私のコンサート評




私のコンサート評  
June 15, (Thur), 2000
Tokyo National Opera House

Verdi :  "Rigoletto"
Stage Director: Alberto Fassini
Music Director: Renato Palumbo
Japan Shinsei Symphony Orchestra
<Cast> Rigoletto: 直野資 Gilda: Andrea Rost Mantova公爵: 佐野成宏
Sparafucile: 久保田真澄 Maddalena: 永田直美 Monterone伯爵: 栗林義信

いまをときめくリゴレット歌いのヌッチ、そしてスカラ座やメットのプリマドンナであるロストがジルダを歌う。それに「日本のパヴァロッティ」と言われ人気沸騰中の佐野成宏が加わるとあって、前評判の高かった公演、しかしヌッチ来日はキャンセルとなった。

題名役のリゴレットを歌った直野資は現在の日本を代表するプリモ・バリトン、堂々朗々たる音量美声に加えて、稽古十分と思われる身のこなしで、自らの醜い身体を笑い者にされながら道化として生き、唯一の身内の愛娘を必死の思いで守り育てる、というリゴレットの愴絶な生き様を、見事に歌い演じきった。

ロストの歌うジルダ。周知の美貌と楚々とした舞台姿は純情無垢のジルダにぴったり。清澄な音色にほのかな色香も加えて、初恋に胸をふくらませ果ては恋する人に生命までをささげる乙女の心情、その揺れ動くありさまを美しく歌った。過剰なコロラチュア・テクニックの誇示は避け、それでいて要所の超高音は悲鳴とはならず艶もあり、音程も十分に安定している。現在随一のジルダ歌いだけのことはある。実は評者は昨年4月メットでロストのジルダを聴いている。そのときよりも今夜の方が良い。彼女が好調なのか、ハウスの大きさ(メットはロストの声量には大きすぎる?)が彼女に合っているのか。

佐野成宏のマントヴァ公爵。このところ公演ごとにいちじるしい成長ぶりを示している佐野だが、この「リゴレット」でまた一段と大きな器となった。酒池肉林に浸る漁色貴族の軽薄さと華やかさを併せ持つ容姿と雰囲気、そしてときに「もしかして今回のジルダへの恋心は本物?」と思わせる純情面も匂わせて、一段とその存在感を高めた。強唱時での声の張り、艶、音量は圧倒的で第2列中央の評者の席では耳を聾するばかり。それでいて弱音で歌われる口説きのパッセージは甘くせつなく響く。こういう貴族に誘惑されて抵抗できる女はいないだろう、そう思わせるのだ。「日本に佐野あり」と世界に誇ってよい。

終幕のかの四重唱もみごと。ヴェルディを聴く喜びを満喫することができた。だが国際級3人に伍しての永田のマッダレーナが(十分な容姿ながら)弱い。これはどの国際レベルのオペラハウスでもあることで仕方が無い。

指揮のレナート・パルンボ、業界でどのような評価をされている人かは知らないが、今夜に関するかぎり、その丁寧でオペラを熟知した統率ぶりは満足できるものであった。懐の深い奥行きを上手に使った丁寧な舞台作りも合格点。

第2列目の席で観、聴いていると、主役歌手たちそれに指揮者の間で「今夜はうまく行っているゾ」と互いに了解しあっている様子が手に取るように読める。国立オペラハウスはまたひとつクリーン・ヒットを放った。








トップページへクラシックを良い音で聴くために書評・リンク集

ご意見/ご感想はこちらまで

@nifty ID:BXG03253