Jazzとは何でしょう




NINE: Modern Jazzの時代 (2)  
NINE: Modern Jazzの時代 (2)

LPレコードが貴重品で各人の家で聴くことができなかった時代に、日本ではレコード喫茶が流行りました。クラシックならあの店(名曲喫茶)ジャズならこの店(ジャズ喫茶)というような、評判の喫茶店が都内にいくつかあって、自分のリクエスト曲が聴けるまで、コーヒー1杯で何時間もねばったものです。初期のジャズ・ファンはこうして他人がリクエストした曲までたっぷり聴いて、それまで知らなかったジャンルや演奏スタイルに接し、学び、レパートリーを広げて行ったのでした。
そのころに「これがモダン・ジャズだ」ということで、始終リクエストされていた曲のひとつを聴いてみましょう。

48.(MDC−1)
Moanin' Art Blakey (drums) and The Jazz Messengers.
[Moanin' Blue Note CDP-746516-2 AAD 1958]
アフロ・アメリカン色の濃い土臭いジャズです。こういう雰囲気を「ファンキーfunky」だと言います。本テキストの冒頭で述べた、黒人の教会での音楽、牧師が「キリストこそ我らの救い主」と叫び歌うと、会衆が「そうだ、そうだ」と叫び応じる。そう、コール・アンド・レスポンスです。この曲の出だしはまさにそれそのものです。4拍子の頭をベースが「ボン・ボン」と押さえ、2拍目と4拍目のオフビートをドラムスが「ジャン・ジャン」と景気よくたたいている。「リズムがジャズの基本要素」と言ってきた意味がお分かりでしょう。アート・ブレイキーはもちろん最高のドラムス奏者のひとりですが、彼のジャズへの貢献は、アート・ブレイキー学校と言ってもよいほどに、彼のグループから多くのモダン・ジャズの俊英が育ってきている点にあります。

先に、小グループ(コンボ)の典型的なものが、ピアノ、ベース、ドラムスによるトリオだと述べました。ジャズの根幹ともいうべきリズム(ビート)を受け持つ楽器群を「リズム・セクションrhythm section」と言います。ベースとドラムスがリズム楽器だとは誰でもわかりますが、実はピアノも打楽器のひとつで、リズム・セクションのメンバーなのです。だからこれはリズム・セクションだけによるコンボです。

49.(MDC−2)
Saint Louis Blues Teddy Wilson (piano), Milt Hinton (bass),
Oliver Jackson (drums).
[Teddy Wilson LRC CDC-9003 ADD録音時期不祥<1940年代後半?>]
テディー・ウイルソンは黒人ながらその技量を見込まれてベニー・グッドマン楽団に加わったピアニスト、この演奏ではまだスウィング・ジャズの名残りがうかがわれますが、もうこれでダンスをするつもりはない、そういう分野に入っています。ピアノの快演のバックでベースが気持ちよさそうに「ボン・ボン」とやっています。こういうプレイを「ベースがウオークwalkしている」と言います。ドラムスはしっかり「オフビート」ですね。

クラシック音楽の偉大な指揮者であり、またミュージカル「ウエストサイド物語」などの作曲者でもあるレナード・バーンスタインLeonard Bernstein(1918-90)は、ジャズにも深い共感を示した人でした。彼は簡明かつすぐれたジャズの解説をしています。
『スウィング・ジャズ、ビッグ・バンド・ジャズでダンスに興じた我われは、次にジャズを「聴く」ようになった。LPレコードが普及し居間で音楽が聴けるようになって、コンサート・ホールで「オーケストラを聴く」から、サロンや居間で「室内楽を聴く」ようになった。ジャズで、その「室内楽」に相当するものが「モダン・ジャズ」だ。』

50.(MDC−3)
Just One of Those Things Al Haig (piano), Bill Crow (bass),
Lee Abraham (drums).
[Al Haig Trio Venus TKCZ-79530 ADD 1959]
コール・ポーターの名曲を名手アル・ヘイグが即興演奏の限りをつくして、縦横無尽に弾きまくっている痛快至極の演奏です。ビル・クロウ の「ウオーク」は快適を通り越して「駆け足」のようですね。

