TEN: Modern Jazzの時代 (3) | |||
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TEN: Modern Jazzの時代 (3) すこしジャズ・ヴォーカルを聴きましょう。 みなが知っている歌をうたう。いちおう楽譜もある。でも譜面どおりに歌ってはジャズにはなりません。楽器奏者がメロディーをインプロヴァイズして自分のジャズとして演奏するように、歌手は原曲を「自分の歌」に作り直すのです。 59.(MDD−1) On the Sunny Side of the Street Frank Sinatra (vocal), Billy May & Orchstra. [Frank Sinatra, The Capitol Years Capitol TOCJ-5273 ADD 1961] フランク・シナトラはポピュラー歌手ですが、ジャズを歌わせても超一流です。そもそもジャズとポピュラーとの境界線はあって無いようなものなのです。フランク・シナトラはマイクロフォンを自分の楽器のように使いこなす名手でした。これは23.で聴いたスタンダード曲、「陽の当たる表通りで」です。軽快そのもの、みごとな歌唱です。 60.(MDD−2) Manhattan Salena Jones (vocal), Rolf Wilson & Orchestra. [S. Jones Sings Great Standard Numbers Dream 21 PRCD-1651 DDD 1996] メル・トーメが同じ曲を軽ろやかに歌うのを26.で聴きました。でもこのように歌われるとまったく違う曲のように聞こえます。だからジャズなのです。 61.(MDD−3) They Say It's Wonderful Johnny Hartman (vocal), John Coltrane (tenor sax), McCoy Tyner (piano), Jimmy Garrison (bass), Elvin Jones (drums). [John Coltrane and Johnny Hartman impulse! GRD-157 ADD 1963] サキソフォンの神様のような人ジョン・コルトレイン(53.で聴きました)の率いる極上のカルテットをバックに、ジョニー・ハルトマンがバリトンばりの美声を聞かせてくれています。この人の特徴は、インプロヴィゼイションではなく、美声とともに歌詞(ジャズではリリックスlyricsと言います)をしっかり聴かせるところにあります。ちょうどクラシックにおけるドイツ・リート(歌曲)のようなものです。ジョニー・ハルトマンも良いが、ジョン・コルトレインのサックスのみごとなこと。ジャズ・シンギングの愉しさを満喫してください。 62.(MDD−4) Them Three Eyes Anita O'Day (vocal), Oscar Peterson (piano), Herb Ellis (guitar), Ray Brown (bass), John Poole (drums). [Anita Sings the Most Verve 829577-2 ADD 1957] こちらは声を楽器のように使う歌いかたです。それほど美しい声とは言えないが、快活なリズムに乗って、楽しげです。バックの凄演はオスカーピーターソンほかの、ヴァーヴ・レコードの看板カルテット、ジャズの醍醐味はこのような共同作業(コラボレイションcollaboration)なのです。 63.(MDD−5) Chicago Tony Bennett (vocal), Count Basie and His Orchestra. [Count Basie & His Orchestra Swings, Tony Bennett Sings Roulette TOCJ-5378 ADD 1959] 「I left my heart in San Francisco」を絶唱して、ポピュラー歌手として人気絶大を誇ったトニー・ベネットも、ときにジャズを歌います。ここではジャズの貴公子カウント・ベイシー楽団をバックに、シカゴ・ジャズ全盛時代に流行った「シカゴ賛歌」を、気持ち良さそうに歌っています。 64.(MDD−6) Black Coffee Peggy Lee (vocal), Pete Candoli (trumpet), Jimmy Rowles (piano), Max Wayne (bass), Ed Shaughnessy (drums). [Black Coffee Decca MYCZ-43 ADD 1953] ペギー・リーのこのハスキー・ヴォイスが1950年代に一世を風靡したものです。彼女の代表的ヒット曲がこの「ブラック・カフィー」、私が学生だったころの初期のジャズ喫茶では始終このレコードがリクエストされていました。気取って、ミルクも砂糖も入れずにコーヒーをブラックで飲みながら聴いた、若き日の懐かしい思い出があります。古い録音ですが、最近のディジタル・リマスタリング技術の進歩で、お聴きのように彼女のハスキー・ヴォイスがみずみずしく蘇りました。 器楽のモダン・ジャズに戻ります。 モダン・ジャズでは他人のやらないこと、出来ないことをやる、というのが重要な課題だと言いました。即興演奏しかり、超絶技巧しかり。そして新しい音、斬新な響き。さらに形式やビートにいたるまで、なにか新しいものはないかと探し続けたのでした。 65.(MDD−7) Softly, As in a Morning Sun Modern Jazz Quartet [= John Lewis (piano), Milt Jackson (vibraphone), Percy Heath (bass), Connie Kay (drums)]. [Concord Prestige OJCCD 002-2 ADD 1955] ピアノのジョン・ルイスは、クラシックのコンサートでバッハを弾いたりする、インテリ黒人アーティストです。彼を軸とするモダン・ジャズ・カルテット通称MJQは、即興演奏に背を向けて、すべての音楽を楽譜どおりに演奏します。しかもステージの上で彼らは常に燕尾服にブラック・タイの正装、ゆえに「あんなのはジャズじゃない」との批判も受けました。しかしお聴きのように、ビート感といいスウィング感といい、まぎれもなく、しかも非常に高度なレベルにあるジャズです。この「朝日のように爽やかに」はMJQのテーマ曲でもあります。ミルト・ジャクソンの叩く怜悧なヴィブラフォンが、このグループにしか出せない音色を醸成しています。 ジャズの拍子(ビート)の基本は2拍子か4拍子、それに加えてスウィング・ジャズ時代にはダンスのために3拍子を少しばかり・・・。しかしそれだけでは面白くない、拍子(ビート)も変えてしまおう、そう思う人が出てきました。 