FOURTEEN: やっぱりJazzは楽しいのがいい (1) ジョージ・ガーシュインとデューク・エリントン |
|||
| |||
FOURTEEN: やっぱりJazzは楽しいのがいい (1) ジョージ・ガーシュインとデューク・エリントン 1998年はジョージ・ガーシュインそして1999年はデューク・エリントンの、それぞれ生誕100周年の記念の年でした。このアメリカが生んだ偉大な音楽家(もちろんアメリカはこの他にも多数の大音楽家を生んでいますが)の作品、それを題材とした楽しいジャズを、音の良い最新録音で、あらためていくつか聴いてみましょう。まずはガーシュインから。 107.(MDH−1) Oh, Lady be Good Andre Previn (piano), David Finck (bass). [We Got Rhythm DG 453493-2 DDD 1997] アンドレ・プレヴィンが弾くジャズは70.で聴きました。でもあれは彼の若いころ、1958年の録音です。その後クラシックの世界で功なり名を遂げて大御所となったいま、彼は交響楽団の常任指揮者のような忙しい仕事は断り、各地で客演指揮をしたり(NHK交響楽団へは毎年来ています)、作曲をしたり(最近、オペラ「欲望という名の電車」を作曲しました)、気のあった仲間とジャズをやったりして、老後を楽しんでいます。曲はガーシュインのヒット・ミュージカル「オー、ケイOh, Kay!」の中から。ピアノとベースだけという、シンプルなデュオです。 108.(MDH−2) Rhapsody in Blue (Jazz Band version) James Levine (piano & conducting), Chicago Symphony Orchestra. [DG 431625-2 DDD 1990] ジョージ・ガーシュインと言えば、どうしてもこの「ラプソディー・イン・ブルー」をはずすことは出来ないでしょう。この曲はジャズなのかクラシックなのか。通常の分類ではクラシック、だからクラシックのオーケストラが演奏するのが当たり前になっています。だがこの曲にはいくつもヴァージョンあって、ここで聴くようなジャズ・バンド用のものもあるのです。実は初演はこのジャズ・バンド・ヴァージョンによるものでしたから、こちらがオリジナルと言うべきか。メトロポリタン・オペラの音楽総監督ジェームス・レヴァインはピアノも達者、お聴きのように見事なものです。ディズニー映画「ファンタジア2000(1940年作のあの素晴らしい【ファンタジア】のリメイク)」で、このレヴァイン・シカゴ交響楽団のコンビが「ラプソディー・イン・ブルー」をやっています。アニメ映像もみごとです。でも映画のものはシンフォニー・オーケストラ・ヴァージョンです。 109.(MDH−3) Swanee Salena Jones (vocal), Alan Bence (piano), Martin Donald (guitar), Andy Hamill (bass), Frank Ricotti (drums), etc. [S. Jones Sings Great Standard Numbers Dream 21 PRCD-1651 DDD 1996] 冒頭の1.でジャズ歌唱の元祖アル・ジョルスンで聴いた「スワニー」です。こちらはミンステレルとは全く違う、現代風ジャズ歌唱となっています。 110.(MDH−4) Summertime Joni Mitchell (vocal), Herbie Hancock (piano), Stevie Wonder (harmonica), Wayne Shorter (soprano sax), Terrilyne Carrington (drums). [Gershwin's World Verve 314557797-2 DDD 1998] 前章の最後106.で「ロック系音楽をジャズに持ち込んだ」とご紹介したハービー・ハンコックですが、ここでは正統派のジャズをやっています。でもやはり歌のジョニ・ミッチェル、そしてハーモニカを吹いているスティーヴィー・ワンダーはいずれもポップス(と分類していいのかな?)畑の大物シンガーですね。ガーシュインの傑作オペラ「ポーギーとベスPorgy and Bess」の中の最もよく知られた曲「サマータイム」が、このようなジャズになりました。 111.