私のコンサート評




私のコンサート評  
February 4 (Sat), 2000
Bunkamura Orchard Hall

テノール佐野成宏が唄う イタリアの愛と夢
The 63rd UBS・Global Classic Concert
佐野成宏 (tenor)
金 聖響 (conducting)
New Japan Philharmonic Orchestra

 いまや「日本のパヴァロッティ」とまで言われている佐野成宏の<追っかけ>をするようになった評者が、オペラだけでは満足せず、「イタリアの歌・イタリアの声」を追い求めて聴きに行ったもの。

 ところがこの日、東急新玉川線が午後5時半から数時間にわたってストップ、渋谷周辺の交通が麻痺するというハプニングがあった。後日の発表では、どこかのホームで幼児が風船を手から離したのが風に運ばれて地下トンネルへ入り、架線にひっかっかってショートしたための停電だったのだそうだ。分秒単位で運行されているマンモス首都圏ラッシュ・アワーの幹線路線が、風船ひとつで止まってしまい十数万人が影響を受ける。それでなくても遅れている日本の危機管理、テロ対策にまた宿題が出たようなハプニングであった。そのせいか、開演は十数分遅らされた(だからこの事故にまともに遭遇して苦渋したワイフもギリギリ開演に間に合った)。

閑話休題。佐野の歌唱について。
 第1部はドニゼッティ「愛の妙薬」から2曲、ヴェルディ「マクベス」「ルイザ・ミラー」から各1曲ずつというもの(間に2曲オーケストラの演奏あり)。
はじめは多少発声に硬さが感じられたが、第1部最後の「この穏やかな夜にQuando le sere al placido」(「ルイザ・ミラー」より)では見事な歌唱を聴かせてくれた。これは1999年モービル奨励賞受賞記念(ミニ)コンサート(評者も聴いた)で、また2000年のNHKニューイヤー・オペラ・コンサートでも歌った、現在の佐野成宏が自信を持ってファンに問うことのできる曲なのである。

 第2部はプッチーニ「トスカ」からの2曲で始まり、レオンカヴァロ「朝の歌」そして「帰れソレントへ」ほかのイタリア歌曲、民謡、カンツォーネへと続いて行く。察するに、ほとんどの聴衆はこちらの方がお目当てだ。張りと輝きのある甘い美声、そして堂々たるステージさばき。これぞベルカント・テノール、それを聴く醍醐味を味わう。

 音楽会は楽しく気持ちよく過ごすもの、評者の音楽会の接し方は常にこれである。忙しい中から時間を割き、少なからぬお金を払って聴くのだから、なにも深刻がったり、演奏者のアラ探しをすることはない。

 アンコールも、これを聴かなければ帰れないお客のための「オーソレミヨ」を最後とする数曲の大サービスで、この夜の聴衆は明るくハッピーな気持ちで家路につくことが出来た。われらがテナー、佐野成宏の今後がますます楽しみになってきた。

 <アラ探しはしないとは言ったものの、この日のオーケストラ(と指揮者)はひどかったとうことだけは書いておかなければばらない。これなら、ピアノ伴奏だけのほうがよほどマシだ。>









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