一年前、火星で起きた反乱。
 その首謀者レオス・クラインの野望が叶う一歩手前で止めたある一人のレイヴン。
 自由な翼を得た彼は生まれ故郷の地球に舞い戻る。
 そこで、彼は…

 アナザーエイジ
 ひなた傭兵団

 反政府レイヴン強襲?

 オールドアヴァロンのアリーナのAC用通路を一機のACが歩いている。
 そのACのパイロット景太郎は先ほど入った依頼を専属マネージャーのしのぶと再確認をしている。

「じゃあ俺はこの先のアリーナのACを撃破すれば良いんだね?」

 口調は何時もと変わらないがとても嫌そうな表情の景太郎。

「浦島さん、お気持ちは分りますがもうお金がないんです。
 ここで頑張らないと私達三人明日からお水しか口に出来なくなるんですよ」

 対するしのぶは焦りを隠すことなく現状を訴える。
 そこへ更に

「景太郎。機体に傷、つけないで」

 整備士ニャモの一言。
 整備士らしくない言葉だが修理に掛かる金も馬鹿にならない。それ程逼迫した財政状況の三人。

「無駄弾もなるべく撃たないでくださいね、浦島さん」

「分ったよ、二人とも」

 景太郎達が受けた依頼はあるレイヴンの撃破。
 依頼文の内容は

『不法武装組織インディーズに協力しているレイヴンの撃破』

 自由を尊ぶレイヴンの景太郎としては、誰が何処と仲良くしようと構わない。
 だがアヴァロン監督局からすれば、たった一機で町のガード部隊を殲滅できるレイヴンとテロ組織が仲良しでは困りもの。
 他のレイヴンに対する見せしめも含めた今回の依頼。
 普段なら絶対に受けない類の依頼だが余りにも逼迫した財政状況と、通常後払いの依頼金の一部が前払い、その額も破格。
 しのぶが有無を言わさず契約したのだ。
 景太郎も反対したいのは山々だが二人の仕事の首の原因が、景太郎にあるため余り強く出れない。
 気がつけば既にアリーナの扉に辿り着いている。
 この扉の奥に居るレイヴンを倒さないと生活出来なくなってしまう。
 嫌な依頼だが背に腹は変えられない。
 二人の為にも、ここは頑張って依頼を遂行しないと、と気合を入れる景太郎。

 殆ど音を出さずにドアが開き、円柱状のアリーナに足を踏み入れる景太郎のAC。
 彼の目の前では二機のACが今まさに戦いを始め様としているところ。
 依頼文とかけ離れた現場に、 気が遠くなりそうになりながら、景太郎はしのぶに聞く。

「しのぶちゃん、なんかバトル始まるみたいなんだけど…」

 対するしのぶは…

『…浦島さん、その奥のアリーナです』

 声が冷たい。

「そ、そうなんだ! じゃ、じゃあ何か俺邪魔みたいだし、すぐに奥のアリーナに移動しないと…」

 白々しい台詞を言いつつ奥に見えるドアを目指す景太郎だが…

『私達の試合、滅茶苦茶にしておいて、まさかこのまま通れると思っているんじゃあないでしょうね?』

 アリーナに居た一機の重量二脚のACから通信が入る。

『その通りだ。我々はこの試合を一ヶ月も待っていたんだぞ?
 何処の誰かは知らんが、覚悟してもらおう』

 もう一機居た中量二脚のACからも通信が入る。
 二人とも女性レイヴンだ。
 そこへ更にアリーナ側から無責任な通信が入る。

『乱入したレイヴンを排除してから試合を続ければ良いではないですか』

 レイヴンの仕事を斡旋する立場であるコンコード社が経営するアリーナ。
 実は景太郎達が受けた依頼はアヴァロン監督局から直接受けた物。
 斡旋する立場のコンコード社からすれば面白くない。
 依頼内容は当然知っていたが、自分を無視するレイヴンは粛清しなければならない。
 これも、一種の見せしめ。

「ついてないなぁ。でもまぁ、俺も生活かかってるから、誰かは知らないけど早々に退場してもらうとしますか」

 そう言って改めて二機を見る景太郎。
 重量二脚の方はいかにも硬そうで、装備の方もバズーカーにコンテナミサイル、
 頭部パーツがアンテナタイプというのがポイントだ。

(あれはアンテナで)

 中量二脚の方はそこそこの機動性がありそうで、装備の方はデュアルブレードとLロケット。

(こっちは侍か)

 対する景太郎のACは、軽量二脚で機動性は抜群だが、相手の装備からすれば装甲は紙のような物。
 右手には威力はあるが数発しか撃てないハンドグレネード。
 左手にはこれまた破壊力抜群だがリーチの短いブレードを装備。
 肩にはLロケット。
 双方の機体構成から勝負に時間は掛からないだろうと思われる。
 既に二機はこちらを挟み撃ちにしようと動いている。
 取りあえず侍ACの方は無視してアンテナACを片付ける事に専念する景太郎。

 ボヒュ…

『落ちなさい!』

 アンテナACがいきなりミサイルを発射。
 ミサイルは暫く進むと…

 シュバァ―!

