「音の系譜」草川君からの便り(2004/07/11)

 草川光君(元B組)から、「音の系譜」と題した草川家の歴史を綴ったエッセーをいただきました。また、草川君が現在活動中の「ぼっこの会」と8月1日に上演予定の「新・風を見た少年」の情報を併せて掲載致します。


音の系譜

 私の祖父、草川宣雄(のぶお)は、明治13年(1880年)、長野市県町(あがたまち)に、銀行員の父一成(かずなり)、母幾久(きく)の長男として生まれた。父母は松代の武士の家の生まれで、厳しい教育を受けた人であったが、子供たちを型にはめてしつけることなく、自由にのびのびと育てられたようだ。

 特に母、幾久が琴を嗜み、歌が好きであったことから、宣雄はじめ正義(まさよし)、友忠(ともただ)、信(しん)、の四人兄弟は、自然に音楽に親しみ、宣雄は東京音楽大学(今の東京芸術大学音楽部)を経て、オルガニストとしての人生を歩むこととなる。(三男の友忠はバイオリニストとなり、四男の信は作曲家となる。特に信は、「夕やけ小やけ」「どこかで春が」「ゆりかごの唄」「汽車ポッポ」など、多くの童謡を作曲している。)

 昭和38年(私が5歳の時)、この自由が丘の地で他界した「おじいちゃん」に関しての思い出といえば、いつも暖かな陽の光のあふれる縁側に腰掛けて、静かに、にこにこ笑っていた白髪に和服のゆったりとした姿と、応接間に置かれた古めかしいオルガンである。


 私の父、草川啓(けい)は、大正8年(1919年)、豊島区目白に、宣雄の次男として生まれた。自然、父宣雄の影響であったのか、東京音楽大学(現芸術大学)作曲科卒業後、映画音楽作曲に従事の後、現代歌曲の女声合唱の部門で多くの作品を残した。 昭和26年頃、この自由が丘の地に移ったようだ。

 若かりし頃はバンドでジャズをやっていたと母から聞いたのだが、私の物心ついてからの父の記憶の中には、なぜかジャズのジャの字もなく、いつも自室からはステレオのクラシック音楽か、自作を爪弾くピアノの音が聞こえてきていた。
 父が作曲の仕事に入っている時は、家の中で大きな音や歌声などは一切禁止で、我が家の音の記憶といえば、父の部屋から流れる音楽と、あとは静寂だけだ。(何と辛気臭い・・・・・・)

 そのせいか、今でも私は賑やかな場所や雑踏が大の苦手である。
草川家の一貫した方針というわけでもないのだろうが、父は、我々(兄の泉(いずみ)と私)息子達の成育、教育に関しては、一切無関心であった。自然すべての責務は母チイの肩にかかり、それに憤りを感じていた若い頃の私はよく、「俺の家は母子家庭だ。」などと言っていたものだ。


 しかし、歳を経るにつれて、しみじみとわかってきたことがある。父の爪弾くピアノの音こそ、まさに私の「感性の育て」となっていた、と。
今も常に、私の中には、雨上がりの暖かい陽差しに包まれた、まどろむような庭の風景と、そこに流れていたピアノの静かな音の色がある。
 こんな風景にはこんな音がいいなあ・・・・・・・。こんな気持ちの時には、こんな旋律が浮かぶ・・・・・。

 父は知らずのうちに、「音学」ではなく(今にしてみればこの「音学」も教えてもらうべきであった・・・・・トホホ)、「音楽」を私(達)の中に植えつけていったのである。


 その結果(なのかな?)、二歳年上の兄、泉は、音を形という表現に変えて、広島の水呑町で、泉窯という名で陶芸の道を歩み、今もたゆまず風や水を感じさせる逞しくも優しい作品を生み出している。当然、私は兄の作品は大好きである。

 かく言う私はというと、父や兄にはおよびもつかぬとはいえ、児童演劇を中心とした「全身表現」を、自らの人生の目標として、かれこれ16年、五里霧中ながらも試行錯誤の日々をよろめき歩いてきた(はやい話がフラフラヨロヨロ、といった感じ)。 この先も、この道をただすがり歩くだけが、私の唯一のアイデンティティーである。

私の中にある幼い頃の美しい風景(そして、生まれる前から私の中にある表現のDNA)や、 暖かい音の数々を、この生まれ育った自由が丘の地で、これからどういう形で表出していけるだろうか。 今45歳、これからどんな出逢いが待っているのか、どんな風が見えるのだろうか。 ますます人生がスリリングに感ぜられてくる今日この頃である。


         2004年2月20日  自宅にて   草川 光  記す


草川君とにいくら近子さんが各地で上演しています、「ぼっこの会」のパンフレットと上演の様子(ムービー)です。

 ・ぼっこの会パンフレット

 ・どろんこぼっこ(演技の様子)(537KB)

 ・どろんこぼっこ(朗読の様子)(537KB)

 ・どろんこぼっこ(紹介の様子)(537KB)

※ご覧になるには、QuickTimePlayerが必要です。ダウンロードはこちら・・
(クリックして開けない場合は、一度ダウンロード(右クリックして「対象をファイルに保存」)してからQuickTimePlayerから開いてください)

草川君が出演予定の「風を見た少年」を案内致します。
日時・場所等は次のとおりです。
お誘い合わせのうえ、ぜひ、皆様ご観覧ください。

 日時:2004年8月1日(日)14時

 場所:東京都児童会館ホール(渋谷から徒歩7分)

 お申込み先:劇団アトム(03−5983−8228 )

 ・風を見た少年パンフレット1

 ・風を見た少年パンフレット2





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