よってそれ以降、こちらが何も言っていないのに、何故か知らぬ内にあの人ならフランスに必ず行くというレッテルを貼られたような状態になってしまいました。(勘弁してくれ〜、いくら仕事が嫌いとはいえ、この景気後退で売り上げも悪く、しかも6月は半期の締め。こんな時期に普通営業が休めるか!?) とはいえ、どうにかこうにか上司をほとんど騙すかのようにして(多分こいつに言ってもダメだろうという上の諦めだったと言った方が正しいかもしれない)休みをとり、お仏蘭西へ行くこととなりました。そう日本の記念すべきWorld Cup第1戦 対アルゼンチン戦に向け、皆さんの夢と希望と期待を背負って!(なんて気持ちはほとんどなかったのですが)
ところで肝心のチケットですが、実はこのインタビューを受けた所は集合場所を間違えてたまたまいただけで、数分後その裏の集合場所に行ったら、その場でチケットを受け取れるというなんとも悪運の強い奴等だったのでした。 お客の件はしょうがない。でもちょっと待てよ。テレビなんぞに出てしまうと、会社に行ったらこの件で何十回話さなきゃいけないことになってしまう。ここはひとつ仕事場に連絡を入れておいた方がよさそうだということで、会社に電話を入れてみると「テレビ初主演おめでとうございます!」ときたもんだ。(まいった) さすが、ニュース・ステーションの視聴率は高い! ちなみに帰ってきてから友人に電話するとちょうどその時飲み屋にいて、その飲み屋のテレビでチケット騒動の件をやっていて、たまたま自分を知っていたその友人の後輩が「隅野さんは大丈夫だったですかね?」と言ったとたんにテレビの画面になんやら知り合いの兄貴らしいのが写っており、よーく見るととなりに間違いなく見慣れた奴がいたので、たまげたと言ってました。
さらに蛇足ですが、トゥルーズに着いた頃にはフランスでもこのチケット騒動は大々的になってきており、たまたま街をふらふら歩いていたら、またインタビューを受けてしまい、まあフランスだから関係ないやと思い、向こうのディレクターに訳のわからぬフランス語にまくしたてられ、その横のADらしきお兄ちゃんの英語の指示に従いカメラの前にチケットを見せながら、「We've got the ticket!」と言わされました。(実際には一回目はNGで、後にまた訳のわからぬフランス語でまたまくしたてられ、横の兄ちゃんにもっと笑ってやってくれと言われ、もう1回やりました。そんなに嬉しくねえよ馬鹿やろうと思いながら、、、、)翌日ツアーで一緒になった人達に「昨日2人でテレビに出てましたよ」と言われました。(お〜おテレビは恐い) 何故かその時、小さい頃親から「隅野」という字は少ないから新聞に載ったらすぐどこの隅野かわかってしまうから悪いことはしないでくれと言われたのを思い出して、テレビも同じだと感心してしまいました。
そして後のアルゼンチン戦でチケットのない日本人が蟻のように群がった河沿いの公園のスーパービジョンで、のんびりビールを飲みながらサッカーを観ることができたのは何よりもゆとりという時間を感じさせてくれました。(休むことはいいことだ!会社の方に感謝。わざとらしい?正解!) トゥルーズはそんなのんびりとした田舎街でした。日本人もこの試合の為にぼちぼち見受けられました。ところが、試合前日ともなると、レンガ色の街が突然国立競技場で日本代表の試合の終わった後の神宮外苑のような日本のユニフォームカラーに変わりました。 その光景はなんとも街の色にそぐわない異様な光景でした。
そして至る所でTicketを求める紙を首からぶら下げたり、ディパックの背中につけている日本人とも遭遇することともなりました。その光景はもしかするとこれが今の日本なのかもしれないと感じさせるものでした。多少こじつけのような気がしますが、たかが、そう世界的にみてその「たかが」の日本の試合にフランスのダフ屋が心の底から笑いそうな20万、30万払っても観たいという日本人が山ほどいるという現実は日本の今の政府の(消費に対する)政策と国民の期待とのギャップを象徴しているように思えてしょうがありませんでした。 (隅野の言葉にふさわしくない? ごもっとも)
ところが行ったら結構有名人がいて、たまたまその場でばったり出会ったツァーの人達と小声で「悦ちゃん、悦ちゃん(小宮悦子)」「水沼、水沼(サッカー解説者)」「佐々木明子、佐々木明子(テレビ東京のアナウンサー)」とスタジアムもろくに見ず、言っていたのですが、そのうちこれだけ暇だと日頃絶対にあり得ないようなことをしてしまうもので、せっかくだから写真でも撮ってもらおうという話になり、やはりサッカーファンとしてはまず水沼という感じで、ツァー人達と組になってカメラを交換しながら互いに写真を撮りました。
