愛犬家に贈るクリスマス物語

遠い昔のある寒い冬のこと、
地上の全ての生きもの達に、嬉しい報せがやって来ました。
「お生まれになったぞー。男の子だよー」、白ふくろうが叫んで飛び回りました。
「わしもお前も皆んな行こう。そして祝えや!」、長老のライオンが吼えました、
「そして、新しいご主人に贈り物をな」と。

森は精気に輝き、喜びにざわめいていました。
天空の星に向かって全てのものが走り出さんばかりでした。
そのどよめきは、あまりに大きくそして喜びに満ち満ちて、
遠く遠くどこまでも伝わって行きました。

とある小さな谷間のいばらの根元で、一匹の小さな犬が目をさまして、
頭を挙げ、遠くからのその物音に耳を立てました。
小さい頭を更にあげて、何事かといぶかりました。
ゆっくりとけだるい体を持ち上げて、辺りの空気を嗅いで見ました。

何か変だぞ、でも何だろう?。
遠くから聴こえてくるとても幸せそうな歌声・・・、
彼はそう感じました。
内容ははっきり分からない、でも絶え間ない滝の音みたいに、
霧の中の朝のように、そしてそれはなによりとても幸せそう・・・。

遂にたまらなくなって音の来る方に歩き出した彼は、すぐに、頭上の一つの星に
気が付きました。それは、涙が出るほどにとてもまぶしく輝いていました。こんなに
幸運そうな見事な輝きは一体何なの?。この素晴らしい眺め、何だか凄いことが
起こったみたい?。

彼はか弱い脚で何日も何日も歩き続けました。
疲れてもお腹がすいても彼は歩き続けました。
一心に、そのどよめきの方向に向かって。
それは以前の彼の幸せで楽しかった頃を思い出させるものでした。
一心に、その輝く星に向かって。
それは
何か幸せなものに近づいて行くみたいに思えたのでした。

ようように到着したところで彼が見たのは、
その目を疑うような神秘的な光景でした。
辺りいっぱいに生きもの達が溢れていました。
そして皆立派な贈り物を携えていました。
あるものは森で採った新鮮な草の実を、あるものは美しい木々の葉を、
あるものは珍しい木の小枝を、そして更には可憐な野の花々を・・・。
彼らはそれぞれの贈り物をその厩(うまや)の入り口に並べて置いています。
その厩の頭上にはあの星が更に輝きを増してまたたいています。

彼は隣にいた鹿に聞いてみました。
「一体何事が起きたの?。ここは何処なの?」と。
「新しいご主人が生まれなさったのだよ。
その方への贈り物は持って来なかったのかい?」、鹿は非難がましく云い返しました。
「持っては来なかったの。知らなかったもの」、
孤独な小さな犬はそう答えてうなだれました。

鹿はあざけるように笑って鼻息を吹きかけ、
憤慨したように頭を振って行ってしまいました。
小さな犬の体は震えが止まらなくなりました。
彼の小さな尻尾はその小さな
後ろ脚の間に挟み込まれて、小さな頭はいっそう低くうなだれました。
彼は恥ずかしかったのです。

でも、彼はその新しいご主人を一目でも見たいと思ったのでした。
そこで彼は、そおーっと忍び足で厩の中に入って行きました。
体が小さいので他の動物達の陰に隠れて行けたのでした。
お陰で実に簡単にかいば桶のところまで行けて、中を覗くことが出来ました。

「誰だ!お前は?」、ライオンの大声が響きました。
「新しいご主人への贈り物も持たずに、何でお前はのこのことやって来たんだ?」。
小さい犬は身を縮めて震えが更にひどくなりました。
彼はかいば桶の前に伏せをして目をつむりました。
彼はライオンに殺されてしまうかもと覚悟をしたのです。

彼は、とても小さい声で、素直に、しかししっかりと言いました。
「私には何も贈り物がありません。草の実も、小枝も、野の花々も・・・。
あるのは私自身の命だけです。
だからこれを喜んで差し上げたいと思います。
これは、この場の同朋の皆さんにとても恥ずかしく思わせてしまった私の償いです」と。

彼は待ちました。目をつむって。
今夜ここで生を終えようとも、
せめてご主人の揺りかごの下で終えたいものだと思いながら・・・。

その時、温かくそして優しげな手が彼の体に添えられました。
でも彼は敢えて目を開けませんでした。続いて女性の声がしました。
「小さき生き物よ、畏れることはありません。
あなたが今、いばらの思いで言ってくれた気持ちが、
それが彼への贈り物なのですよ」と。

孤独な小さな犬は、目を開けてその女性を見上げました。
そして、「でも、私には本当に何も差し上げるものが無いのです。だから私自身を。
ほんに小さなものですが」と遠慮がちに言いました。

女性は微笑みながら彼の耳を撫でました。
「可愛い犬よ、お前はご主人を見るまでに
長い長い旅をして来ましたね。それこそ立派な贈り物ですよ。
それがお前自身の心からの行いだったから。
純心で謙遜な気持ちほど立派な贈り物はありませんよ。
小さきものよ、さあおいで」と、
女性はその小さな犬を抱き上げました。
そして言いました、

「我らが主よ、偉大なる子よ。このものを助けよ」と。
この時、かいば桶の中の御子は微笑んでいました。

かくして、犬はもう孤独ではなくなりました。

以来、犬は人に従って生きて来ました。
犬、これこそ天からの贈り物。
逆境にも忠節を失わず、いつもへりくだることが出来るもの。
何の訓導も受けないで、長い長い独り旅が出来る唯一の生きもの。
罪も無いのにあなたの前で伏せが出来る唯一の生きもの。
罪も無いのにあなたのののしりを聞いてくれる唯一の生きもの。
必要ならあなたの足元で、喜んで死を受容する唯一の生きもの。

慈しまずにおられましょうか、この生きものを。

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Author unknown .
Forwarded through AkitaLovers-ML from Schipperke-ML by Ms. Donna Morgan .
Translated in to Japanese by T.Inaba inaba@tcp-ip.or.jp Dec.09,2001.

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稲葉忠雄 (Nagoya, Japan) inaba@tcp-ip.or.jp
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