スコップダンディ行状記――遠野行 前編



 遠野郷は今の陸中上閉伊郡の西の半分、山々にて取り囲まれたる平地なり。(後略)
〔柳田 国男「遠野物語」〕


1、そもそものお話

 発端は友人Fからかかって来た1本の電話であった。
「5千円くらいで箱根の温泉に止まれないかなぁ」
「無理だろ、そりゃ」
「じゃあ遠野に行けないかなぁ、それなら3万くらいまで出せるぞ、うん。『ふぃーるどわーく』は大切だから、うん」
 どこをどうやったら、箱根の温泉が遠野に変わるのか、一度このFの脳の中味を覗いてみたく思ったが、なんとなく間違った方向性で凄いものが出てきそうなのでひとまずそれはやめて、少し考えてみる。
 青春18きっぷ期間なら運賃は原則上野−遠野間の4600円(往復)だけで済む。宿泊費も安宿を探せば一人一泊4000〜5000円はありそうだ。うん。うまくすれば収まるぞ。
「多分、大丈夫じゃないのか?」
 運賃や乗る路線、大体の時間の予測を話すと、
「それじゃあ行こう」
「はあ」
 こんないい加減なノリで旅行の準備が始まった。

2、時刻表と鉄道

 鉄道旅行に欠かせないものといえば、時刻表である。幸いにしてここ2、3ヶ月毎月時刻表を買っていたので、最新号の3月号が手元にある。
 基本的に鉄道旅行をする際は最新号で調べた方がいい。特に18きっぷ期間は臨時列車を設定することが多く(別に18きっぷ期間だからというわけではなく、もともと春頃は旅客が比較的多いためなんだけど)臨時列車を上手く使える可能性もあるからだ。
 当初深夜発の列車に乗車して、現地に昼間着。そのまま軽く回って現地泊。翌日遠くにあるものを回り、一泊してから帰る。こんなルートを考えていたが、

夜行快速が無い>東北本線

唯一関係があるかなと思えるのは、快速〔ムーンライトえちご〕だけで、しかもこれ、新潟まで行ってしまう関係上あまり(時間的に)お得にならない。
と、なると第2案の早朝出発案へ移行である。
 今度は比較的良好である。というか、かなり接続は良い。あっさり往路復路の案が完成する(付表1)←列車番号まで見たい鉄ヲタの人向け。
 今度は宿である。googleで検索をかけるといくつか出てくる。それを調べていると大体の価格帯が1泊1人5000〜7000円くらいなのでこれも拍子抜けするほど簡単に「フォルクローロ遠野」という宿に決まる。
 あれよあれよという間に旅行日程が決まってしまった。

 3月26日 移動日:上野→遠野
      フォルクローロ遠野に宿泊
 3月27日 遠野の妖怪がらみの場所探訪
 3月28日 同上
 3月29日 移動日:遠野→上野

 というわけで旅行に行くための計画立案は結構簡単に終わった。

3、出番調整

 立案が終われば、今度は準備である。
 某電鉄某駅に平日夕方勤務のバイトとして勤務している関係上、ここまで長期間東京を離れると休みを取らないといけないのだが、ここで一つ困ったことが持ち上がる。

人手が足りない

実は出発の前の段階で私を含めて4人しか(出発の直前になって1人研修生が来たが)バイトがいなかった。しかも、うち2人は就職活動があるためそうそう毎日は出られない。バイトの配置は最低2人必要なので、私が1週間近く休むと確実に人手が足りなくなる。
 実際私が旅行に出かけるひと月ほど前、先任のバイトの人が2週間も海外に出かけたため人手不足となった。人手不足を理由に休めず、旅行に行けないというのは避けたいので、事前に根回しをすることに。
 その甲斐あってかなんとかこっちは休める状況にすることができた。
 うーん、こういうところは日雇い労働者のFが羨ましい。

4、事前打ち合わせときっぷ購入

 というわけで、出かける日程と予算が決まって休みも取れ、あとやることは向こうでどこに出かけるかである。ところが打ち合わせをする為の資料を持っていって渋谷で打ち合わせをしようとするのだけれど、いつも雑談に流れてしまう。
 いや、確かに240円(下北沢〜渋谷往復運賃)+コーヒー1杯の値段以上の価値が(少なくとも私には)ある雑談だからいいのだけれども、そればっかりしているわけにもいかない。第一、私はなかなか時間が空かないのだ(主に先述のバイトの所為で)。
 結局何も決まらないまま出かけることに。