どうも水沼と撮ってしまうとこれだけじゃ寂しいということになり、小宮悦子、佐々木明子と続けざまに撮ってもらうこととなりました。我々それを終わる頃には写真撮影会の順番ができていたのは、なかなか笑える光景でした。(みんな同じなんだ) 意外なことに、このような有名人の方々は往々にして、タカビーかなと思っていたのですが、暇だったせいなのかもしれませんが、写真を撮って欲しいと言うといやな顔一つせず、しかも向こうから気さくに話をし始めたのには驚きました。一諸のツァーの一人がその後「小宮悦子はいい人だ!小宮悦子はいい人だ!と連呼しはじめたのには、さすがに苦笑でしたが、、、
バスに乗って試合会場へと思いきや、試合会場ではなくシャトルバスに乗り継ぐ為にその駐車場へ、地図を見るとそこはとんでもなく遠回りで、前日下見をしてきた人間からすると思いっきり「ふざけんな!」と言いたくなるようなところ、やんわりガイドの人にちょっと遠いといってみると、困った顔して「すみません」の一言。きっといつものツァーとは勝手が違うのだろう。
バスの中で翌日のスケジュールが伝えられる。「明日は朝6:00です」ほとんど全員から「エ〜」というブーイング状態。しかもツァーの案内にはバルセロナまでバスと書いてあったので、「バルセロナで時間があるんですか?」と質問すると、ガイドの人は何を言われているかわかんないというきょとんとした顔、前に座っている人が、日程表を見せると泣きそうな顔で「は、は、初めて見ました。私の所にはパリからのチケットしかありません。」こうなると周りから、からかいの野次の始まり、始まり。「バルセロナに行きた〜い」「来る時と同じで、バスであの東北自動車ような道を10時間も走るのか?」、「いくら返してくれるの?」、「TGVに乗りたい」だのガイドの人はくそみそに言われ、「穴があったら入りたい」というのはこういうことを言うのだろうと思ってしまいました。
本当にWorld Cupが初めてというのは単に選手だけでなく、観客、旅行代理店、スタッフと多岐に渡っており、そのような全ての人達にとって初体験なのであって、このような経験は是非2002年においてよい教訓として活用されることを願うばかりです。(JTBの名誉の為に付け加えると、最終的にはTGVでパリまで行くことができとても快適でした。しかし正確に言うとボルドーまでのコンパートメントタイプの特急列車の方がTGVより快適だったのは驚きに値します)
トゥルーズのスタジアムはさすが田舎のせいか、スタジアムの横にもサブ・グランドもありゆったりしており、指定席であったこともあり、しかも天気もよかったのでしばらくそのサブ・グランドの芝生の上で寝てました。この辺が海外と日本の大違いなところです。日本では芝生は観る為にあり、決して入っていけないところであり、海外では芝生は人が休だり、遊んだりするところだという点です。手前の部分でも書いた川沿いなどの芝生のところに柵などはないのです。ただこれについては不思議なことがひとつあって日本人で日本の芝生に柵がある理由を明確に答えられる人が誰もいないということです。但しこの芝生の件については、日本人は気をつけた方がいい点があります。フランス人は自然あるいは動物に寛容なのか、犬の糞の処理をしません。よって芝生に座る時はその付近一帯を見てからの方が賢明です。
時間も近づきスタジアムに入っていきます。ゲートですっとチケットを見せて入ろうとすると、おばさんに腕を捕まれてしましました。チェックが厳しいのです。偽チケットが出て直前に刷り直した為に、そのおばさんはチケットの透かしをチェックをしていたのです。入ってみると既に青の軍団が、日本の応援をし始めていました。選手紹介が始まるとさらにそのボルテージが上がっていきます。そして選手の入場の時には紙ふぶきとともに絶頂に達します。自分の席が(といっても試合中は当然立ちっぱなし)ウルトラスに近い為いつもよりも気合の入った場所でした。しかし普段からスタジアムに通っていないおじさん、おばさんはこののりについていけずに座っての観戦でした。ちょっとこのへんがアンバランスな感じでした。
後にこの日本サポーターは新聞、放送等で国際的に評価されることとなったのですが、自分には若干疑問が残るものとなりました。というのも国際的に評価されるほど、全員一体で応援するスタイルや声の大きさ等(これは割と現場にいるとわからないもので、後のクロアチア戦のテレビでの日本コールを聞いてみて初めてわるようなものでした。)は確かに評価に値するものと思われます。しかしながら、どうも日本サポーターの応援は日本代表の戦い方と似ている部分があり、そろそろ変わって行くべき時代ではないかということです。もう少し具体的に言えば、日本サポーターは最初から最後までイケイケの応援である点、いいプレーであれ、悪いプレーであれ、選手の名前の連呼するあたりは、日本代表が悪い時、プレーにめりはりが無く単調な試合運びをするのと同じに見えてしまうからです。素晴らしいセンターリングを上げて「相馬」コールは判ります。しかしあのボールをこすってゴールラインを割ってしまうようなセンターリングで「相馬」コールはないのではと思ってしまいます。
