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2002年11月21日(木)・東京オペラシティコンサートホール
Schubert: 歌曲集「冬の旅 Winterreise」
独唱: ペーター・シュライアー
Peter Schreier(tenor)
ピアノ: カミロ・ラディケ Camillo
Rdicke
「ふしぎな老人よ、私はお前についてゆくことにしようか? 私の歌に、お前のライエルのしらべを、あわせてくれるのだろうか?
Wunderlichter Alter, Soll ich
mit dir gehn?
Willst zu meinen Liedern, Deine
Leider drehn?・・・」。1935年生まれ、本年67歳のこのドイツの名テナーが、「冬の旅」の最終(第24)曲『辻音楽師』を歌い終えたとき、オペラシティコンサートホールの(ほぼ)満員の聴衆はしわぶきの音ひとつたてず、数十秒の沈黙をまもり、この夜のシュライアー入魂の名唱を称えた。
それはもう、音楽、あるいは歌唱の域を超えた、ヴィルヘルム・ミュラーの連詩に託してペーター・シュライアーが自らの人生をふりかえり、詠じ、歌ったものではなかったか。
評者のシュライアーとの出会いは1968年にさかのぼる。それから三十数年、彼のモーツアルト、バッハ、ワーグナー等々、そしてシューベルトを、数多く聴いてきた。この夜の「冬の旅」はその総仕上げなのか・・・。いや、彼はまだ歌い続け、指揮をし、活力をもって人生を歩み続けるであろう。評者は彼と同年、こちらもしっかり生き続けなければ。
シュライアーは風邪を引いているようだ、との噂が耳に入っていた。でも、ステージの上からはそのような様子はまったく感じられなかった。いつもと変わらぬ美しい高音、節まわし、そして歌うというよりは詩を読むが如くの抑揚、表情。第15曲「カラス」では、意図してであろう、音符を離れて「カラスよ・・・」と語りかける。至芸である。
ステージ両サイドに設けられた字幕、これが良く出来ていて、タイミングも絶妙。歌手が聴衆に伝えたいこと、訴えたいことが素直に目にそして耳に入ってくるのである。
同行の友人、ドイツ・オーストリーの歴史、文化の研究者であり、その音楽をこよなく愛し続けてきた人が、帰り際にいわく「こんなに素敵にリードを歌うドイツ人歌手は、もう他にいなくなってしまいました」。同感である。
東部ドイツ(ドレスデン)出身の若い伴奏者カミロ・ラディケが、同郷の大先輩の名唱を、丁寧に、情感を込めて、支えていた。
シュライアーは「自分の歌を一所懸命、温かく、聴いてくれる、日本の聴衆が大好き」と言っているそうである。この夜の聴衆は、再度それを証明した。
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