Jazzとは何でしょう




ELEVEN: Modern Jazzの時代 (4)  
ELEVEN: Modern Jazzの時代 (4)

モダン・ジャズ時代になってビッグ・バンドによるジャズが無くなったかというと、そのようなことはありません。新しいリズム感、ハーモニー感覚を持ち込んだビッグ・バンドが出てきています。カウント・ベイシーやデューク・エリントンなども、スウィング・ジャズから脱皮して新しい時代に適応して行きます。

74.(MDE−1)
Sermonette Quincy Jones and His Orchestra [= Art Farmer (trumpet),
Jimmy Cleveland (trombone), Gene Quill (alto sax), Zoot Sims (tenor sax),
Jack Nimitz (drums), Milt Jackson (vibraphone), Hank Jones (piano),
Charles Mingus (bass), etc.]
[This is How I Feel About Jazz MCA MVCR-20047 ADD 1956]
クインシー・ジョーンズは1970年代から90年代にかけて、ジャズのみならず、ポピュラー音楽や映画音楽の分野でも大活躍し、音楽の世界のアカデミー賞ともいうべきグラミー賞を、毎年のように、しかも多分野で、受賞してきている才人です。このアルバムを作ったときはまだ20代なかば、それでいて超豪華メンバーを揃えたオーケストラを率いて「私はジャズをこのように考える」という、堂々たるタイトルをつけたのですから、その自信のほどがうかがえます。お聴きのとおりの強烈なビート感覚、「これがジャズだ」と言わんばかりです。「オンビート」でウォークしているベースに向かい合って他の楽団員が「オフビート」で手拍子している。あなたもこれに合わせて足踏み、手拍子で「オフビート」して、ジャズのリズム感覚を体験してみてください。

75.(MDE−2)
How High the Moon Count Basie (piano) and His Orchestra.
[Basie in London Verve 833805-2 AAD 1957]
ジャズの歴史とともに歩んできたと言っても過言ではないカウント・ベイシーの胸のすくような演奏、ビッグ・バンドはビッグ・バンドでも、これは明らかにダンスのためではなく、鑑賞されることを前提とした演奏で、ロンドンの聴衆も大喜びです。

ジャズでは「即興性」が重要視される、むしろ生命だ、と繰り返し述べてきました。それはジャズ歌唱でも言えることなのです。楽譜に書いてあるとおり歌ってはジャズにはなりません。書かれた音符を自分なりに消化し、インスピレイションに従って自分の持ち味を加えたものを出さなければ、スポンテニアスでなければ、誰も評価してくれないのです。大きなオペラ・ハウスでマイクなしに歌うオペラ歌手ではないのですから、大声で絶叫する必要はありません。マイクロフォンを楽器のように使って、もっとも魅力あると自分で信じる声を聴かせればよく、音域も自分の得意な幅のあたりだけ使えばよいのです。歌詞lyricsを聴かせたい歌手もいれば、リズム感、ビート感を得意とする歌手もいる。62.のアニタ・オデイのように、声を楽器のように使ってインプロヴァイズするのを得意とする歌手も出てくるでしょう。これをスキャット(scat、scatting、scat singing)と言うのですが、それを使い始めたのが、これまたルイ・アームストロングなのです。ルイの声はお世辞にも美しいとはいえません。しかしその即興歌唱の妙技で、ジャズ歌手としても最高の地位を築き上げました。
それではジャズ・ヴォーカルの女王と謳われたエラ・フィッツジェラルドの卓越したスキャットを聴きましょう。

76.(MDE−3)
Mack the Knife Ella Fitzgerald (vocal), Paul Smith (piano),
Jim Hall (guitar), Wilfred Middlebrooks (bass), Gass Johnson (drums).
[Ella in Berlin Verve POCJ-1805 AAD 1960]
先ほどはロンドンでしたが、こちらはエラがドイツ駐留のアメリカ軍兵士慰問の目的でベルリンへ行ったときのライヴ録音。度重なるステージのせいでしょう声がすこし涸れています。でもそれを吹き飛ばす勢いで自由奔放のアドリブ(旋律も歌詞も)を混ぜながら、スキャットの妙技を披露しています。「マック・ザ・ナイフ」はルイ・アームストロングの持ち歌なので、ルイの真似をしながら彼の名を出して敬意を表しているのです。

77.(MDE−4)
Mack the Knife Dee Dee Bridgewater (vocal), Lou Levy (piano),
Ray Brown (bass), Andre Ceccarelli (drums).
[Dear Ella Verve 537896-2 DDD 1997]
偉大なエラ・フィッツジェラルドを追悼するディスクで、現在もっとも翔んでいるジャズ・シンガーのひとりディー・ディー・ブリッジウオーターが、これまたスキャットを駆使して、同じ歌をうたったものです。しかしもちろんエラのものとはまったく違う。ジャズの面白いところです。

次にエラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロング、ふたりの即興歌唱、スキャットの名人芸、その極致を聴きましょう。

78.(MDE−5)
Stompin' at the Savoy Ella Fitzgerald (vocal),
Louis Armstrong (trumpet & vocal), Oscar Peterson (piano), Herb Ellis (guitar),
Ray Brown (bass), Louis Bellson (drums).
[Ella and Louis Again Verve 825374-2 AAD 1957]
ふたりの名アルバムからの1曲ですが、実はこれはスタジオでの練習(リハーサル、つまり音合わせ)のときのもので、録音技師がこっそりテープをまわしていたのです。聴いてみると本番よりこの方が自発性(スポンテニアスであること)独創性豊で良い、ということで陽の目を見ました。もちろん歌は即興、節まわしはおろか歌詞まで全部即興、だからプロデューサー(ノーマン・グランツNorman Granz)の名前やその話しぶりの真似まで出てきます。Stompingとは足拍子でリズムを取ること、そしてSavoyはスウィング・ジャズ全盛時代に大きなダンスのためのホールがあったニューヨークのホテルです。円熟期のルイ・アームストロングのトランペットの輝く音色、オスカー・ピータソン以下ノーマン・グランツのヴァーヴ・レコードが誇る名手たちの名演奏、好サポートも、存分に楽しんでください。

1971年のあるとき、私はエラ・フィッツジェラルドのナマのステージに接しています。ラスヴェガスの空港からホテルへ行くまでのタクシーの中から「フランク・シナトラ・ショウ」のネオン・サインの看板がみえました。いい機会だからかの有名なフランク・シナトラをこの際ひとめ見ておこうとの軽い気持ちでボックス・オフィスに電話してみたところ、「ご冗談でしょう、チケットはすべて1年前に売り切れです。 No kidding! Tickets are all sold out twelve months ago.」と一蹴されてしまいました。それなら今晩ほかに何が聴けるか、とたずねたら、「エラ・フィッツジェラルドのディナー・ショウなら1枚キャンセルが出ている」とのことだったのです。エラの名前は知っていましたが、そのころはまだジャズには疎かった私なので、ディナーを食べ(例によって、アメリカの巨大で大味なビーフ・ステーキでした)、エラのエンターテインメント精神あふれる歌とショウを楽しんだ、それで終わってしまいました。ジャズ興行界の大物ノーマン・グランツのドル箱歌手エラ・フィッツジェラルドの、花のラスヴェガスでの晴れ舞台でしたから、その晩のサポーティング・ミュージシアンたちも選りぬきの名手たちに違いなかったのですが、メニューと一緒に貰ったプログラムは捨ててしまい、共演者は分からずじまいです。もったいないことをしてしまいました。