51.(MDC−4)
Autumn Leaves Bill Evance (piano), Scott La Faro (bass),
Paul Motian (drums).
[Portrait in Jazz Riverside OJCCD-088-2 AAD 1959]
ビル・エヴァンズはモダン・ジャズの初期・中期を代表する白人インテリのピアニスト、先のアル・ヘイグが自分中心で弾きまくっているのとは違い、メンバー3人が均等に役割を果たし技を示す(インター・プレイinter playという)ように配慮しているのが分かります。スコット・ラファロ、ポール・モチアンともに(たびたび取り上げています)、この時代を代表する名手たち。シャンソンの名曲「枯れ葉」はジャズ・ミュージシアン好みの曲らしく、多くの録音がなされています。

52.(MDC−5)
My Funny Valentine Eddie Higgins (piano), Ray Frummond (bass),
Ben Riley (drums).
[Haunted Heart Venus TKCV-35034 DDD 1997]
こちらは現在現役バリバリのトリオで、録音が格段に良くなっています。エディー・ヒギンスはモダン・ジャズの初期からあちこちのバンドでピアノを弾いてきているヴェテランです。前衛的なジャズにはクビを突っ込まず、聴いている人々に安心感を与えるジャズに徹してきました。気の合った三人が、いかにも楽しげにインター・プレイしています。

ジャズがひとつの新しい楽器にスポットライトをあてました。19世紀後半に世に出た吹奏楽器で、ベルギー人アドルフ・サックスAdolphe Saxが発明開発した「サキソフォンSaxophone(通称サックスSax)」です。歴史が古く演奏者も多いクラリネットとほぼ同じ技法で演奏でき、しかもはるかに大きな音が出るので、新しい音楽ジャズが使い始めると、またたくまにその主流の楽器のひとつになりました。サックスにはソプラノ・サックス(小型で高音を出す。クラリネットとの差が少ないせいか、あまり普及していない)、アルト・サックス(高・中音)、テナー・サックス(中・低音)、バリトン・サックス(大型で、低音に迫力がある。専門の奏者は少なく、ほかのサックス奏者が低音補強のためにこれに持ち替えて使うことが多い)等があります。我われもすでにチャーリー・パーカーやアート・ペパー(42.43.46.、いずれもアルト・サックス)を聴いてきています。モダン・ジャズがひとつのジャンルとして認知されるのにおおいに貢献した、サックス の巨人の演奏をじっくり聴いてみましょう。

53.(MDC−6)
Good Bait John Coltrane (tenor sax), Red Garland (piano),
Paul Chambers (bass), Art Taylor (drums).
[Soultrane Prestige VICJ-23507 AAD 1958]
モダン・ジャズの巨人(giant)と言われているジョン・コルトレインがテナー・サックスを吹いています。興が乗ると、ブルーズ音楽の形式(AABA)などには無関係に、延々とソロ・インプロヴィゼイションを続ける、またそれが許されるという、モダン・ジャズ特有のスタイルは(以前にもあったでしょうが)この人によって完成されました。このように主としてメインのメロディーとその発展したものを担当する役割(管楽器のことが多い)を「フロント・ラインfront line」と言います。バックで粋なサポートをしているトリオ(リズム・セクションと言う、とはすでに述べました)はレッド・ガーランド、ポール・チェインバース、アート・テイラー、いずれもそうそうたる名手たちです。

54.(MDC−7)
In a Little Spanish Town Benny Carter (alto sax), Earl Hines (piano),
Leroy Vinnegar (bass), Shelly Manne (drums).
[Swingin' the '20s Contemporary VICJ-23591 ADD 1958]
スウィング・ジャズ時代からの名手ベニー・カーターとアール・ハインズが、モダン・ジャズ時代になってから名を上げてきた名ドラマー、シェリー・マンたちと一緒にプレイしたものです。うきうきするスウィング感覚はたっぷりあって、しかし「聴いて楽しむ」ジャズになっていることが実感できるでしょう。


