Jazzとは何でしょう




TWELVE: Modern Jazzの時代 (5)  
TWELVE: Modern Jazzの時代 (5)

87.(MDF−1)
Blue' n' Boogie Dizzy Gillespie (trumpet), Bud Powell (piano),
and The Double Six of Paris (vocal).
[Dizzy Gillespie & The Double Six of Paris Philips PHCE-10043 AAD 1963]
先の86.でベルギー人が出てきたので、ヨーロッパのジャズに目を向けてみましょう。マイルス・デイヴィスと並ぶモダン・ジャズ・トランペッターの大物ディジー・ガレスピーがフランスのジャズ・ヴォーカル・グループと一緒にかなりの遊び感覚で吹き込んだもの、フランス人が加わるとジャズもずいぶん雰囲気が変わります。ラッパの開口部が天井を向いたような格好のトランペットがあります。あれをガレスピー・ホーンと言って、このディジー・ガレスピーが開発し使い始めたものです。まことにまじめな人、後進の指導にも熱心で、この人の門下から多くの優れたジャズ・ミュージシアンが出ています。アメリカ政府派遣音楽使節団を率いて海外演奏旅行をしたり、国賓を迎えたホワイト・ハウスでの歓迎会に要請されて演奏したりと、優等生のジャズ・ミュージシアンでした。

88.(MDF−2)
Bach' Toccata and Fugue in d, BWV.846 Jacque Loussier (piano),
Vincent Charbonnier (bass), Andre Arpino (drums).
[Jacque Loussier, The Newest Play Bach Philips PHCE-10043 AAD 1963]
ジャック・ルーシェはフランスを代表するジャズ・ピアニスト、バッハの曲をジャズにすることで売り出しました。ベートーヴェンやブラームスはなかなかジャズにしにくいけれど(もちろん苦労してしてジャズ化した人もいますが成功したとは言えません)、ポリフォニー(複声音楽、多重音楽)、カウンターポイント(対位法)の大家バッハの音楽は、ジャズにするのに恰好の題材なのでしょう。アメリカのものとはひと味もふた味も違う、こういう洒落たジャズもいいものです。

89.(MDF−3)
Someday My Prince Will Come European Jazz Trio [= Karel Boehlee (piano),
Frans Van Der Hoven (bass), Roy Dackus (drums)].
[Alice in Wonderland Alfa ALCR-309 DDD 1993]
ヨーロッパを代表するジャズ・グループ(と、少なくともディスクのライナー・ノートにはそのように書いてあります)であるユーロピアン・ジャズ・トリオをやっているのはオランダの人たちです。日本でも人気があるようです。これを聴くと、アメリカの黒人奏者とは違った雰囲気のジャズをヨーロッパではやっていることが分かります。曲はディズニー映画「白雪姫」の中のものから。繰り返し述べてきましたが、こういうみんなが良く知っている曲をジャズにするのは、初期からのジャズの常套手段であり、それがまたジャズを親しみやすい音楽にしているのです。

90.(MDF−4)
Ascenseur pour l'echafaud 映画「死刑台のエレベーター」サウンド・トラック
Miles Davis (trumpet), Burney Eilen (tenor sax), Rene Urtreger (piano),
Pierre Michelot (bass), Kenny Clarke (drums).
[Ascenseur pour l'echafaud Fontana 836305-2 AAD 1957]
フランス映画「死刑台のエレベーターAscenseur pour l'echafaud」は、あと一歩で「完全犯罪達成」というときに、こともあろうに・・・という、スリル満点の素晴らしい映画でした。そしてこの映画はモダン・ジャズを世間に認知させるのにおおいに貢献しました。バックに一貫して流れるモダン・ジャズ、これを独りで、即興演奏でつとめたのがトランペットの、そしてモダン・ジャズの帝王マイルス・デイヴィス。何と、試写室で写されているフィルムを観ながらの即興演奏という離れ業、そして音と画面をあわせてみると、これ以外の音楽は考えられない見事なスクリーン・ミュージックになっていたのでした。映画の成功はマイルスに負うところ大だったのです。これは映画冒頭のところです。

91.(MDF−5)
The Golden Striker 映画「大運河No Sun in Venice」サウンド・トラック
Modern Jazz Quartet [= John Lewis (piano), Milt Jackson (vibraphone),
Percy Heath (bass), Connie Kay (drums)].
[No Sun in Venice Atlantic AMCY-1020 AAD 1957]
65.でも聴いたMJQが、伊仏合作の映画「大運河No Sun in Venice」で音楽を担当したものです。派手で豪華なオーケストラによるハリウッドの映画音楽に対して、モダン・ジャズをバックにしたヨーロッパ映画は、ずいぶん新鮮に感じられたものでした。

92.(MDF−6)
Flight to Denmark Duke Jordan (piano), Mads Vinding (bass),
Ed Sigpen (drums).
[Flight to Denmark Steeple Chase SCCD31011 ADD 1973]
北ヨーロッパもジャズが好きです。デンマークにはジャズの名手が数多く育っており、またアメリカからここへ移り住んでいる 名手たちもいるのです。ここで演奏しているデューク・ジョーダンもそのひとり、アメリカの黒人ですが、アメリカにいた頃とはひと味違う、ユーロピアン好みのジャズになっています。