技術的にアルゼンチンに勝てないことは百も承知です。だから日本代表にブーイングまでするつもりはありません。しかし各国のサポーターのようにいいプレーや得点の時には声援し、それ以外の時は試合を見守るという姿勢もそろそろ必要な時期なのではないかと思うのは自分だけなのでしょうか? 翌日の新聞にフランス語だったので当然よくわからなったが、日本サポーターについての記事があり、最後方におそらく試合終了後日本サポーターがアルゼンチンを応援していたことについて?マークがついていた。きっとフランス人にはわからないメンタリティーなのでしょう。(実は自分もよく理解できないところなのですが、、)
「イチゼロか」しょうがないと思いながらも、その言葉が出ると同時に明日の新聞は「惜敗」か「善戦」と思うと何故かすごく寂しい気分になった(後日実際に「惜敗」「善戦」が一面に使われているのをみて日本のスポーツライターのレベルの低さに呆れた気もした。もっとボキャボラリーはないのか!?)確かに1−0は最小得点差である。しかしだからといって「惜敗」「善戦」というのも安直というような気がする。日本とアルゼンチンの差をそれらの言葉で表わすには無理であるとしか思えない。でも適切な言葉が浮かんでこない。 今一つ盛り上がらない夕食(郷土料理のカスレを食べたが見事に外れ。豆、豆、豆で半分でノックアウト)をしてホテルで帰り支度。
寝る前に何故かFlash Backしてしまった。その頃は30インチのカラーテレビなんて考えられなかった。ビデオなんて言葉もなかった。だから初めてWorld Cupを観たのは目黒公会堂での記録映画だった。中学生だった。既にサッカーはしていた。観た後に、この世にこんな素晴らしいものがあるのかと思った。もっと正確に言えば、この世にこんな素晴らしいサッカーがあるのかと思った。 そこに有ったものは、それまでしていた、知っていた、観ていたサッカーとは異次元のものであった。こんなすごいサッカーに日本は百年経っても、追いつかないと信じて疑わなかった。そう思った時は1970年メキシコ大会の時であった。 よーく考えると1世紀たっても有り得ないと思っていた日本のWorld Cup出場が28年で実現したのである。そう考えると今日はまんざら悪い日でもないじゃないかと思った。するともう一杯と思ったがワインのボトルを逆さしても駄目になったので寝ることにした。(安いワインであったが うまかった。当然名前は覚えていない。)
翌日EURO SPORTSで前日のサッカーの試合のダイジェストと分析を見れる。(毎日やっていてしかも何回もやってくれるので、非常に便利であった)。テレビをつけると日本の試合。ちょうど分析のシーン。当然得点シーンであった。日本では名波のミスパスをしてバティーの得点になっているであろうと思った。ところがこのシーン、オルテガがボールを持った瞬間である。アルゼンチンは完璧であった。その時オルテガの位置からは前に3個所へパスを出すところがあったのである。前の二人の足元で2コース、そしてバティーへのスルーパス。しかもオルテガの横にはちゃんとミッドフィルダーがサポートしているという台形のフォーメーションを作っており、要はオルテガが攻撃について5つOptionを持っていたのである。結果的にはミスパスということであったが、このフォーメーションを見た瞬間、やっぱり「善戦」や「惜敗」では表現できない差があることをつくづく感じさせられた。
続いて他の試合もみてまた日本の試合が始る。今度は最初からでダイジェスト。バティーの得点、川口セーブ、そして秋田のヘディングをして相馬がスライディング その時のアナウンサーの言葉が「Not Far And Away」であった。日本はWorld Cupへ出場した。それは世界に一歩踏み出した証明となる。しかしそのことは決して日本が世界の強国の実力に接近したことではないと思える。近づいたとしても、その実力はまだ離れている。「 Not Far And Away」そう、以前に比べ遠くなくなった、ただそれだけのことなのである。4年後にこの差をどれだけ縮められるか?これが出場することによって日本が得られた課題なのではないか!?
先日新聞に日本の観客は反応が遅いという記事が載っていた。まさにこれがそれを表わしているのではないのだろうか?全体を視野に入れて観ていると次の展開が想像し易い。だから反応が早くなるということになる。だからすごく楽しめる。その経験が日本人は他の強い国のサポーターに比べ、選手と同じように少ないのである。だからもっとスタジアムに行って試合を観ましょう!そして楽しみましょう!日本代表の試合だけでなく、Jリーグの試合も観に行きましょう。代表の試合に比べれば、落ちる部分はあります。中には金を返せといいたくなるような試合もあります。でも素晴らしいプレー、素晴らしい試合の感動はスタジアムで観た者を超えることはできません。皆さんの応援がやがてくる2002年の成果に結びつくことを願って終わりとさせていただきます。