私のコンサート評




私のコンサート評  
仲道郁代「ベートーヴェン・ピアノソナタ連続演奏会第6回」
July 22 (Sat), 2000
青葉台フィリアホール

年2回ずつ4年かけて計8回の連続演奏会も第6回目となり、いよいよ佳境に入ってきた。それは演奏者の成熟なのか、ベートーヴェンの音楽制作上の成熟なのか。おそらくその両方なのだろう。仲道の演奏には堂々たる風格さえ備わってきた。

Sonata No.24 in F#, Op.78 No.25 in G, Op.79 No.26 in Eb, Op.81a 「告別」
No.27 in e, Op.90 No.21 in C, Op.53 「ワルドシュタイン」(再演奏)
Andante Favori in F, WoO.57

第24番ソナタ。カンタービレの歌わせかたが良い。仲道は超速度パッセージにおいても毛の先ほどの破綻も見せぬ見事な技巧の持ち主だが、彼女の特性、魅力はスローな流れの中で主旋律を浮き出させ、それを思い切り歌わせるところにある。あの激情のベートーヴェンはこんなに美しいロマンティックなメロディーも書いたのだ、と改めて思い出させる。それは第25番ソナタの第2楽章でも言える。

当夜の白眉は第26番「告別」ソナタ。ベートーヴェンのスポンサーであり親友でもあったルドルフ大公がナポレオン軍の侵攻から疎開するためにウイーンを離れるにあたっての淋しく悲しい心境、別離期間の憂うつ、そして再会の歓喜を描写したとされる曲だ。これを仲道は感情をたっぷり演奏に移入して弾いた。それは彼女の顔の表情にも雄弁に現れていて、あたかもオペラのプリマドンナの歌唱を聴いているよう。とくに第3楽章では再会の満溢の喜びが見事に表現されていた。

ベートーヴェンのピアノソナタを作曲順に演奏してゆくと、どうしても時間的に短くなる日ができる。そこで仲道は前回も弾いた「ワルドシュタイン」ソナタをもう一度弾き、加えてアンコールがわりに、もともとは「ワルドシュタイン」ソナタの第2楽章として作曲されていた愛らしく美しい「アンダンテ・ファヴォリ」を弾いた。これも秀演。

まことに充実した良いリサイタル。次回が楽しみだ。








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