55.(MDC−8)
Remember Hank Mobley (tenor sax), Wynton Kelly (piano),
Paul Chambers (bass), Art Blakey (drums).
[Soul Station Blue Note TOCJ-9016 ADD 1958]
いまはむかし、古き良き(?)LP時代にBlue Note ST-84031として世に出て、「あの84031は・・・」と語られた名盤「ソウル・ステイション」からの1曲、CD復刻盤がむかしそのままのジャケット・デザインで出て、そこにはST-84031が(CD番号とは無関係に)読みとれます。豪華絢爛たるリズム・セクションをバックに、当時の若手売出し中であったハンク・モブレイが、颯爽とフロント・ラインをつとめています。

ジャズの発祥そしてディキシーランド・ジャズ時代から、トランペットはジャズの主役でした。そしてそれはモダン・ジャズ時代にも継承されています。トランペットといえば、ジャズの神様ルイ・アームストロングを思い浮かべますが、彼とモダン・ジャズを関係づけるには若干無理があります。ここではモダン・ジャズの帝王と言われたマイルス・デイヴィスのトランペットを聴くことにしましょう。

56.(MDC−9)
So What Miles Davis (trumpet), J. Cannonball Adderly (alto sax),
Paul Chambers (bass), James Cobb (drums), John Coltrane (alto sax),
Bill Evans (piano).
[Kind of Blue Columbia CK-49579 AAD 1959]
マイルス畢生の名作アルバム「カインド・オブ・ブルー」の中の1曲です。マイルスのトランペットも見事だが、一緒にプレイしている連中がもの凄い。日本のプロ野球でいえば、長嶋、王、中西、豊田、金田、稲尾などが一緒にプレイしている、そういう超々豪華メンバーが顔をそろえています。

このアルバム名のように、ジャズではよく「ブルー」という表現を使います。日本語に訳し難いのですが、「物憂い」とか「やるせない」、というマイナス指向の感情なのに、他方ではそれを何となく楽しんでいる、そういう複雑な気分を「ブルーだ 」、と言う。そしてジャズはそれを大事にしているのです。そういう雰囲気を出すのがブルー・スケールblue scaleという、ジャズが使う独特の音階です。ここでは、ドレミファの「シB」音がクラシック音楽の長調の音階のシよりやや(ほぼ半音)低い。ピアノのように平均率で調律された楽器では出せないのでやむを得ず「B♭」になりますが、弦楽器、管楽器、歌唱ではこれを「半音」ではなく「ほぼ半音」低く出すのです。このほぼ半音低い音を「ブルー・ノートblue note」と呼び、これがジャズをジャズたらしめていると、考える向きもあります。ジャズ専門の有力ディスク・レーベル、あるいは著名なジャズ・クラブ名の「ブルー・ノート」はここから取ったものです。

57.(MDC−10)
Cherokee Clifford Brown (trumpet), Gigi Gryce (alto sax),
John Lewis (piano), Percy Heath (bass), Art Blakey (drums), etc.
[Clifford Brown Memorial Album Blue Note TOCD-9024 ADD 1953]
さきに47.でも聴いた、夭折の天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの演奏です。スウィング・ジャズ時代の人気曲「チェロキー」をもとに、自由奔放にクリフォードがインプロヴァイズしています。バックとくにピアノとドラムスも見事でしょう。

58.(MDC−11)
I Remember Clifford Lee Morgan (trumpet), Gigi Gryce (alto sax),
Benny Golson (tenor sax), Wynton Kelly (piano), Paul Chambers (bass),
Charlie Persip (drums).
[Lee Morgan Blue Note TOCD-9021 ADD 1957]
録音当時新進気鋭のトランペッターだったリー・モーガンのデビュー・リード・アルバムから。57.のクリフォード・ブラウンを追悼して、テナー・サックスのベニー・ゴルソンが作った曲を、切々と吹いています。その後この曲はバラードの名曲として好まれ、いまではジャズのスタンダード・ナンバーとして、すっかり定着しました。







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