私のコンサート評




私のコンサート評  
September 27, (Wed), 2000
Tokyo National Opera House
Puccini :  "Tosca"
Stage Director: Antonello Madau Diaz
Music Director: Marcello Viotti
Japan Tokyo Philharmonic Orchestra
<Cast> Tosca: Sylvie Valayre Cavaradossi: 佐野成宏 Scarpia: Juan Pons
Angelotti: 三浦克次 Spoletta: 松浦健 堂守: 山田祥雄

 専用のオペラ・ハウスを持つとはこんなに素晴らしいことなのか。このたびの国立オペラ劇場における「トスカ」は、それは見事な上演であった。幕が開いて教会の場面が出現すると、思わず感嘆のため息が漏れる。それは素晴らしい豪華な舞台、海外なら拍手が起きるところ。これまでの多目的ホールでの上演ではまったく見られなかったものだ。だがこれはまだ序の口、大向こうをうならせる仕掛けはまだまだ続くのである。

 トスカを歌ったシルヴィ・ヴァレル。たぶん日本初登場だと思うが、美貌、美しい体型、美声(正確な音程、ニュアンスも十分)、歯切れ良く風格ある演技と、3拍子も4拍子も揃ったソプラノで、聴衆は大満足。青、赤、黒と幕ごとの衣裳もよく似合って美しい。声の線がやや細いと思う向きもいるだろうが、今回の演出ははヴェリズモ(=リアリズム)・オペラの真髄を示そうとする演劇性重視のもの。だからそれを補ってあまりある体当たりの演技を賞揚すべきだ。第2幕のスカルピアを刺し殺したあとのロウソクと十字架の儀式、歌わないトスカの見せ場も見事。そして最後の幕切れで、あたかも水泳の高飛び込み選手のように、城壁の下へと落ちて行く姿は、感動的ですらあった。

 ホアン・ポンスのスカルピアが圧倒的存在感を示す。かなり大型である佐野成宏よりさらにふたまわりほども大きい巨躯からほとばしる、ドスの利いたバリトンの大声量と自信満々の演技は、「オレ様こそ今夜の主役なり」と誇示しているよう。第1幕「テ・デウム」でのコーラス、オーケストラともどもユニゾンを歌うくだりは圧巻であった。

 日本が誇るテナーの佐野成宏、今夜も絶好調と見えたが(それが証拠に第1幕、第3幕のアリアのあとで、指揮者が佐野に拍手を送っていた)、上の二人があまりにも見事な歌唱と演技を披露したので、今後さらに上を目指す必要が彼には理解出来たことだろう。

 今回のような演劇性重視の舞台となると、日本人出演者の未熟さが気になる。外来のふたりがフランス人、スペイン人で、カトリック教会内での挙動が身についているのに引き換え、(いたしかたないことなのかも知れないが)日本人一同の動きがぎこちない。とくに堂守(山田祥雄)の軽妙というよりは軽薄な、会堂内でのオーバー・アクションはいただけない。
 マルチェッロ・ヴィオッティの指揮はプッチーニの音楽に忠実なもの、オーケストラ(東京フィルハーモニー、好演)を巧みにドライヴして、オペラを盛り上げていた。

 全てにわたって、このプッチーニの名作に真正面から取り組んだ、純正々統派のプロダクションで(舞台にも衣裳にも相当にお金をかけたであろう)、それが成功している。かくして満員の聴衆は、わが街にオペラハウスを持つ幸せをかみしめながら、夜更けの初台を後にすることが出来たのだった。








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