 そうそう、話は前後するが、青春18きっぷの購入である。
 2月26日の昼間、渋谷の大黒屋にまず向かった。
 金券ショップで値段を聞くと、JRで買うのと大差ない感じだったので、渋谷駅のみどりの窓口で買う。
 それで大黒屋から無駄話をしつつ渋谷駅まで歩く。やっぱりというかなんというか、そこそこ混んでいる。少し待ち、順番が来てから窓口で
「18きっぷ1枚」
と、告げる。すると窓口に居た出札担当の駅掛員が、
「少々お待ちください」
と、言ってバックヤードの方に向かう。
 一瞬、ここで出せないのか? とか思い不安になったがバックヤードから戻って来ると
「お待たせしました」
と、きっぷを見せる。間違いない。代金11,500円と引き換えにきっぷを受け取る。
 この時点で友人からきっぷ代4,600円を回収しようと思い、
「今、いくら持ってる?」
と聞くと、X円とのこと(X < 4,600 の任意の数字。具体的には書かない、つか忘れた)。というわけで後日払ってもらう事に(結局出発の日に払ってもらった)。

5、出発前夜 自宅〜大学〜吉祥寺

 出発の前日までに「駒形騒動」や「突発的胃痛」などのネタになりそうな出来事はいろいろあったのだが、このままだといつまでたっても旅行の話にならないので、ここで時間を出発前日の3月25日に移す。
 集合時間を06:30と早い時間にしたので、大学の友人Tの下宿先に一晩泊めてもらうことになっていた。というわけで、25日の昼間に(銀行に行って旅費をおろさねばならないので)少し焦りながら荷物を詰めていた。
 春も近い3月とはいえ、みちのくである。相当寒いとふんでセーターを入れたりするなどして荷物と悪戦苦闘する。考えてみれば今まで一人で旅行に行った時期は大抵夏だった。だから極端な話、着るものは最悪2セットあればなんとかなったのだが、冬だとなかなかそういうわけにもいかない。脱ぎ着がしやすく且つ寒くないようにとすると、持っていく荷物が膨れ上がる。
 どうにかこうにか折り合いをつけて、服は終了。
 今度は持ち込む資料である。1/25,000地図と妖怪Walker(村上健司/角川書店)、それに各駅の構造を印刷したものは、必要だな。JTB時刻表も仕方が無い。あと柳田翁の著作は持っていかなきゃだめだろう。ってこういう具合にやっていくと、何時の間にか肩に食い込むくらいの重量になる。
 こりゃまずい。旅は原則として身軽じゃなきゃだめだ。
 しかも今回の旅行は3分乗り継ぎというなんともタイトな乗り継ぎが存在する。荷物が邪魔で間に合わなかったら洒落にならない。
 とはいえ、どうやっても本は減らせないので、諦めて重たいリュックサックを背負う。右手にはキャスター付きトランク、背中には重いリュック、中にはJTB時刻表。
 こりゃ、前後左右どこからみても、鉄道オタクだ。

 バス会社のサイトの時刻表でバスの時刻を確認し、いざ出発。確か14:00ごろだったはずだ。自宅最寄のバス停留所から最寄り駅までだいたい20分。来たバスががらがらなので、二人がけ座席を一人で占領する。
 バスの中で遠野物語をちまちまと読んでいるといつの間に終点に到着する。
 25日ということもあって銀行はごった返している。窓口待ちのソファはほぼ満員状態だし、ATMも長蛇の列だ。でも、給料をここで下ろしていかないと、そもそも旅行にいけないので、あきらめて列の最後尾に。結局5分位でATMの順番がまわる。やれやれとか言いながら残高を確認して、旅費を下ろす。
 駅ビルの中を突破し定期券で入場して、来た電車に乗る。
 Tと待ち合わせていた時間まで若干余裕があったので、大学で新年度の予定を控えてから吉祥寺へ向かう。
 吉祥寺についても1時間ほど時間が余っていたので、ユザワヤに行って鉄道模型をひとしきり眺めてからもう一度改札口の前に行く。
 Tは何処かな、ときょろきょろ探していると、いた。