(MDH−5) 'S Wonderful Chick Corea and Dave Grusin (piano). [The Gershwin Connection grp GRD-6003 DDD 1991] チック・コレアもデイヴ・グルーシンも現在の代表的ジャズ・ピアニスト、そしてふたりとも電気的ピアノ(キーボード)をジャズに持ち込んで、新機軸を出そうとする一派の旗頭的存在のアーティストです。そのふたりが、こうして見事極上のピアノ(キーボードではなく通常のピアノ )・デュオを披露しているのです。すっかりジャズのスタンダード・ナンバーとなっていますが、「ス・ワンダフル」の元はミュージカル「ファニー・フェイスFanny Face」の中の1曲です。 112.(MDH−6) How Long Has This Been Going on ? Diane Schuur (vocal), Stan Gets (tenor sax), grp Orchestra. [Timeless grp GRD-9540 DDD 1986] ダイアン・シューアは盲目白人そしてすこぶる美形のシンガーです。原曲をあまり崩さずに丁寧にうたうのが身上、そういう温厚さゆえに日本で人気があるのでしょう、しばしば来訪しています。テナー・サックスの大御所スタン・ゲッツがゲスト出演した豪華アルバムから。 113.(MDH−7) Nice Work If You Can Get It Marcus Roberts (piano), Reginald Veal (bass), Herlin Riley, Jr. (drums). [Gershwin for Lovers Columbia CK-66437 DDD 1994] 正統派コンボ編成による、現代感覚満点の歯切れの良いジャズです。ピアノを弾いているのはマーカス・ロバーツ(盲目黒人)、この人もハンディキャップを乗り越えて、もっか大活躍中です。ミュージカル「失意のダムセルDamsel in Distress」の中の曲を華麗なジャズにしたものです。 次はデューク・エリントンです。 114.(MDH−8) Cotton Tail Mercer Ellington (conducting), The Duke Ellington Orchestra. [Digital Duke grp MJCR-71 DDD 1986] 息子のマーサー・エリントンをもり立てるためでしょう、偉大なデューク・エリントンと一緒に演奏していた人たちが中心になって楽団を編成し(臨時のものかも知れません)、エリントン・ナンバーを演奏している楽団による、新しい録音です。ジャズ音楽一家マルサリス家の末弟であるブランドフォード・マルサリス(Brandford Marsalis)が達者なテナー・サックスのソロを披露しています。 115.(MDH−9) Sophisticated Lady Daniel Barenboim (piano), Dianne Reeves (vocal), Burl Lane (tenor sax), etc. [Tribute to Ellington Teldec 3984-26252-2 DDD 1999] クラシック界の大指揮者でありピアニストでもあるダニエル・バレンボイムがエリントン生誕100年を記念してアルバムを作りました。ダイアン・リーヴスは第一線級ジャズ歌手、さすがにバレンボイムのピアノのテクニックは抜群、ジャズの大先輩に敬意を表する堂々たる記念ディスクになっています。 116.(MDH−10) Caravan Ellis Marsalis (piano). [Duke in Blue CBS-Sony CK-63631 DDD 1999] 「キャラヴァン」はデューク・エリントンの名作のひとつ、デュークのみならずいろいろなジャズ・ミュージシアンが手がけています。ここで軽快かつ達者なピアノ・ソロをやっているのはニューオーリーンズ出身のヴェテラン、エリス・マルサリス。現在最高のインテリ・トランペッターとしてジャズ界の頂点にいる、あのウイントン・マリサリス(このあとすぐに聴きます。もうひとりの息子ブランフォードのサックスは114.で聴きました)の父親です。 117.(MDH−11) Caravan Wynton Marsalis (trumpet), Marcus Roberts (piano), Robert Leslie Hurst III (bass), Jeff "Train" Watts (drums). [Marsalis Standard Time, Vol.I CBS-Sony 25DP-5386 DDD 1986] 上と同じ曲です。