 十二発の小型ミサイルに分裂、景太郎のACめがけて殺到する。
 その間も後ろから接近する侍AC。
 対する景太郎は、コンテナミサイルが分裂すると同時に、
 凄まじい勢いで右に滑り出す。
 そのままミサイルを全弾回避しつつ、アンテナACの後ろに回りこむ景太郎。

「運が悪かったと思って諦めてね」

 そう言いつつ、強力なブレードでアンテナACを、行動不能になるまで刻む景太郎。
 がっくりと膝を突くアンテナACを念の為うつ伏せに蹴倒す。

『ちょっと! なんて事すんのよ!!』

 死者に鞭打つような仕打ちに怒声を上げるアンテナACのパイロット。

「後ろからミサイル撃たれたら叶わないからね」

 返事を返しつつ既に意識は侍ACに向いている景太郎。

『死者に鞭打つ真似を…
 貴様にはレイヴンとしてのプライドが無いのか!』

 あまり裏の世界を見た事が無いのだろう、侍ACパイロットの台詞。
 だがそれは火星という戦場で、裏切りと策謀を体験した景太郎からすれば…

「甘いね。君は試合をする為にこの場に居るのだろうけど、俺は生きるためにここに居る。
 戦場では生き残った者だけが勝者なんだよ」

 等と言いつつ、ACを左右に振りながら侍ACに接近する景太郎。

『馬鹿が、接近戦を挑むつもりか?』

 侍ACのパイロットからすれば、景太郎のブレードの威力は厄介だが、余りにもリーチが狭すぎる。
 アンテナACが瞬殺されたのは驚いたが、接近戦ならこちらに分があると踏んだ侍ACのパイロット。
 迎え撃とうとする。
 だが、後一歩で侍ACの間合いに入るという所で、グレネードを発射する景太郎。

(この間合いでは避けられないだろ)

 後は衝撃で動きが止まったACの背後に回り込み、ブレードで仕留める。
 景太朗の予想では、それで済むはずだった。
 だが……

『なんの、秘剣斬空閃!!』

 侍ACのレイヴンが叫ぶと同時に左腕のブレードを振るった。
 するとブレードの切っ先から光波が飛び出し、グレネード弾を切り落としてしまった。

「ぅお!」

 尚も侍ACは光波で斬り掛かるが、景太朗はそれを冷静に回避した。
 平和な地球のレイヴンならともかく、景太朗は戦場で様々な猛者と戦ってきた経験がある。
 当然、今まで戦ってきた相手の中には、この侍ACのように光波を使うレイヴンもいたのだ。

(でも技の名前を叫びながらブレード光波とはね。
 まるであの人みたいだ。この娘も強化人間なのか)

 “強化人間”
 薬物投与や外科手術、最近ではナノマシーン投与などで、AC操縦技能を向上させた人間のこと。
 そして、ブレード光波は一部のブレードを除き、強化人間にしか使うことが出来ない。
 侍ACの使う技は、ブレード光波に他ならなかった。

『このっ! ちょこまかと!』

 頭に血が上っているのか、侍ACは執拗にブレード光波を放ってくる。
 しかし、相手が止まっているならともかく、高速移動を繰り返すACにブレード光波を命中させるのは至難の技。
 まして、戦場を経験したレイヴンの操るACとなれば尚更である。

(似てると言っても、技の名前を叫ぶところだけかな。
 そろそろ終わりにしよう。お腹空いたし)

 侍ACのパイロットが知ったら更に激昂しそうなことを考えながら、景太朗はブースター機動を一瞬だけ止め、わざと隙を作った。

『…! 食らえ、斬空閃!』

 それまでさんざん振り回され、頭に血が上っていた侍ACのパイロットには、景太朗のフェイントを見抜くことは出来なかった。
 まんまと引っかかり、ここぞとばかりにブレード光波を繰り出してくる。