XBOXのデカイ箱を持って

 どうやら前日に買ったXBOXに初期不良があった為、買ったところで交換してもらったとのこと。でもボーリングバッグとXBOXの二つを持って中央線に乗るって・・・ご苦労様。
 ともあれ、腹がすいていた。Tに夕食は食べたか聞くと、まだとのこと。つい2、3日前、胃をやられている身としては肉やこってりしたものはあまり食べたくなかったので、天ぷら屋に行くことに(よくよく考えれば天ぷらもかなりこってりしていると思うのだが)。二人ともおすすめ定食とロックの梅酒を注文する。梅酒はロックのわりに大量にあって、お互いにちょっともてあまし気味になるも、飲みきる(Tは最終的に水で割って飲んでいた)。お互いに甘い酒はどうにもこうにも性に合わないらしい。
 食べ終わったあと10分くらい歩いてTの下宿へ。とりあえずPCを借りてあちらこちらのサイトのチェックを済ます。その後、夜食と旅行先で飲む酒を買いに下のミニ・ストップへ。このミニ・ストップは酒類が意外に充実していて、Tの下宿で飲み会をやる時、足りない酒を調達する場合には非常に便利である。15分くらい考えてアーリータイムスの小壜を一つ買う。とりあえずその時点では夜食は買わず一度Tの部屋へ戻る。
 WWEの試合を録画したビデオを一緒に見ていると小腹がすいてきた。というわけでまたもや、下のミニ・ストップへ。確かホットサンドイッチみたいなヤツとフレンチフライのセットを買ったような気がする。
 そうこうしているうちに深夜1時ごろになる。Tがゲームをやっている横でこちらは仮眠をとる。目覚し時計を借りて04:40にセットする。毛布を被ってぼぉっとしているうちに眠りに着いた。

6、3月26日その1 吉祥寺−神田−上野

 いつもと違う目覚し時計の音で目が覚める。他人の家に泊まっているんだなぁと思う瞬間である。台所で顔を洗って口をゆすぐ。ようやく意識がはっきりしてきた。
 手早く身支度をして、Tと少しサークルの新勧について少し話していると04:50になっていた。少し慌てながら旅行用の靴を履く。
 キャスター付きのトランクをゴロゴロいわせながら引っ張り、早朝の吉祥寺を歩く。
 途中のサンクスで宇都宮線で食べようとパンと飲み物を買ってから、JR吉祥寺駅へ。
 いつもは京王電鉄井の頭線の方に乗るのだが、今日はJRの方。有人改札に行き駅掛員に、
「日付印をお願いします」
と言って日付印を押してもらう。
 そこでふと、腕時計を見ると05:19である。05:20発の中央緩行線東京行に乗る予定だったので急いで中央・総武緩行線のホームへ駆け上がる。
 上りきったタイミングで05:20発の列車が入線。うん、なかなか幸先いいぞ。
 とりあえず、階段付近の車両に乗り込む。流石に5時ごろだと乗る客もいないようで、車内はガラガラだ。ロングシートの端を確保して、行程を確認する。そうこうしているうちに新宿につく。結構人がおりて、ますますガラガラになる。まぁ、初電近辺なんてそんなものか。
 神田で降りて山手線に乗り換える。重い荷物を抱えながら階段を下りて3番ホームへ。年がら年中3、4分間隔で走っている印象のある山手線も流石にこの時間だと微妙にまばらでちょっと待つ。と、待つ間にFから電話。乗る予定の列車に乗り遅れ、次の列車になるとのこと。

旅行出発から遅刻ですかい

 まぁかなり余裕を見ているのでまったく問題なかったのだけれども。そんなこんなで06:02発の山手線内回り、上野・池袋方面行に乗る。
 やっぱりこちらもガラガラ。なんだか山手線じゃないみたい。だから朝早い列車は好きだ。そんなことを考えていると、06:07に上野着。ちょっと早く着きすぎたと思いながら改札へ向かう。東北・上越方面から来る長距離列車の終着駅になる地平ホームを横目に中央改札口から途中下車し、Fを待つ。地平ホームの方に入線する夜行列車や自動券売機の上にある料金表を眺めたり、みどりの窓口の前にあるパンフレットを取って読んだりしているうちにFが到着する。
 青のドラムバッグと黒の手提げ鞄を持って、いつものような感じで現れる。ドラムバッグが無ければ、誰も彼を旅行者とは思うまい。
 無事Fも来たので構内に戻る。Fが来た頃に着いた夜行列車から降りた旅客で微妙に混んでいる有人改札に行ってFの分の日付印を押してもらう。やれやれ、ようやく旅行のはじまりだ。

7、3月26日その2 上野−黒磯

 というわけで、8番線に06:36入線の快速〔ラビット〕に乗るため再び上野駅構内に入る。気分の問題なんだろうけど、若干駅の雰囲気が早朝から朝ラッシュの雰囲気になってきている。Fから18きっぷ代金4,600円を受け取りながら、8番ホームへと歩く。
 まだ入線まで時間があったので、乗り継ぎの話をする。そうこうするうちに、快速〔ラビット〕が入線してくるが、どうにも様子がおかしい(入線する方向がなんだか変)。どうやら、小金井05:13発の列車を折り返して運用するようだ。
 しかし、その時点ではそんなことに気付かず降りる客が降りきった途端のりこもうとして、運転士に