父子の比較をしてみてはいかがでしょう。ボストンにバークリー音楽院という大学があります。世界的にも珍しいジャズ専門の音楽大学、それも各種専門学校のようなものではなく、一般教養科目から始まるフル・カリキュラムの大学 なのです。そこを優秀な成績で卒業し、ジャズ演奏家として一家を成し、今では母校の教鞭もとっているウイントン・マルサリスです。ニューヨークの音楽の殿堂リンカン・センターに彼のために作られた「リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ」というのがあります。それを手兵としてウイントンは、全世界を演奏してまわり、また自らも作曲や編曲を手がけて、幅広く活動しているのです。 昨年(1999年)のデューク・エリントン生誕100年記念行事のひとつとして、ウイントン・マルサリス率いるリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラとクルト・マズア(常任指揮者)のニューヨーク・フィルハーモニックが共演しました。たまたまニューヨークを旅行中だった私は、幸運にも1枚だけあったキャンセル・チケットを入手して、その歴史的コンサートを聴くことが出来ました。通常のニューヨーク・フィルの演奏会とは異なり、着飾った黒人の紳士淑女も大勢来場していて、華やかな雰囲気。名門ニューヨーク・フィルに一歩もひけをとらない、それどころか人数的には4分の1程度しかいないのに音量ではニューヨーク・フィルを凌駕する(金管楽器主体ですからあたりまえかもしれませんが)ジャズ・オーケストラの凄さ、そしてウイントンのトランペットの見事なのに、文字どおりほれぼれしてしまいました。同時に、ジャズメンと張り合って競演(バトル?)するニューヨーク・フィルの金管楽器奏者たち、さすがはアメリカのオーケストラです、彼らの即興演奏の巧いのに驚きました。 118.(MDH−12) I'm Gonna Go Fishin' Jeanie Bryson (vocal), Terry Trotter (piano), Red Hollowey (tenor sax), etc. [Some Cats Know Telarc CD-83391 DDD 1995] デューク・エリントンは、それこそ「星の数ほど」たくさんの曲を残していますから、そして多くのジャズ演奏家、歌い手たちに愛されてきましたので、録音も実にたくさんある。その中から数曲を選ぶとなるとどれにするか、まことに難しい選択です。ここでは、いわゆるスタンダード・ナンバーではなく、中堅歌手ジェニー・ブライソンが歌う、ちょっとコミカルな曲を取り上げてみました。題名は「これから魚釣りに行くのよI am going to go to fishing」というもの、それを南部の黒人たちはこのように発音するのです。アルバム名にご注目ください。Some Cats Knowのキャッツはネコではなく、「良いヤツ(すてきな仲間)」という意味のジャズ・ミュージシアンたちの使う俗語(スラング)です。 119.(MDH−13) It Don't Mean a Thing If it ain't got That Swing Grover Mitchell (conducting), Count Basie Orchestra. [Count Plays Duke Mama MMF-1024 DDD 1998] 先に114.で聴いたデューク・エリントン・オーケストラと同じく、もうひとりのジャズ史上の大人物カウント・ベイシーの楽団が、故人生存中に一緒にやっていた仲間を中心にして、現在も活動を続けています。彼らが、かつてはジャズの同僚であり競争相手でもあったデューク・エリントンの生誕100年を記念して、敬意をもってこのアルバムを作りました。この章を閉じるにあたって、デューク畢生の名曲「スウィングしなけりゃ意味が無い」をもう一度、永遠のライバルであるカウント・ベイシー・オーケストラの胸のすくような快演奏で聴きましょう。冒頭のすさまじいドラムスの打ち出しに(時間にしてほんの1秒ほど)、この楽団のドラマーのセンスの良さが遺憾無く発揮されています。楽譜ではあらわせない奏者の瞬間の閃き、そういうものが思いがけず味わえる、それがジャズの楽しみのひとつなのです。あなたも手拍子(もちろんオフビート)、足拍子(こちらはオンビートの方がいいでしょう)しながら、存分にスウィングして下さい。 |
|||
ご意見/ご感想はこちらまで |