私のコンサート評




私のコンサート評  
Wagner: "Die Walkure" Act 1
(演奏会形式)
2002年11月10日・サントリーホール
指揮: ゲルト・アルブレヒト
ジークムント: ポール・エルミング(tenor)
ジークリンデ: ペトラ・ラング(mezzo-soprano)
フンディング: クルト・モル(bass)
管弦楽: 読売日本交響楽団

 最上級のワーグナーだった。

 フンディングを歌わせては超第一級の地位を、ここ30年余りほぼ独占してきているクルト・モル*、加えるに当代随一のヘルデン・テナーでバイロイト祭の常連ポール・エルミングのジークムント**、そして新進気鋭、今後ワーグナーもののメゾ・ソプラノならこの人となるであろうペトラ・ラングのジークリンデと役者が揃えば、自称ワグネリアンならば聴き逃すわけにはゆかない。歌舞伎にたとえれば、「菊五郎、仁左衛門、新之助の揃い踏み」顔見世興行のようなものなのである。 *レヴァイン、メトロポリタン・オペラの「リング」全曲盤(DG)で聴くことができる。**こちらは、バレンボイム、バイロイト祭の「リング」全曲盤(テルデック)

 演奏会形式とはいえ、表情も身振りもステージそのもののようなモルとエルミング、もちろん楽譜など持っていない。まだ経験が十分ではないラングは楽譜を手にしていたが、それでも表情豊かである。この三人が、ステージいっぱいフル編成オーケストラの読響をバックに、思いっきりのワーグナー・ヴォイスを披露した。モルとエルミングについては言うことなし。最高。「オレを助けるために武器をくれ!」と、父ヴェルゼ(じつはヴォータン)の名を絶叫するジークムントのところでのエルミングには、鬼気迫るものがあった。ラングの歌唱、後半でジークムントへの愛を感じてからの色艶にもうひと工夫欲しいところだが、それは我われが今年はじめにマイヤーの絶唱に接しているからで、比較するのは酷というもの。今後の研鑽に待とう。

 では読売日響の音は・・・。オーケストラ・ピットではなくステージ上にひろがっているということのせいか、全体的に音の融和感がいまひとつ。個々の奏者についても「すこし違うなぁ」というところが散見された。一例を挙げれば、フンディングが退場するところ(モルはここで本当に、もっそりとステージから出て行った!)でのティンパニー音。ただ譜面を叩いているという音で、深い森の奥の夜遅くに響くおどろどろしさが感じられない。もうひとつ、ノートゥングの剣が暗示される箇所での短いトランペット・ソロ、楽器のせいなのか奏法のせいなのか、スーザのマーチを聴くようで、ここでもドイツの黒い森の奥から神秘的に響いてくるという感じが出ていない。とはいうものの、総体としては、アルブレヒトの丁寧なそして自信に満ちたタクトのもと(通常のオペラ公演では見ることは出来ないのだ)、熱演、好演であった。

 それにしても、これだけ素晴らしいワーグナーなのに、この夜のサントリーホールには空席が目立った。もったいないことだ。







トップページへクラシックを良い音で聴くために書評・リンク集

ご意見/ご感想はこちらまで

@nifty ID:BXG03253