「お客さん、まだ乗らないで。清掃作業あるから」

と言われる。
 赤っ恥。
 Fには「半人前、半人前」と馬鹿にされるし(これは駒形の時の「前科」の所為もあるんだろうけど)。ふん、清掃作業なんてあんまり見ないもん、終着駅じゃないから。
 ともあれ、清掃作業が終わりようやく乗れる。E231系フルロングシートのタイプだったので少々がっかりしながらシートの端に二人並んで着席する。意外にも乗る人が多い。大体ロングシート一本に対して2、3人はいる。
 06:51定刻通り発車。いよいよ遠野まで営業キロにして542.4km、運賃計算キロにして547.0kmの行路の第一歩が刻まれた。
 とりあえず朝食に買ったパンを食べきってしまう。ロングシートで対面に座っているサラリーマン風の男性の視線がかなり痛い。ついでにとなりのFからの微妙な視線も結構痛い。Fに朝食を食べたか聞くと、食べてきたとのこと。それなら遅れるなよと突っ込みたくなるが、まぁおいておく。
 パンを食べきるとひたすらFと駄弁る。まぁ、それはいいのだが、

F、声大きすぎ

 話題が話題(ちょっとした政治ネタ。でも大学生が二人いたら政治や経済の話になるもんじゃないの? 本来←何時の時代の話だ)だけに対面からの視線がちょっと怖い。何か言われたら嫌だなぁと思ってちょっとハラハラしながら駄弁る。まぁ、こっちもテンション高いから、声が大きくなっていたと思うけど。
 とはいえ、小山に着くころになると、話すネタも結構尽きてくる。いや、アレでアレな話題ならあるんだけど、流石に車内でやるわけにはいかないし。
「かなりかかるな」
と、Fが言う。無理も無い。都内に住んでいて1時間半も列車に乗りとおすなんてことは、ほとんど無いだろうし。だけど、快速利用で結構時間は短縮できている筈なんだけど。そんなことをFに説明しても、今ひとつ納得できない様子。
 そうこうしているうちに宇都宮に到着する。東京近郊区間の終着駅というより餃子の駅という印象が強いからどうにも感慨が湧かない。確かに直流交流が切り替わる黒磯駅の方が陸奥の玄関口って感じはするけれども。
 ともあれ、ここまできてしまえば黒磯まではあと少しだ。
 黒磯着は09:14の定刻どおり。一回目の乗り継ぎだ。

8、3月26日その3 黒磯−郡山−福島−仙台

 黒磯での乗り換えはホームが全く別の「島」だったため、階段を登ることに。平地を歩くときにはキャスター付きのトランクは便利だけれども、階段ははっきり言って邪魔臭い。ドラムバッグを肩にかけ軽やかに階段を登るFを横に見ながらふうふう言って登る。
 乗る予定の09:38発の郡山行きは既に入線していたから、少し急ぎながら列車に入る。フルロングシートの為に、ある程度座席定数を確保できる701系の割に、結構な混み具合だ。ロングシートにかなりの人数が座っている。後の方の車両が混んでいる為、前の車両に行く(実はこの判断が郡山で大きく影響してくる)。なんとかシート端の座席を確保できた。Fもこの混み具合は意外だったらしく、少しぽかんとしている。
 これも定刻どおり発車。流石に小田急のように3、4分平気で遅れるということは無いようだ。
 この701系(に限らないけれども)は風が吹き込んで車内の気温が下がらないように、ボタンを押して扉を開け閉めするようになっているのだが、開け閉めの時の音が甲高く物凄く耳障りである。危険防止の為に聞こえやすい音にしているのだろうけれども、かなり不快である。もう少しどうにかならないんだろうか、とか思いながら、Fと駄弁る。今度は結構混雑した列車の為車内がざわざわしている為、声が大きいのにおびえずに済む。
 郡山に近づくにつれて車内が一層混んでくる。郡山での乗り継ぎが面倒だなぁとか思っていると、
「まもなくー、郡山ァ、郡山です。前2両は郡山から先福島まで参ります。後4両は郡山止まりです。郡山から先へお越しのお客様は、郡山で前2両にお移りください。郡山で車両の分割の為、9分ほど停車致します」
というアナウンスが。
 友人Fはボソっと
「0.25人前」
とか言う。どうやらまた格下げらしい。
 しかし、これは本当に気付かなかった。運用のサイトを見たら確かに701系の6両(2両×3重連)編成から2両編成になるとあったけど、まさかそのまま分割するとは思わなかった。大体、もともと結構混雑した車両が三分の一になるとどうなるか。