たびたびベースやドラムスの名手たちに触れてきました。でもリズム・セクションの中核のピアノは別として、ベースやドラムスが表に出ることはありません。それゆえ彼らはときに「サイドマンside man」と言われます。でも彼らはただ単純に「ボン、ボン」や「ドン、ドン、ジャン、ジャン」を繰りかえしているわけではないのです。耳をすませば、人により、状況により、いろいろ音や響き、リズムが違っているのがわかります。
まずベース。Base、Double bass、Contrabass、Base violin等々呼ばれています。ベーシストがオンビートで弾<ハジ>く「ボン」に続く音は「ボ・ボン」だったり「ボ・ボーン」だったり。そしてコード・プログレッションchord progression(和音の推移進行)に従って爪弾き音を並べて行く(これを「ウォークwalk」と言うとはすでに述べました)演奏のしかたは、人によりみな違うのです。
楽器もいろいろです。正統派は木製の大きなベースを使いますが、近頃はロック系音楽の影響から、小型で電気的に低音まで出せるエレクトリック・ベースを使う奏者も出てきました。したがって本来の木製のベースをアクースティック・ベースacoustic baseと呼んで区別するようになりました。アクースティック・ベースもサイズや材質(安価なベースは合板ですが、天然材の楽器はものによっては非常に高価になります)によって響きが異なるのは当然でしょう。また4本の弦に何を使うかで、音が変わります。典型的にはガットgutというウシかヒツジの腸を固く撚りあわせたものです。これは高価だし湿気を嫌う、またときに緩んだり切れたりします。だから代わりにスチールの弦を使う奏者が増えてきました。またガットのまわりをスチール線で補強した弦もあります。
ピアノやドラムス、またサキソフォンなどとくらべて、どうしてもベースは音量でひけをとります。だから、ときになんらかの拡声装置が必要になる。ベースの前にマイクロフォンを置くのが古典的方法、最近では楽器の中に小型マイクを組み込んだベースを使うベーシストも増えてきました。しかしいかに高価な楽器を使っても、拡声装置が貧弱だと良い音にはなりません。ベーシストにとって頭の痛いところです。
ドラマーを見てみましょう。スウィング・ジャズ時代や現在のロック・バンドのドラマーなどと較べて、モダン・ジャズのドラマーが使うパーカッション楽器群はシンプルです。それにはいろいろ訳があるようです。ひとつには、あまり楽器をふやすと移動持ち運びが困難で運搬費がかさむこと(モダン・ジャズのアーティストたちはロック畑よりは経済的に恵まれていない)、さらに、複雑かつ高度な技術を披露する必要上、楽器を数多く並べても使いきれない、等々。
人により差異はありますが基本的には、@右足のペダルを踏んで「ドン、ドン」をオンビート(1、3拍)で鳴らす大きな太鼓、A左足でペダルを踏んで「チッ・チッ」をオフビート(2、4拍)で鳴らす「ハイ・ハットhigh hat、hi-hat(鉄の心棒を軸に真鍮製のシンバルを上下2枚重ねたもの)」、Bそして手で撥<バチ>やブラシを使っていろいろの音を出す中小いくつかの太鼓、この3種の組み合わせです。ドラムスdrums(=太鼓群)とは言われているものの、いちばん個性的に使われるのはハイ・ハットでしょう。「ドン・ドン」「チッ・チッ」そしてその間に挿入する撥やブラシによる「ジャン・ジャン」「ザー・ザー」「サラ・サラ」音とリズムはまさに千差万別、その組み合わせは無限にあると言ってよいのです。各ドラマーは苦労して(あるいは無意識のうちに)先輩の技を盗み、自分のビートのスタイルを模索し、確立し、やがて自分の個性を売り出して行くのです。
聴き慣れてくると、ちょっとドラムスの音を聴くだけで「あ、〇〇〇が叩いている(あるいは、〇〇〇の真似をしているけどすこし違うな)」と分かるようになってきます。
メインの奏者(ピアノ、管楽器のあれこれ、そして歌手も。フロント・ラインfront lineと言います)は、自分の演奏のイメージに合うベーシストやドラマーを常に探し求めている。だからセンスの良い独特のリズム感覚を持つリズム・セクション(この場合はピアノも入ります)はあちらこちらから「今度一緒にやろう」と声がかかります。この私のテキストでも、同じベーシスト、ドラマーがあちこち顔を出しているのにお気づきでしょう。「サイドマン」ではあるけれど、とても大事な共演者なのです。

78.でピアノを弾いているのは、すでにたびたび聴いてきましたが、カナダ人のオスカー・ピータースンです。彼はジャズ界のスーパー・スター・ピアニスト、超絶技巧と豊かなジャズ・センスでこのところ数十年、つねにトップ・アーティストの座に君臨しています。彼の演奏をいくつか聴いてみましょう。

79.(MDE−6)
All of Me Oscar Peterson (piano), Ray Brown (bass),
Ed Sigpen (drums).
[A Jazz Portrait of Frank Sinatra Verve 825769-2 AAD 1958]
フランク・シナトラの愛唱曲のいくつかをジャズにしたアルバムからの1曲。こういうすてきなジャズを聴けば、誰でも楽しくなるでしょう。なおこの3人は、当時のヴァーヴ・レコードのドル箱黄金トリオです。ベースの名手レイ・ブラウンは今までにもたびたび出てきているし、これからも出てきます。

80.(MDE−7)
Georgia on My Mind Oscar Peterson (piano), Itzhak Perlman (violin),
Herb Ellis (guitar), Ray Brown (bass), Grady Tate (drums).
[Side by Side Telarc CD-83341 DDD 1994]
ポップス界の盲目のスーパー・スター、「R.C.」ことレイ・チャールズRay Charlesがピアノの弾き歌いでうたって有名にした、ブルー・グラス風の名曲(ジョージア州の州歌になっています)を、オスカーほかがしっかりとしたジャズにしたものです。ヴァイオリンを弾いているのはクラシック音楽のス−パー・スター、イスラエルのイツァーク・パールマンです。こういうのを聴いていると、海の向こう側では、モダン・ジャズとクラシックの間には境界線は無いようです。レイ・チャールズは若い頃ナット・キング・コールばりの弾き歌いでジャズをやっていたのですが、さっぱり売れない。あるときなにかの席の余興でブルーズを歌ったらとても良かった。「アンタ、ジャズなんか止めてブルーズ専門にやれよ」と誰かに言われて、「よせやい。オレのクニではみんながこんなブルーズを歌ってるけど、誰も1セントも払いやしねぇや」と答えたとか。