「マダマダだね」

 しかし景太朗は“ブレード光波”を紙一重で躱し、カウンター気味にグレネードを撃ち込む。
 ブレードは確かに強力な破壊力を持っているが、使った後には必ず大きな隙が出来る。
 景太朗はそれを狙ったのだ。
 為す術もなくグレネードの直撃を受けた侍ACは、衝撃で動きを止めてしまう。
 景太朗はその隙にブースターで素早く懐に入り、侍ACの両腕を切り飛ばす。

『くぅっ!』

 屈辱の声を上げる侍ACのパイロット。
 しかし、景太朗はそのまま手を休めず、侍ACのLロケットを破壊する。
 更に念の為、関節駆動部にもブレードを叩き付ける。装甲はほとんど無傷だが、これで侍ACは完全に動くことが出来なくなった。

『く、貴様ぁ! 卑怯だぞ、正々堂々、剣で勝負しろぉ!』

 やはりアンテナと同じように蹴倒される侍AC。
 納得のいかないパイロットが騒いでいる。
 そこへニャモからオープン回線で、

『景太郎、無駄弾使いすぎ。その弾高い。
 後、雑魚を倒したらすぐ移動』

 ピシ!

 何かが壊れる音が聞こえた気がする景太郎。
 少し焦りつつ、

「あ、あはは。き、機会があったらね」

 そう言い残しその場を後にする。
 後にはうつ伏せにされたACが二機残された。

『『覚えてろ!』』

 その後、本来の目標を撃破した景太郎。
 無事に残りの金を受け取り三人で夕食も終えて、地球での取りあえずの生活の場として目星を着けていた場所、コルナートベイシティにある景太郎の叔母はるかが統率するレイヴン集団、ひなた傭兵団へ移動をしている。
 既にはるかヘの連絡を済ませ、後は到着するだけだったのだが…

「景太郎、燃料足りない」

 AC運搬用の車両を運転していたニャモの一言。

「えぇ! 本当に?」

 まだ目的地まで数キロある。
 ここで立ち往生するわけには行かない。

「でも平気。景太郎のACを降ろせば」

「ここから俺だけACで行くの?」

 地球に着いて早々二連戦をこなしたので疲れている景太郎。
 当然嫌そうな顔をするが、

「浦島さん、私、野宿はちょっと…」

 追い討ちで、

「景太郎、無駄なパーツ持ちすぎ。
 少しここで捨ててく?」

 二人にそう言われてしまい渋々ACを起動する。
 起動すると車両を中継してはるかに連絡を入れる。

「こちら景太郎、はるか叔母さん応答願います」

 直にはるかから返答が入る。

『聞こえているぞ景太郎。それと叔母さん言うな』

「す、すみません、はるか…さん。
 あの、実は車の燃料がヤバイんで俺ここでAC起動します」

 燃料節約のためACを降ろし直接向かう旨を告げる。

『あぁ…今確認した。だがそのAC…』

 何かが引っかかるはるか。
 すぐに思い当たり、

『景太郎、お前今日オールドアヴァロンで仕事したか?』

「はい、確かにしましたけど…それが何か?」

 話していないはずなのに何故はるかが知っているのか不審に思う景太郎。

『そうだな、まぁ、覚悟しておいた方が良いな』

「はぁ? 良く解らないんですけど」

『まぁ、着いてからの御楽しみだ。じゃあ、また後で』

 そう言い通信を切るはるか。
 良く解らないが早くしないと車がガス欠になってしまうので、ACを歩かせ始める景太郎。
 暫く行くと少し大きめの建造物が見えてきた。
 そこが目的地だ。
 そこからはるかが直接出てきてACと車を誘導する。
 ガレ−ジにACと車を入れて漸く一息着ける三人。
 はるかの案内で取りあえず荷物を部屋に置いてから、ひなたのほかの人間との顔合わせをする為に、ブリーフィングルームへ行く。