大混雑

 ラッシュ時の満員電車とまでは行かないけれども、そうとうな人数が立つことに。本当にこの車両分割必要なのか? とか思いながら、元から確保していた椅子に座る。これはラッキーだった。
 途中の駅からも結構乗ってくる。うーん、少なくとも東急多摩川線よりは混雑している感じだ。
 そんなことを思っていると、二本松駅に着く。ふと外を見るとなんだか「昭和30年代」な風景が眼に飛び込んでくる。「昭和30年代」が判り難ければ「夕焼けの詩」(西岸良平)のような風景というべきか。なんだか、そこで降りたら二度と元の世界に戻れなくなりそうだ。なんだかちょっとした「銀河鉄道999」気分である。
 そこで乗っている5%くらいが降りて、殆ど同じくらい乗ってきた。結構大きな街らしい。
 次の乗り継ぎと駅の構造をチェックするため時刻表を開いているとFが、
「列車の中で時刻表を読んでいると、見るからに駄目鉄ヲタっぽい」
と、言う。そうかぁ? 「結構八高線には居たんだけどなぁ」とか返答していると、

対面で大判時刻表を開いている少年発見

「居るだろ、普通に」
と、Fに返すとFも返答につまったようだ。ふふふ、此の世に不思議なことなど何一つ無いのだよ、F君。
 さて、間もなく福島である。
 ここで快速〔仙台シティラビット3号〕に乗り換えねばならないのだが、3分しか時間が無い。しかも今度はセミクロスシートの719系のため、座る場所によってかなり差が大きい(進行方向に向いた座席に座らないと結構つらい、ロングシート部分ならはっきり言って最悪。逆に進行方向に向いた座席ならかなり極楽)。
 ちゃんと乗り換えられるのか考えていると、対面の黒のダッフルコートを着た少年が車内最後部に居た移動中の車掌(ちなみにこの列車はワンマン運転だから、福島への移動なんだと思う)に、

「この列車って〔仙台シティラビット3号〕に接続してますか?」

と聞く。(ナイス、鉄ヲタ少年)とか思いながら盗み聞くとしていると、あるとのこと。少し安心し、福島に着くのを待つ。

 福島駅に近づくと進行方向左側の扉に人が集まる。やはりこの乗り換えをする人は結構多いようである。大荷物をまとめながらFとともに扉の近くに立つ。
 だんだん速度が緩やかになり福島駅に到着する。階段の前の好位置。
 扉の前の人がボタンを押して扉を開ける。とたん

駆け足

 ダッシュとまでは言わない。が、結構せかせかと走っている。それを見てこっちもあせる。なにせ進行方向側の二人がけ座席は数が少ないのだ。トランクを抱え階段を駆け上る。焦るあまりホームの連絡橋を走っているときに胸ポケットから使い捨てカメラを落とす。軽くバカにするFを横目にカメラを拾ってプラットホームへ。
 うーん。微妙。座席にパラパラと座っている人が。進行方向向きがあまり無い。
「これがあるから急いだんだけどなぁ」
と言うとFもようやく納得する。
 通路で考えても仕方が無いので、二人並びで座れるロングシートへ。ちっ、クロス側に座ろうと思ったのに。運転台から微妙に離れているものの、前方が見やすいのでまぁ、いいか。
 仙台まではどういうふうにしていたか、今ひとつ記憶が定かでは無い。こういう場合大抵本を読んでいるか寝ているか酒を飲んでいるかのどれかなのだけれども、それすら思い出せない。ただ、思ったよりもあっさり仙台に到着したのは覚えている。

9、3月26日その4 仙台駅/仙台−小牛田−一ノ関

 というわけで、仙台である。接続を色々考えた結果、ここで49分間待って駅弁を買い、仙台以北の旅に備えようと計画していた。
 改札を出るとやたら露天が立ち並んでいる。それこそ、駅弁から牛たん、笹蒲鉾、その他の土産物と、いかにも観光地らしい活気に満ちている。とりあえず、駅弁を買おうということになり、少しくうろうろとして比較検討する。結局Fは牛たん弁当、私はうにめしを買う。ついでに酒のつまみも買おうということで、適当な露天で6本入りの笹蒲鉾も買う。
 時計を見るとまだ時間があるようだ。何をしようかと考えていると、外に古本屋の看板が見えた。

