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|  |  | Verdi: "Un ballo in Maschera"「仮面舞踏会」 
 March 21 (Friday 春分の日), 2003
 愛知県芸術劇場大ホール
 愛知県文化振興事業団第148回公演
 Stage Director: 高島勲
 Conductor: Marco Boemi
 Orchestra: Nagoya Philharmonic
            Orchestra
 Cast:
 リッカルド:佐野成宏 レナート:直野資
            アメーリア:佐藤しのぶ
 ウルリカ:西明美 オスカル:天羽明恵
            サムエル:平良交一
 トム:清水宏樹 シルヴァーノ:後藤雄一
            裁判官:秋谷直之
 
 国際レベルの日本人オペラ歌手たちを結集してのヴェルディ、これだけのメンバーが東京で揃うことはまず無い、そう見込んで、名古屋まで出かけることにした。そして、その期待に見事に応える素晴らしいパフォーマンスであった。
 
 パルマ王立歌劇場から持ち込んだ舞台と衣裳は、近ごろ横行する奇をてらった安直なものとは違い、正統派そのもの。それがこの劇場の余裕十分大きな舞台によくマッチして、心地よい安定感を観客に与えてくれている。この立派な舞台装置をわずか2回しか使わないとは、何ともったいないことだろう。
 
 リッカルドを歌った佐野成宏が、一段と成長振りを見せかつ聴かせた。恵まれた体躯から溢れ出る艶のあるイタリアン・テナーの大音声は、いままでの日本人テナーには無かったもの。カーテン・コールでの聴衆の反応も一番大きかったのではないか。そしてヴェルディ・オペラでは要〈カナメ〉のバリトン役(レナート)を務めた直野資も、奥行きのある低音美声で好演、好唱。
 
 アメーリアの佐藤しのぶ、この日本を代表するプリマドンナの存在感は格別なものがある。第1幕第2場の出だしではやや不安定かと心配させたが、以降みごとに立ち直り、声(美声、音程、声量ともに文句なし)、立ち居振る舞い、容姿と、三拍子そろった堂々たるヴェルディ・プリマドンナ振りであった。ヴェテラン・メゾ・ソプラノの西明美のウルリカも好唱。そして、この日の成功のもうひとりの貢献者はオスカルの天羽明恵、明澄なリリック・ソプラノの美声と軽快な動きの演技で、オペラを大いに盛り上げた。
 
 よく訓練された合唱(東京オペラ・シンガーズと地元のAC合唱団)がいい。それは第1幕の冒頭から耳をそばだたせるものだったし、第2幕・深夜の墓地で「アッハッハ、アッハッハ・・・」とレナートを嘲笑するシーンでは、良き演技指導と相俟って、レナートの受ける辱めの心情がよく分かり、本公演中秀逸の場面を創出していた。
 
 オーケストラ(名古屋フィルハーモニー)がいい。残念なことに最近の東京でのオペラ公演では、オペラ馴れからか、練習不足からか、雑なオケ演奏が散見される。このたびの名古屋フィルは、音色はともかく、練習は十分のようで、イタリア・オペラを熟知した指揮者(マルコ・ボエミ)によくついていた。熱演、熱唱のあとだけに長々と続いたカーテン・コール、その間中、オーケストラ・ピットのオケ・メンバーも一緒になって歌手たちに拍手を送っていたのが印象的。東京ではオケ・メンバーはさっさと帰宅してしまうのが常であるからだ。歌手たち、コーラス、オーケストラが十分練習を積み重ねてきた、その一体感が、こういうことからもうかがえた。
 
 十分な練習、その多くが部分々々の練習であっただろう。だからその裏返しとでもいうべきか、場面々々の連続性にはやや難があったようにも感じられたが、その程度の瑕疵はささいなもの。
 
 名古屋に立派なオペラ・ハウスが出来た、そういう話をきいて羨ましく思っていたのはかれこれ10年前のことだったか。その後ようやく東京にも新国立オペラ・ハウスが出来て、国際的レベルのオペラが楽しめるようになったのだが、今回念願かなってその愛知県芸術劇場を訪れることを得て(今を去る四十数年前、評者が名古屋暮らしをしていた頃ここには確か名古屋ローンテニス・クラブがあったはずだが、などと思いをめぐらし)、感無量であった。
 
 
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