81.(MDE−8)
Golden Earrings Ray Bryant (piano), Ike Isaaks (bass),
Specs Wright (drums).
[Ray Bryant Trio Prestige VICJ-23513 ADD 1957]
レイ・ブライアントは、スイスのお金持ちの避暑地モントルーでのジャズ・フェスティヴァルで弾いて、一躍有名になったピアニストです。「金のイヤリング」は、古くからのスタンダード・ナンバーですが、このレコードがヒットして、ことさら有名になった曲で、今ではいろんな人がレパートリーに加えています。そのむかし王侯貴族お金持ちに招かれて、彼らのサロンで弾いていたモーツァルトやショパンと、時代こそ異なれ、どれほどの違いがあるのでしょうか。

このところピアノが続きましたので、雰囲気を変えて、サキソフォンその他を聴いてみましょう。

82.(MDE−9)
Moritat Sonny Rollins (tenor sax), Tommy Flanagan (piano),
Doug Watkinson (bass), Max Roach (drums).
[Saxophone Colossus Prestige OJCCD-291-2 AAD 1956]
「モリタート」と言っても、クルト・ワイルのオペラ「三文オペラ」からの1曲で、先に聴いた「マック・ザ・ナイフ」と同じ曲です。ソニー・ロリンズはすでにご紹介したサックスの巨人ジョン・コルトレイントと同世代、もうひとりのサックスの大物です。コルトレインは若くして他界しましたが、ロリンズは現在も現役で健在、最近(改訂版作成時=July, 1996)のニューヨーク・タイムズ紙に彼の近況を伝える大きな記事が出ていました。黒人ではありますが出身はカリブ海、そのせいかアフロ・アメリカンとはひと味違う独特のリズム感を持っていて、深刻さをともなわない明るさが彼の持ち味です。人呼んで「ロリンズ節」という、この人独特のインプロヴィゼイションの冴えが聴きどころです。このようにジャズでは同じ曲が演奏者によって全く違う音楽になってしまう、だから面白い。彼は日本が大好きでよく来ているし、ひところはテレビのコマーシャルにも出ていて、哲学者然としたまじめな風貌で、駒形橋をバックにすてきなジャズを吹いていました。

83.(MDE−10)
No Room for Squares Hank Mobley (tenor sax), Lee Morgan (trumpet),
Andrew Hill (piano), John Olle (bass), Philie Joe Jones (drums).
[No Room for Squares Blue Note TOCJ-5756 ADD 1956]
ハンク・モブレイのテナー・サックスは55.でも聴きました。ここでは違った組み合わせ、仲間が変わると本人のジャズも変わってきます。「(ジャズの場所は)四角四面のまじめ人間の来るところではないョ」という題名をつけているアルバムから。

84.(MDE−11)
The Touch of Your Lips Art Farmer (trumpet), Benny Golson (tenor sax),
Bill Evace (piano), Addison Farmer (bass), Dave Bailey (drums).
[Modern Art Blue Note CDP-784459-2 AAD 1958]
トランペットの名手アート・ファーマーの代表的アルバムからの1曲。名前のアートに「近代美術Modern art」、それにモダン・ジャズまでかけた、しゃれたアルバム名です。

85.(MDE−12)
On Green Dolphin Street Barney Kessel (guitar), Ray Brown (bass),
Shelly Mann (drums).
[The Pole Winners Contemporary OJCCD-156-2 AAD 1957]
ギターもジャズの主要楽器のひとつ、今までにもたびたびリズム・セクションのひとつとして聴いてきましたが、ここではギターがメインのトリオです。

86.(MDE−13)
The Summer of '42 Toots Theelemans (harmonica), Louis Van Duk (piano),
Jacque Scholz (bass), Johnney Engels (drums).
[The Real Jazz Ballads Movie Play MPV-5519 AAD 10972]
ハーモニカでもジャズが出来ます。トゥーツ・ティーレマンはジャズ・ハーモニカの第一人者でベルギー人、共演者もヨーロッパの人たちです。ナチス・ドイツ占領下の1942年の夏、ベルギーで何があったのでしょうか。ディスクには何の解説もついていないので分かりません。








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