「ウホッ、いい本屋」
「行かないか」

 まぁ、Fも私もはアレげな趣味をもっているわけじゃないし、こんなことを言ってはいないけれども、とにかく駅近くの古本屋に行ってみることにした。しかし、あれだなぁ。旅先でまで古本屋に行くというのも、何と云うかエラく物好きである。
 入った古本屋の品揃えは典型的な「駅前店」の品揃えで、官能小説・ハウツー文庫ものが多くある中、お互いに適当な本を買い(ちなみに私は「コメ作り社会とビジネス社会」(漆山治・日経ビジネス文庫)を200円にて購入)駅に戻ると丁度いい具合の時間となった。
 今度は(ちなみに先ほど乗ってきた列車と同じ791系)進行方向向きの2人がけという最上の席を確保し、出発にそなえる。ただ、この2人がけ座席。座りごこちは悪くないのだが、

シートピッチが狭い。

正直なところ、デブの自分にはキツい。とはいえ、18きっぷ旅行者の身の上、贅沢を言っていられないので荷物を網棚に上げて、どうにか座る。
 長らく何も食べていなかったせいか、出発まで我慢しきれず駅弁の包みを開ける。Fは弁当の下の紐を引っ張って弁当の加熱を開始する。仙台の牛たん弁当は「温かい弁当」というのがウリの一つである。ただ、空腹の3分は結構辛そうだった。そんなFを横目に、包みを取り去り、紙の蓋を開ける。
 中味は蟹ほぐし身・うに・錦糸玉子が寿司飯の上にある散らし寿司仕立てである。
 うにの風味、良し。若干ぼそりとしているのが気にかかるが、それを補って余りある風味である。蟹は美味。この一言に尽きる。食通の人に言わせれば笑止千万なのだろうけれども、本当に美味い。なにより、そこそこ量があるのが有り難い。Fの牛たん弁当もなかなか美味かったようである。
 そうこうしているうちに列車は仙台駅を出発し、一路小牛田へ向かう。弁当の空き箱を買ったビニール袋に入れて降りるとき持ち運びやすいようにすると、腹がくちくなったせいか眠気に襲われる。これはいかんと思うものの、抗えずうとうととする。この間Fはずっと本を読んでいたようだ。無視してぐっすり眠っていて、すまん、F。
 ともあれ、40分強で小牛田に到着する。陸羽東線・石巻線の接続駅のわりには、なんだか周囲に何も無い。駅のプラットホームから見える外の景色は、荒涼として何か無常感すらおきてくる。「再開発事業」の看板が一層寂しさを演出する。
 対称的にプラットホームは列車待ちの旅客で俄に活気付いている。少なくとも外の風景よりは活発的情景だ。
 16:06発の701系ワンマン列車に乗る。これもそれなりの混雑をしめす。中学か高校だろうか、制服を着た女子学生が菓子を食べながら語らっている姿に、「若いっていいなぁ」とか思う。一体何歳なんだ、俺は。
 話は変わるが、普通列車の乗り通しと聞くとノロノロ走るっているように見えるが実態は結構違う。東京近郊区間を離れるにつれて駅間距離がだんだんと長くなり、結構速度を出すようになる。線路もひたすら真っ直ぐにどこまでも続いているように見える。「線路は続くよ、どこまでも」という歌が脳裏をよぎる瞬間だ。
 といったわけで、案外長時間の汽車旅、もとい列車旅も退屈しないものだ。ちょっと車窓に飽きてきても、他の乗客の様子を見たりするなどすると、結構時間もすぐ経つものである。
 そんなこんなで、一ノ関に到着。いよいよ仙台支社の緑色の帯ともオサラバ。盛岡支社の紫色の帯の登場、陸奥への膝栗毛(列車旅で使うのもどうかと思うけど)もクライマックスだ。

10、3月26日その5 一ノ関−花巻−遠野

 いよいよ東北本線も最後の乗り継ぎである。
 ここまで乗りとおしたからには盛岡まで行ってみたい気もするのだが、流石にそういうわけにもいかない。既に泊まる宿には到着時刻を告げているし、何より予約済みの宿をキャンセルしてまで行く気は起きない。そこまで私はアクティブな人間じゃないのだ。
 東京なら夕ラッシュに入るか入らないかくらいの時間だが、乗車している旅客数は、やはり多くも無く少なくも無い程度である。先ほどまでそこそこ混雑していたのもあって、ようやくゆったり座れるとFとともに一息つく。
 こんなに延々と列車に乗ったのは久しぶりである。車両のバラエティに乏しい東北本線だからそんな感覚を覚えたのかもしれないが、少々701系に食傷気味である。
 ともあれ、既視感を覚えるような東北の風景をチラリチラリと眺めながら、Fと駄弁っていると、花巻に着く。ここからは非電化の花巻線に乗る。つまり、ここで電車とはしばらくオサラバということになる。
 花巻では30分近くの待ち合わせだった為一端改札を出る。売店に簡単な食堂と、ここまでは良くある地方の駅の施設なのだが、何故かクレープとコーヒーのスタンドがある。甘いもの好き二人がこれを見逃す手は無い。二人してクレープを買って食べる。大して動いてもいないのに、よく食べられるものだと他人事のように感心してしまう。
 売店の書籍コーナーを冷やかしたり、外のバス停留所付近に止まっていたバスを眺めたりするうちに、列車が来るころになる。18きっぷを提示し改札を通る。
 ところで、釜石線には愛称なんてものがある。愛称というのは例えば東北本線の上野−黒磯間を「宇都宮線」というようなものである。これなら、まぁ頷けるような気がするのだが、ここ釜石線は他とはちょっと違う。

