有機合成化学実験



 本実験は、9月下旬から11月上旬にかけて、全14テーマを一斉に実施され ます。下記に、テーマ及び簡単な概要を述べておきます。レポートは、テーマ1・2 以外は実験終了後に出題され、その1週間後に提出となります。


テーマ1.減圧蒸留
 合成実験で時々出てくる基本操作として、減圧蒸留があります。これは、 液体の化合物を精製するときに使います。ここでは、テーマ6・9で使う ブロモベンゼンを減圧蒸留で精製し、同時に沸点も測定します。また、 キャピラリーの引き方・毛細管の作り方について、指導があります。


テーマ2.再結晶
 減圧蒸留と並んでよく出てくる操作で、結晶の化合物を精製する ときに使います。ここでは、テーマ3で用いるベンゾインを再結晶 します。また、融点測定も行います。粗結晶と再結晶サンプルを比較して みましょう。尚、この段階でテーマ1・2のレポートが出題されます。


テーマ3.ベンジルの合成
 テーマ2で精製したベンゾインを、Jonesのクロム酸を用いて酸化し、 ベンジルを合成します。尚、この反応では副生成物として安息香酸や ベンズアルデヒドが得られるため、分離の操作があります。最後に エバポレーターによる濃縮により、目的物が得られます。序盤に しては、かなり大変な実験でした。


テーマ4.ベンジル酸転位
 テーマ3で合成したベンジルにKOHを作用させて加熱すると、 転位反応が起こります。これをベンジル酸転位といいます。この 状態ですとカリウム塩なので、最後に酸と反応させて目的物である ベンジル酸が得られます。


テーマ5.環化付加反応
 環化付加の代表的な反応であるDiels-Alder反応を行います。 ここでは、ジエノフィルとして無水マレイン酸、ジエンとして フランを使います。無水反応なので、気をつけて行う必要があり ます。有機化学第2で、この反応については学んでいると思いますが、 エンド付加体ができることは、記憶しておいてください。


テーマ6.p−ブロモニトロベンゼンの合成
 テーマ1で精製したブロモベンゼンを、濃硝酸・濃硫酸の混酸と反応させて、 ニトロ化させます。今までの講義で分かる通り、ハロゲンがベンゼンに置換 されているときは、オルト・パラ体が優先的に得られます。混酸の調製に は気をつける必要があります。


テーマ7.p−ブロモアニリンの合成
 テーマ6の化合物を使います。ニトロベンゼンを金属(鉄又はスズ)と 塩酸で還元させると、ニトロ基がアミノ基に変換されます。例え、ブロム が置換されていても、この現象は起こります。ここでは、金属として 鉄を使います。反応機構については、ハウスの本を見てください。一電子 還元の機構が掲載されています。


テーマ8.p−ブロモアセトアニリドの合成
 アセチル化剤として、無水酢酸が使われることはご存知だと思います。ここでは、 テーマ7で合成したものをアセチル化します。アミノ基が変換させて、ペプチド結 合が形成されます。尚、この反応は結構早く進行します。


テーマ9.安息香酸の合成

 安息香酸の合成法としては、下記の方法が挙げられます。
 @ブロモベンゼンとMgを反応させてできるPhMgBrと二酸化炭素より 合成する方法(Grignard反応、無水反応)。
 Aトルエンの側鎖を酸化させるもしくは、ベンジルアルコール又は ベンズアルデヒドを酸化させる方法。
 ここでは、今まで机上で数多く登場したGrignard反応を用いて行います。 二酸化炭素の発生源として、ドライアイスを用います。無水反応であるため、前の時間に 仮組みを行います。


テーマ10.酵素加水分解による光学分割
 毎年、やることが若干変化します。ここでは、昨年の実験を紹介します。酵素の 1種であるアミノアシラーゼは、アミノアシル基をアミノ基に変換する加水分解 酵素です。ここでは、ラセミ体である2−クロロアセチルアミノデカン酸を用いて、 速度論的光学分割により、加水分解が早く進行する(R)−2−アミノデカン酸と (S)−2−クロロアセチルアミノデカン酸を得ます。旋光度や融点の測定により、 化合物を同定します。


テーマ11.微生物によるベンゾニトリルの加水分解
 酵素を用いずに、ベンゾニトリルを加水分解して安息香酸を得る為には、高温で 強酸もしくは強塩基を使わなければなりませんが、これは厳しい条件であり、 安全性に問題があります。そこで、中性〜弱酸性・40℃の条件で行うために 微生物を用います。この微生物は、ニトリルヒドラターゼとアミダーゼを持っており、 これによりベンゾニトリルがベンズアミドを経由して、安息香酸に変換されます。 対照実験として、強酸及び強塩基による常温での加水分解を試みます。また、テーマ 9で合成した安息香酸と融点の比較も行います。かなり大変な実験で、8時くらいまで 残されました。


テーマ12.アセトフェノンの合成
 Grignard反応と同様に、無水反応の代表的な例として、Friedel-Crafts反応があり ます。ここでは、Friedel-Craftsアシル化反応を用いて、ベンゼンよりアセトフェノ ンを合成します。基質としては、ベンゼン・塩化アセチル・塩化アルミニウムを 用います。尚、アセトフェノンは液体なので、精製方法として減圧蒸留を 扱います。


テーマ13.アセトフェノンオキシムの合成
 テーマ12で合成したアセトフェノンをオキシム化させる反応です。試薬としては、 ヒドロキシアミンと塩酸を使います。C=N結合があるので、E体とZ体ができる 可能性がありますが、E体が優先的に得られます。反応機構については、前述の 本を参照してください。


テーマ14.Beckmann転位
 骨格転位の一つを扱います。アセトフェノンオキシムをキシレンに溶かし、 PPA(ポリリン酸)と反応させると、骨格転位が起こってアセトアニリド が得られます。これをもって、有機合成実験が終了です。 お疲れさまでした。



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