「ところではるかさん。どうしてこんな時間まで起きているんですか?」

 時刻は既に深夜。
 こんな時間まで何故ブリーフィングルームに詰めているのか尋ねる景太郎。

「あぁ、実は今日オールドアヴァロンのアリーナでバトルがあってな。
 そこでうちのレイヴンが乱入者に二人掛りで負けてしまってな。
 その反省会を開いていたのさ」

 意味ありげな視線を景太郎に送りながら話すはるか。
 その話を聞いて今日の仕事を思い出す三人。

「景太郎、今日の雑魚のエンブレム、覚えてる?」

 ニャモの言い様に引きつりつつ、

「たしか…拳骨マークのと、もう一つのは漢字だったぐらいしか覚えてないなぁ」

 ニャモに答える景太郎にはるかが、

「それは二人ともうちのだ。
 やっぱりお前だったのか」

 仕事中で無い時は弱気なしのぶが青ざめる。

「もしかして、凄く怒ってますか?」

「ん? やられたあいつ等が未熟だっただけだよ。
 別にお前らを責めるわけじゃない」

 私はな、と心の中で付け加えるはるか。
 話をしている内にブリーフィングルームに着く四人。
 中には五人の女性が居た。
 一癖も二癖も有りそうな女性達。
 狐目と金髪は、興味津々といった感じだ。
 三つ編みはこちらを見ているのいないのか、ぼぅっとしている。
 前髪がアンテナの様に伸びているのと、黒いストレートのロングは、景太郎に凄まじい視線を送っている。
 いきなり二対の凄い眼差しに晒された景太郎、思わず引いてしまう。

「昨日話した甥の景太郎だ。
 こいつは火星で優秀なレイヴンだった。
 これから暫くここひなたに滞在することになる。
 後は自己紹介して今日は解散しろ」

 そう言ってまず景太郎を促すはるか。

「え? あぁ、浦島景太郎です。
 この間まで火星に居ました。
 何時までになるかは解りませんが、よろしくお願いします」

 そしてしのぶとニャモを前にだし、

「彼女達には俺のマネージャーとACの整備をやってもらっています」

「は、初めまして、前原しのぶです。
 浦島さんの専属マネージャーです」

「…ニャモ・ナーモ。
 整備士兼レイヴン」

 三人同時にペコリと御辞儀で、

「「「よろしくお願いします」」」

 それに対してこちらは狐目の女性が

「うちは紺野みつね、通称キツネ。
 ACの整備をしとるんや」

 景太郎達を値踏みするよな表情で自己紹介。

「うちはカオラ・スウ、スウちゃんや!
 キツネと一緒にACの整備しとるんやー」

 こちらは元気良く自己紹介。

「初めまして、私は乙姫むつみです。
 ミッション専門のレイヴンです」

「こいつはココのエースだ」

 相変わらずぼぅっとしながら挨拶をする。
 その後はるかから一言。
 彼女がひなた傭兵団のエースらしい。
 そして最後に景太郎を睨み付けている二人だが…

「私の名前は成瀬川なる。あんた覚悟はいい?」

「私は青山素子。
 アリーナでは世話になったな?
 浦島景太郎」

 既にかなりヒートアップしている。
 今だ視線には怒気しか篭もっていないものの、それもいつ殺気が混じってもおかしくない所まで来ている。
 余りの怒気に戦場経験者の景太郎と、対人交渉のプロであるしのぶを後ずさりさせる。
 そこへ二人の放つ怒気に気づいているのかいないのか、ニャモが景太郎に聞く。

「景太郎、この二人、もしかして?」

「そ、そうみたいだね、ニャモちゃん」

 そして放たれる一言。

「あぁ、あの雑魚

 ブチン!

 後に景太郎は語る。
 その時、確かに何かが切れる音を聞いたと。
 その後数時間の事を彼は覚えていない。
 ただ、ブリーフィングルームが半壊した事と、生身の時に成瀬川なると青山素子を怒らせるのは得策ではないとゆう事を…
 ちなみに何故かしのぶとニャモは、何時の間にか部屋から消えていて、景太郎一人が被害を被ったのだった。

 おまけ
 ニャモ日記

 ○月×日

 ようやく地球についた。
 今までは船の窮屈な暮らしだった。
 これからはまともなご飯(保存食ばっかりで飽きていた)に、大きなお風呂。(船にあるのはシャワーだけ)
 さっそく目的地に向かうのだと思っていたら、しのぶが仕事を取っていて、それが終わってからとの事。
 借金が沢山あるかららしい。
 ACを運ぶのに相当かかった。
 景太郎は相変わらずパーツをもち過ぎだ、いつか捨てる
 ミッションの方は景太郎曰くラクショー。
 ミッション前に変な二人がいた。
 あれでもレイヴンらしい。
 はっきり言って笑えた。
 出費は4100コーム。
 ハンドグレネードの弾代だけだった。
 それにしても侍の方が気になる。
『青山』『斬空閃』が気になる。
 火星にいたあの性悪ナインブレーカーを思い出した。
 気分が悪くなった。
 おしまい。

 ニャモ

ACタイトルへ