銀河ドリームライン

 宮沢賢治に乗っかったネーミングだが・・・まぁ、何も申すまい。多分もそもそと苦言を呈する人がとっくの昔に文句を付けてそうなので。話がそれたが、その愛称に沿って各駅にもエスペラントでの駅名称が存在する。ちなみに花巻は「チェーンアルコ」。虹という意味だそうだ。昔の信号機を象った駅名標(鐘も付いているのだが、これは悪戯されないように紐がポールに巻きつけてあった)には両方併記してある。これで車掌のアナウンスも、

「次は〜、チェーンアルコ花巻。チェーンアルコ花巻です」

とかやれば面白いのだが。
 そんなことを考えていると快速〔はまゆり5号〕が花巻駅の釜石線の釜石方面ホームに入線する。先ほど述べた通り釜石線は電化されてない為、気動車(ディーゼルカー)が走っている。キハ110系が三両編成で運用されている。指定券を買わなかったので自由席の列に並び席を探す。

大混雑

 時間帯も時間帯なので覚悟はしていたが、殆ど席が埋まっているのは予想外だ。なんとかセミ・コンパートメント席が空いていたのでそこに座る事に成功。もはや進行方向とか贅沢を言っていられる状況ではない。
 外はまさに日暮れである。街の明かりが殆ど無いため、日が落ちると濃密な闇が窓の外を支配するのである。すると、急に「遠くに来てしまった」という微かな不安がよぎる。闇・夜への本能的恐怖なのであろうか、それとも見知らぬ土地への恐怖なのであろうか。それが何かはわからないけれども、ちょっと怖くなったのは事実である。
 さて、そんなこんなで遠野駅である。途中微妙に萌えるような萌えないような女性が相席になったこともあったが、これまたどうでもいいことなので割愛する。

11、遠野駅/フォルクローロ遠野/キクコーストアとぴあ遠野店/フォルクローロ遠野

 ここまででどれくらいかかっているんだという疑問もあるが、遠野に着いた。
 とりあえずFと二人で、駅の河童のイラスト(肌の色が緑)に向かって、

「遠野の河童は赤いんです」

と言う。Fも私も何だか異様なテンションだ。
 そんなハイテンションのまま改札を通り遠野の駅前へ。日が暮れているのもあるが、何だか寂しい感じがする。でも、本来夜なんてこんなものなのだろう。
 ともあれ、荷物が邪魔なのでとりあえずチェックインすることに。有り難いことに泊まる予定の「フォルクローロ遠野」は遠野駅の真上に(入口は遠野駅の隣)あるためすぐ行ける。大荷物を抱えながらフロントへ行き、チェックインを済まし部屋の鍵を受け取る。河童のキーホルダーが、何と云うか微妙だ。
 荷物を転がしながら部屋へ入った第一印象。

広ッ!!

 いや、確かにツインルームだから狭くは無いだろうと思っていた(最低でもベッドを二つ置く必要があるので)が、かなり広々としたベッド二つとは別にソファーとテーブル、あとお茶だのテレビだのが置いてあるテーブルがそれぞれ結構間を空けて置いてある。
 部屋に少しく満足した後、食料を調達するため、荷物を置いて外へ向かう。フロントでスーパーの所在を聞くと近くに「キクコーストアとぴあ」というショッピングセンターがあるらしい。持ってきた地図に場所を書いてもらい、二人連れ立って遠野の夜に繰り出した。
 ちなみに私は自慢ではないが方向音痴である。なので、Fに道を任せたのだが、

遠回りする羽目に

 駅前からすぐ左にいけばあったのだ。それを道を1本読み違えたらしく、ワンブロック分遠回りをすることになった。
 さて、元スーパーのアルバイト(精肉・鮮魚・陳列・レジ)としては、行ったことのないスーパーを覗くのが楽しくて仕方が無い。そんなことをFに話すと、最初から田舎のスーパーと馬鹿にしているフシがある。ちっちっちっ、甘い甘い。田舎のスーパーの方が品揃えが豊富なことが往々にしてあるのだから、ナメちゃいけないのである。
 そんなことを話しながら店に入る。広い店内にかなり余裕を取って商品を陳列してある。がらんとして見えるけれども、個人的には狭苦しい陳列をする店より好きだ。
 真っ先に惣菜コーナーに向かう。

安ッ!!

