私のコンサート評




私のコンサート評  
Mozart: "Le Nozze di Figaro"「フィガロの結婚」

Octover 12 (Sunday), 2003
新国立劇場
Production: Andreas Homoki
Conductor: Ulf Schirmer
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra
Cast:
アルマヴィーヴァ伯爵:Christopher Robertson 伯爵夫人:Janis Watson
フィガロ:Peteris Egritis スザンナ:中嶋彰子 ケルビーノ:Elena Zhidkova
マルチェリーナ:小山由美 バルトロ:Xiaoliang Li バジリオ:大野光彦

 新国立オペラ・ハウスの芸術総監督がウィーン出身のトーマス・ノボラツスキーに代わった。ひとつの演目をシングル・キャストで演じ通す、という新しい試み。侃々諤々〈カンカンガクガク〉賛否両論噴出するなかで、まずは「オレの舞台を観てくれ」と披露したのが、数あるオペラのなかでもその頂点に立つ作品のひとつ「フィガロの結婚」だった。そしてそれは大成功。

 上質のジャズのナマ演奏を聴いていると、知らず知らずのうちに、リズムに合わせて足で拍子を取っているだろう。ウルフ・シャーマーの創り出す快適なテンポ、躍動感に乗せられて、評者はこの日のモーツァルトを聴きながら、思わず足で拍子を取っているのだった。

 ウィーン・スターツ・オパーのコレペティトゥール出身のシャーマーは、自らチェンバロを弾きながらの指揮である。レシタティーヴの箇所では随所に絶妙なアドリブを挿入、そして終始、明快、快活に、音楽を前へ前へと押し出してゆく。弾き振りならではの爽快感。第1・2幕を続け、休憩を挟んで第3・4幕も続けてしまう試みも、爽快感を盛り上げている。各歌手たち、コーラス・メンバーを含めた一体感、オペラ・ハウス全体のチーム・ワークが素晴らしい。

 1963年10月23日、日生劇場?〈コケラ〉落とし公演の、カール・ベームの、あの「フィガロの結婚」をはじめとして、評者は今までに何回、何十回の「フィガロ」を聴き、観てきただろうか。そしてその序曲の第1音から、フィナーレの最後の1音、その余韻まで知っている・・・そう豪語したくなるほど熟知しているオペラ・・・そのつもりでいた。だが、このたびの新国立劇場のニュー・プロダクションでは、今までとは違う新しい「フィガロ」にめぐり合えた、そういう喜びと感動を味わうことが出来たのである。

 アンドレアス・ホモキの奇想天外な演出、舞台、それがまったく新しいダイメンションの「フィガロ」を現出させたのだ。ヨーロッパ封建制の末期に、奇才ロレンツォ・ダ・ポンテが、そして天才モーツァルトが、諧謔と天妙の音楽に包んで描こうとしたフィロソフィーが、まことにストレートに観客に伝わる。ナポレオンが「フランス革命は『フィガロの結婚』の第1幕から始まった」と言ったとか、その言が真実味を帯びて聞こえてくるのだ。21世紀のヨーロッパ舞台芸術の第一線で活躍するアーティストのたちの先進性、実力、凄さを証明する、秀逸の出来映えである。

 瑞西、英、米、露、中そして日本と、国際色豊かな若手・中堅の実力歌手たちをそろえ、十分な稽古を経て、歌唱も演技もよく練られており、みごとなアンサンブル・オペラに仕上っている。東京フィルハーモニーにも最上級の合格点。とにかく、モーツァルトとともに、至福の3時間が味わえる、珠玉の「フィガロの結婚」だった。







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