66.(MDD−8) Take Five The Dave Brubeck (piano) Quartet. [Time Out Columbia CK-40585 ADD 1958] デイヴ・ブルーベックはクラシックの作曲を学んでいたインテリのピアニストです。彼の超ベスト・セラー・アルバム「タイム・アウトTime Out(スポーツ試合で審判がコールする「タイム」のこと)」の中の1曲で「5分間休憩を取れTake Five」という曲名、その拍子が4分の5(5拍子 )という変わったもので、同時に「5拍子でやれ」とも解釈できる凝ったものです。この曲がアメリカの大学生に爆発的に受けた時期(1950年代)があり、それがきっかけでアメリカの白人インテリ層にモダン・ジャズ・ファンが急増した、と言われています(デイヴ・ブルーベック・カルテットはみな白人でした)。数年前日本でもテレビ・コマーシャルに使われましたので、耳にした記憶があるでしょう。 67.(MDD−9) The Girl from Ipanema Stan Getz (tenor sax) Quartet, with Joao Gilberto (guitar and vocal). [Getz/Gilberto Verve 810048-2 AAD 1955] スタン・ゲッツは、その当時のアフロ・アメリカン色の濃い激しいリズムのジャズ(ホット・ジャズ?)に対抗する意味をこめて、知的で静かな「クール・ジャズ」を指向していました。そしてブラジルのボサノヴァのリズムをジャズに持ち込んでみたのです。それが大成功、ボサノヴァのリズムは一世を風靡し、その影響で一時アメリカの(のみならず世界の)ジャズ界にはボサノヴァその他もろもろのラテンのリズムが氾濫しました。 68.(MDD−10) Lullaby of Birdland George Shearing (piano) Quintet. [George Shearing MPS 833284-2 AAD 1974] 先に45.で聴いた「バードランドの子守唄」を、同じジョージ・シアリング・クインテットが時の流行に乗って(悪乗りして?)ラテンのリズムで演奏したものです。これも一応はモダン・ジャズですが、「ちょっと横道にそれたかな」と感じる人もいたでしょう。 でも一時のブームが去ると、ジャズ本来のリズム、つまり4拍子か2拍子、に戻って行きます。というわけで、我われもそこへ戻ることにしましょう。 69.(MDD−11) I'll Remember April Erroll Garner (piano), Eddie Calhorn (bass), Denzil Best (drums). [Concert by the Sea Sony SRCS-7064 AAD 1958] ピアノ、ベース、ドラムスの基本的コンボです。エロール・ガーナーはまったくの独学でピアノを覚えた黒人奏者(初期のジャズ奏者はみな独学でしたから驚くことはありません)、そのせいかタッチがやや荒っぽい。ところがその粗雑なビート感が魅力になっているのです。曲は古くからのスタンダード・ナンバーです。欧米でもっとも多く売れたジャズのレコードと言われたライヴ録音アルバム「海辺のコンサート」からの熱演です。 70.(MDD−12) I'll Remember April Andre Pevin (piano), Red Mitchell (bass), Frankie Capp (drums). [King Size Contemporary VICJ-23595 ADD 1958] クラシック音楽界の大指揮者でありピアニストであり作曲家でもあるアンドレ・プレヴィンですが、若い頃は生活のため、ハリウッドの映画音楽を書いたり編曲をするかたわら、ロサンゼルスのジャズ・クラブでピアノを弾いていました。これはその頃の録音です。上の69.と同じ曲ですが、まったく違う。エロール・ガーナーとは正反対、厳しいクラシック音楽のピアノの訓練を経てきているだけに、テクニックには格段の差があります。土臭さの無い、洒落たジャズになっています。 71.(MDD−13) You'd be So Nice to Come Home to Paul Chambers (bass), Hank Jones (piano), Kenny Burrell (guitar), Art Taylor (drums). [Bass on Top Blue Note TOCJ-9014 ADD 1957] 今までにたびたび登場しているベースの名手ポール・チェインバースがリーダーとなって作った名アルバム「バス・オン・トップ」から、これもたびたび聴いてきた曲を選んでみました。ベースがバックでウォークするだけの域を越えて、フロント・ラインの分野で演奏しています。ギターの名手ケニー・バレルにも耳を傾けてください。 72.(MDD−14) Just You, Just Me Joshua Redman (tenor sax), Ray Brown (bass), Benny Green (piano), Gregory Hutchinson (drums). [Some of My Best Friends are the Sax Players Telarc CD-83388 DDD 1996] こちらもベースの大ヴェテラン、レイ・ブラウンをリーダーとするアルバムから。題名どおり、このアルバムは、レイの長いキャリアの間で一緒に演奏した、親しいサックス奏者数人(いずれも名手ばかり)を招いたという、贅沢な顔ぶれを揃えたものです。ジョシュア・レッドマンは現代を代表するサックス奏者のひとり、後で(105.)聴くDewey Redman(やはりサックス奏者)の息子です。ときに前衛的ジャズもやりますが、ここでは大先輩レイ・ブラウンに敬意を表して、正統派的アプローチです。しかし気持ちよさそうに吹いています。 73.(MDD−15) Take the 'A' Train Lionel Hampton (vibraphone), Barry Kiener (piano), Tom Warrington (bass), Buddy Rich (drums). [Vintage Hamilton Telarc CD-83321 DDD 1993] ベニー・グッドマンたちと一緒に1930年代にプレイしていたライオネル・ハンプトン(たびたび聴いてきました)は、80歳を超えたいまも現役、かくしゃくとしています。モダン・ジャズにも適応して、お聴きのように見事な演奏です。まさに驚異的。曲はご存知デューク・エリントンの「A列車で行こう」、スウィング・ジャズの香りを残した、なかなか愉しいジャズですね。 |
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