93.(MDF−7)
Moonlit Desert Kenny Drew (piano), Niels H. O. Pedelsen (bass),
Alvin Jones (drums).
[Cleopatra's Dream Alfa ALCR-230 DDD 1992]
ケニー・ドルーもデンマーク暮らしをしていたアメリカの大物ピアニスト(黒人)のひとりです。ひところは日本で最も人気の高いジャズ・ミュージシアンでしたが、残念ながら先年亡くなりました。日本の童謡「月の砂漠」がこんなにすてきなジャズになりました。ベースを弾いているニールス・ペデルセン(デンマーク人)は、現在最高のベーシストのひとりで、世界各地から引っ張り凧です。89.のユーロピアン・ジャズ・トリオのところでちょっと奥歯にものがはさまったような言い方をしましたが、ここでピアノを弾いているケニー・ドルーと聴き比べてください。アメリカの本場で鍛えられ技を磨いてきているケニー・ドルーの方が、インプロヴィゼイション(即興演奏、つまり主題の展開のしかた)といい、リズム感といい、やはり格が上だとお感じになる筈です。

94.(MDF−8)
Gion Kouta Eddie Higgins (piano), Ray Drummmond (bass),
Ben Riley (drums).
[Again, Eddie Higgins Trio Venus TKCV-35068 DDD 1998]
難解ではなく、分かりやすくムーディーなジャズ(こういうのをカクテル・ジャズと呼ぶ人もいます)だということで、日本で人気のあるトリオによる、「祇園小唄」をジャズにしたものです。美しい楽しいジャズの題材はどこにでもあるのです。

日本にジャズが入ってきたのはかなり昔のことで、腕の立つジャズ・ミュージシアンは第二次大戦前にもいました。日本に活躍の場がなければ、当時アジアきっての国際都市であった上海のクラブなどで演奏し、やはり外国からきていたミュージシアンたちと交流し腕を磨きあっていました。そのころはユダヤ人排斥の嵐を避けて多くの有能なヨーロッパのミュージシアンが上海ほかアジアの主要都市に流れ込んできていたのです。第二次大戦後は、アメリカ駐留軍のキャンプ地を演奏してまわりお金を稼ぎながら、日本のミュージシアン、シンガーたちは、ジャズの腕とセンス磨いたのでした。真面目に演奏することに一所懸命だった彼らにアメリカ兵は「もっとスウィングしろ!」と身振り手振りで教えた、というような逸話がいくつも語り伝えられています。アメリカ駐留軍のFENラジオ放送のお蔭で、アメリカで流行っている音楽、そのスタイルやリズムが旬日を経ずして日本に流入してきました。彼らはそれを聴いて採譜し、直ちに自分たちのレパートリーに組み入れて行ったのです。

95.(MDF−9)
Suzukake no Michi Shoji Suzuki (clarinet) and His Rhythm Ace.
[Swing is My Life Alfa ALCR-231 DDD 1988]
成り立ちから純国産のジャズ曲、その第1号と言えば、この曲になるのではないでしょうか。もとの曲は灰田有紀彦が母校立教大学キャンパスをイメージしつつ、弟勝彦(ハワイアン音楽の歌手)のために作曲した歌謡曲「鈴懸けの道」です。それをクラリネット奏者の鈴木章治が、アメリカのジャズとは違う、つまりコピーではない、ちょっとスウィング調の素晴らしいジャズに仕立て直ししました。

96.(MDF−10)
Too Young for the Blues The Hi-Lo's (vocal).
[I Presume Kapp MVCM-276 AAD 1950年代]
コーラス・グループのジャズを聴いてみましょう。ハイ・ローズは、1950年代を代表するジャズのコーラス・グループです。アメリカにはバーバーショップ・カルテットBarbershop Quartetと言われる男声四人(散髪の順番を待つ間に歌でもうたおうか、という類の、素人のカルテット)が楽しいヴォーカルを聞かせる伝統があります。この斬新なハーモニーを披露するハイ・ローズはその流れにあると言ってよいでしょう。

97.(MDF−11)
Birdland The Manhattan Transfer (vocal).
[Extensions Atlantic 19258-2 DDD 1979]
ロックのリズムを取り入れて豪快なビートに乗って歌いまくっています。これはジャズなのかロックなのか、と判定に苦しむところですが、マンハッタン・トランスファーはニューヨークで非常に人気のあるジャズ・ヴォーカル・グループなのです。

98.(MDF−12)
Oh, Lady be Good New York Voices (vocal).
[New York Voices Collection grp MVCR-235 DDD 1990年代]
こちらもニューヨークの人気ヴォーカル・グループです。大歌手エラ・フィッツジェラルドを追悼して、ガーシュインの名曲(13.で聴いています)をもじった題名の曲とし、その中にエラの最初のヒット曲「ア・ティスケット・ア・タスケット」(29.で聴きました)を挿入したりと、なかなか凝った編曲になっています。

99.(MDF−13)
New York, New York Frank Sinatra and Tony Bennett (vocal).
[Frank Sinatra, Duets Capitol 7243828067-2 ADD 録音時期不詳、1970年代]
ポピュラー畑の大御所フランク・シナトラとトニー・ベネットが気持ち良くブロードウエイ・ミュージカルのヒット曲を歌っています。このようにポピュラーとジャズの間の垣根はあって無いようなものなのです。

100.(MDF−14)
They Say It's Wonderful Bing Crosby amd Rosemary Clooney (vocal).
[Bing Crosby & Rosemary Clooney Capitol 7243828067-2 ADD 1950年代]
「聖しこの夜」とともにクリスマスの歌の代表格になっている「ホワイト・クリスマス」は、ハリウッド映画「ホワイト・クリスマスWhite Christmas」(1954年)の主題曲なのです。そこで主演し歌ったのがビング・クロスビー、ビングと共演した美貌の少女歌手が後のポップス界の大スター、ローズマリー・クルーニーでした。ポピュラーとジャズの区別など誰も気にしなかった時代の快唱です。







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