曲は51.のビル・エヴァンス(モダン・ジャズ初期の、インテリ白人ピアニストとご紹介しました)が作曲したもの、彼を慕い彼もまた可愛いがっていた姪のデビーに捧げられた愛らしい小曲です。ビル・エヴァンスを偲んで作ったティボーデのアルバムから。

123.(MDI−4)
Calypso Joe Jim Hall (guitar), Joe Lovano (tenor sax),
Scott Colley (bass), Andy Watson (drums).
[Dialogues Telarc CD-83369 DDD 1995]
ジム・ホールはジャズ・ギターの大ヴェテラン、我われも今までにサイドマンとしての彼をいくつか聴いてきました。彼のギターは、派手にバンバン鳴らすのではなく、じっくりそして楽しくジャズをやるタイプです。これは彼の自作曲ばかりのアルバムの中の1曲、カリブ海のカリプソのリズムで、軽快に、いかにも楽しそうに演奏しています。

124.(MDI−5)
Black Coffee Eddie Higgins (piano), John Pizzarelli (guitar),
Jay Leonhart (bass).
[Don't Smoke in Bed Venus TKCV-35087 DDD 2000]
先にペギー・リーの歌唱で聴いた「ブラック・カフィー(64.)」をエディー・ヒギンスを軸とするピアノ、ギター、ベースによるトリオがやっています。こういう組み合わせのコンボを「ナット・キング・コール・スタイル」という、とすでに(28.)述べました。ホテルかナイトクラブのバーで演奏している、それがピッタリの雰囲気でしょう。だから(最近の命名ですが)こういうのを「カクテル・ジャズ」と呼ぶ人がいるのです。

125.(MDI−6)
At Long Last Love Marlena Shaw (vocal), Geoff Keezer (piano),
Ray Brown (bass), Gregory Hutchinson (drums).
[Some of My Best Friends are Singers Telarc CD-83441 DDD 1998]
ベースのヴェテラン、レイ・ブラウン(たびたび聴いてきました)を中心としたコンボをバックに、マーリナ・ショー(地味ながら歯切れの良い歌唱でアメリカ中西部を中心に人気を得ている歌手)がコール・ポーターの曲をうたっています。ジャズ歌唱の神髄ともいうべきスキャットは今も健在です。

126.(MDI−7)
East of the Sun and West of the Moon Diana Krall (vocal & piano),
Russel Malone (guitar), Ben Wolfe (bass), etc.
[When I Look in tour Eyes Universal Victor MVC-24014 DDD 1999]
ダイアナ・クラールはカナダ生まれの白人、ピアノの弾き歌いで知られています。映画俳優兼監督(兼政治家?、一時カリフォルニア州のどこかの町の町長をつとめていました)クリント・イーストウッドに見出されて、いくつかの彼の映画に出演したりバックで弾き歌いをしています。CDのジャケットのポートレートをみるとなかなかの美形、それに惹かれたわけではありませんが、来日の折に彼女のコンサートに足を運びました。彼女のシャイで誠実な人柄が伝わってくる心地よいステージでした。たしかに美形ですが、でも体型はかなり幅が豊かで、この職業は体力が必要なのだな、と思いました。

127.(MDI−8)
Satin Doll

128.(MDI−9)
It Could Happen to You Kenny Drew (piano), Niels-H.O. Pedelsen (bass),
Alvin Queen (drums).
[Kenny Drew Trio Live at The Keystone Corner, Tokyo Alfa ALCR-88
DDD 1991]
ここでちょっとジャズ・クラブへ行った気分になってみましょう。93.で聴いたケニー・ドルー・トリオが東京のジャズ・クラブ、キーストーン・コーナーに出演したときのライブ録音です。ワン・ドリンクつきのテーブル・チャージ「ン千円」を払って、席に案内されます。そして黙って聴くだけ。ワン・ステージは45分から1時間、約ディスク1枚分です。でも、演奏の中身、アーティストの高揚ぶりはスタジオ録音とは全く違う。だから部屋でディスクを聴くだけでは絶対に味わえない、リッチな気分が味わえるのです。

129.(MDI−10)
Sophiscated Lady

130.(MDI−11)
Softly as in a Morning Sunrise The Great Jazz Trio [= Hank Jones (piano),
Ron Carter (bass), Tony Williams (drums)].
[The Great Jazz Trio at The Village Vanguard Again East Wind UCCJ-4001
ADD 1977]
同じ気分を、モダン・ジャズのメッカとも言うべきニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで味わってみましょう。録音は少し古いけど、ジャケットにヤンキー・スタジアムでのメイジャー・リーグ野球試合の写真を掲げた、「The Great Jazz Trio at The Village Vanguard」というタイトルのジャズの定番・名盤があります。そのときの録音でLPに収録されなかった曲のいくつかが最近発見されて、CDになったものです。ハンク・ジョーンズは今も現役ですが、このステージの頃は最盛期。共演の名手たちともども、「切れば血が出る」ような真剣勝負、ナマの名演を味わってください。曲はいずれもこれまでに聴いて来たもの、つまりジャズのスタンダードです。マンハッタン島はウエスト・ヴィレッジの、何の変哲もない古いビルの地下にある、およそ飾り気とは縁遠い古臭くくたびれた風情のジャズ・クラブです。でもここで演奏できるのは限られた人数の、選ばれた、最高のモダン・ジャズ・ミュージシアンだけ。ここでジャズを聴いていると「自分はいま、世界最高のジャズを聴いているのだ」、との至福の気分に浸れるのです。

131.(MDI−12)
Mood Indigo Wynton Marsalis (trumpet & conducting),
Lincoln Center Jazz Orchestra
[Live in Swing City Columbia CK-69898 DDD 1998]
117.でご紹介したウイントン・マルサリスと彼のリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラの最新ライブ録音です。デューク・エリントン畢生の名曲「ムード・インディゴ」を文字どおりムード満点で演奏しています。スウィング・ジャズ時代とは違うけど、ビッグ・バンドのジャズはいまも健在なのです。

132.(MDI−13)
Ya Gotta Try・・・Harder! Quincy Jones & Sammy Nestico Orchestra
[Basie & Beyond Q-west WPCR-10812 DDD 2000]
カウント・ベイシー(そして彼のオーケストラ)とデューク・エリントンはともにジャズの歴史とともに歩んだ人でした。そのカウント・ベイシーと一緒に演奏していた人たちがカウント・ベイシー・オーケストラを引き続いでいる、と119.でお話しました。ここではそのオーケストラが、クインシー・ジョーンズ(74.で、ジャズに限らず幅の広い活躍をしている才人とご紹介しました)の編曲した「懸命に努力しなけりゃ」(サミー・ネスティコ作曲)を、豪快かつ快活に演奏しています。クインシー・ジョーンズもサミー・ナスティコも生前のカウント・ベイシーと交友が深く、彼のオーケストラのためにたくさんの曲を書いたり編曲したりしていたのです。

さあ、私の「ジャズとは何でしょう」はこれでひとまず終了です。長い間お聴きくださり、ありがとうございました。









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