Jazzとは何でしょう




SEVEN: 自発性独創性を求めて  
SEVEN: 自発性独創性を求めて

ニューヨークやシカゴなどのホテルの宴会場でダンス音楽を演奏したり、アメリカ各地を巡業するのは、レコードの売れ行きとの相乗効果もあって、よいお金になりました。でもお客はいつも同じヒット曲を同じように演奏することを要求する、しかも1曲の演奏時間には3分かせいぜい4分というSPレコードの制約があり、演奏者の表現の自由は制限されました。楽譜に書かれたとおりの音楽をやることから開放された筈のジャズですが、人気が出てくると、人々の要求に応えて繰り返し同じ曲を、同じように演奏するようにならざるをえませんでした。かくして、腕の立つアーティストたちには欲求不満(ストレス)が溜まってきたのでした。
彼らはそのはけ口を契約演奏時間終了後に三々五々集まって、自分勝手に演奏することに見出しました。これをafter hours sessionと言います。集まる場所はニューヨークの倉庫だったり、閉店後の楽器店だったり、終夜営業のハーレムのもぐり酒場だったりと、さまざまでした。そこでの自発的独創的即興演奏が面白い、との評判がたつと、それを聴きに行く人びとも出てきました。ダンスのための音楽ではない、3分半の制約もない、ミュージシアンたちが自由に楽想を発表できる場所が出現したのです。楽譜どおりに演奏することから解放されたのですから、即興演奏がその生命、インスピレイションの赴くままに、そしてテクニックの限りを尽くしての、ミュージシアンたちの演奏の競いあい、熱い戦い(文字通りバトルbattleという用語が使われます)が繰り広げられたのでした。そしてその場を提供する専門クラブも出来ました。
ときあたかも第二次大戦が始まったころです。若者たちは明日をも知れぬ命の最後の自由を楽しもうと、この新しい気力に満ちた音楽に聴きほれたのです。白人も黒人も、アメリカ生まれの人、世界各地からの移民やその子供たちも、みな一緒に訓練を受け、銃を執り、戦場へ向かい、そして戦いました。一皮ずつ剥けるように、人種間の理解、融和が進行し、黒人そして彼らの音楽、演奏が、市民権を得るようになったのです。

37.(MDB−1)
Body and Soul Louis Armstrong (trumpet) and His All Stars
[Satchmo at Symphony Hall, Boston Decca WWC5-340 AAD 1947]
第二次大戦中の録音の手持ちがほとんど無いので、戦後まもなくの音源を使います。またルイ・アームストロングが登場しますが、ここの演奏の主役はクラリネットのバーニー・ビガードBarney Bigard(ニューオーリーンズ生まれの黒人)です。「身も心もBody and Soul」は激しい歌詞のジャズ・ヴォーカルのスタンダード・ナンバー、それを主題にしてディキシーでもスウィングでもない、新しい息吹を感じさせるジャズになっています。後半になってルイほかの名手たちが賑やかに登場し、スウイング感がでてきてディキシーのような雰囲気になります。黒人のルイがバンド・リーダーで、その下に白人が二人入っている(トロンボーンのジャック・ティーガーデンとピアノのディック・ケアリ)、演奏会場は名門ボストン・シンフォニーの本拠地です。ジャズが着実に市民権を得つつある、そういうことも分かります。

38.(MDB−2)
Star Dust Lionel Hampton (vibraphone) All Stars
[Just Jazz Decca MCAD-42329 AAD 1947]
ヴィブラフォン奏者ライオネル・ハンプトンを軸としたバンドの「スター・ダスト」、この名曲の演奏にこれを超えるものは無い、とまで言われている、極めつけの名演で、後に解説するモダン・ジャズの雰囲気をすでに漂わせています。先に24.でも聴いた同じ曲ですが、これはもうダンスをするための「スター・ダスト」ではないでしょう。そして3〜4分間のSPレコード録音時間の制約からも完全に解放されています。第二次大戦終了後間もないころのロサンゼルス公演からのライヴ録音です。このライオネル・ハンプトンはスウィング時代のスター・ア−ティストですが、モダン・ジャズ時代にも上手に適応して、80歳を超えた現在でも現役で活躍中という怪物です。

39.(MDB−3)
Until the Real Thing Comes Along Billy Holiday (vocal),
Teddy Wilson (piano), etc.
[Billy Holiday, A Port of Lady Day Sony SRCS-7161 ADD 1942]

40.(MDB−4)
Cow Cow Boogie Ella Fitzgerald (vocal).
[Ella Fitzgerald 75th Birthday Celebration grp GRD-2-619 ADD 1942]
入手し得る数少ない第二次大戦中のレコーディングを聴きましょう。39.はブルーズの貴婦人ビリー・ホリデイ、40.は後年のジャズ歌唱の女王エラ・フィッツジェラルドのものです。アメリカの兵士たちは、このようなジャズをラジオであるいは蓄音機で聴きながら、戦場で戦っていたのです。









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