 もともと結構安いのだが、それに半額シールが付いて尚の事安くなっている。これ幸いとFと二人で物色する。しばらくどうでもいいことを話しながら、私は海老丼で、Fは寿司の盛り合わせにする。それにつまみ兼おかずでまいたけの天ぷら・鳥の唐揚げ・メンチカツ・しょうゆもち、水割り用のミネラルウォーターとロックアイスを買う。一人頭800〜900円くらい。
 スーパーの袋をぶら下げて部屋に戻って食事の準備をする。部屋に置いてあった湯のみに氷を入れて、Fは水割り私はロックでウイスキーを飲みながら買ってきた惣菜を食べる。なかなかのお味。明日からの予定を決めながら延々飲み続ける。
 アレでアレな話題をしているうちに、Fのテンションが明らかにおかしくなり(どの位おかしくなったかというと、ネタとして書けない位)、眠くなったらしくそのテンションのままFが風呂に入っている間も私はちびちびと飲み続ける。やがてだんだんと眠くなり、着替えを持ってシャワーを浴びに行く。
 ユニットバスは部屋とは対照的に狭苦しい。単に私がデブなだけなのかもしれないが、とにかく狭い。一応バスタブはあるものの、この狭さだとバスタブに体を押し込めたが最後、抜けなくなる恐れすらあるので、シャワーだけにする。
 風呂から出るとFは熟睡中である。すぐに眠りにつくほどではない、中途半端な眠気に閉口しながら、今日の旅程のメモをまとめる。細々した書付は丁度良く眠気を呼び起こした。





スコップダンディさん、投稿ありがとうございました〜
それでは、簡単な用語解説{分かる範囲}をばいたします



・柳田 国男「遠野物語」


知らない方がおかしいです。以上


「それのどこが解説ですか」

だってどう考えてもそうだろうが
むしろ、遠野についての行状記だってのに
『遠野物語』も知らないような奴に読まれたく無いね
もういいよ! 遠野物語知らない奴は読まなくていいよ!!

「他人が書いた行状記のあとがきで何暴言吐いてんですか」

「ちなみに、遠野物語とは、柳田国男が遠野に関する口伝を集めて本にしたもので、史料価値だけでなく、文学作品としても他界評価を受けていて、三島由紀夫も絶賛したと言われている」

「解説とかだと本当に活き活きしますね貴方」



・「ウホッ、いい本屋」
「行かないか」



元ネタは「ウホッ! いい男・・・」「やらないか」
の名台詞で2ちゃんねるを席巻した伝説のハードゲイ漫画
うちの掲示板では挨拶代わりに多用され、管理人としてあまり語りたく無い

「その割にはお前が一番よく使っているような気がするが?」

ちなみに私、昔九州行く時に
空港の本屋で漫画立ち読みしてたら
飛行機乗り過ごしちゃった事があるんだけど

「脳に蛆でも湧いてるんですか?」

あん時はテンパったなぁ〜
九州で迎えに来てくれた叔父さん達大爆笑
「もう立ち読みは懲り懲りじゃよ〜」って気分だったよ
帰りの出発待ちでも本屋でギリギリまで立ち読みしてたけどね

「お前の学習能力は猿並か?」

是非ともスコップダンディさん達にもこれぐらいのネタをして欲しいものだが

「ネタとかじゃなくて、小学生でもそんな馬鹿なマネはしませんよ」

・・・ちなみに、高校生の頃の話だよ

「一度死んだ方が良くねぇかお前?」



・「遠野の河童は赤いんです」


大分前の河童騒動の時に京極夏彦先生が言った名台詞
詳しくはこちらを参照、かなり熱いトークなので是非ご一読を

「でも地元の人たちも緑だって思ってたんですね」

むしろ赤く塗り潰してきてくれれば面白かったのに・・・

「違法行為だよ馬鹿」



とまぁ、こんな感じで用語解説終わり

「・・・まだ3つしかしてないのに」

「しかもあまり解説になってなかった気がするんだが・・・」

最後まで、気にしちゃあいかん
気にしたら、そこで試合終了だよ

何で安西先生ですか

それでは、後半をお楽しみに〜