新時代の漢の喧嘩




時代は変わりました
古き良き時代は過ぎ去り、
新しい時代が始まったのです


新しいとはいっても、それが全て悪いことなのではありません

あの高杉晋作は言いました

「面白き 事も無き世を 面白く」

これは一つの真理だと思います

いつまでも、古いものに縛られず、これからを良くしていこう

つまらない世の中なら、変えればいい

それが未来を生きていくために必要な気構えです


しかし


新しい時代になっても、古い時代のものでも良いものは良いのです



だから、全て切り捨てるのではなく

良いものは未来に残そうと、そういうワケです



前フリが長くなりましたが、本題に入ります

今の時代、法律で決闘は禁止され

世間のお母様がたは暴力に過敏に反応するようになり

その子供達は、一日中家に引き篭り、パソコンに向かい

会った事のない友人達との。ディスプレー越しの会話

これではいけません

漢どころか、男とも呼べません

もっと雄々しくあらねば

そこで、私は


喧嘩を推奨いたします



漢は元来不器用なものです

言いたい事なんて、上手く言えるわけがありません

だから、旧時代の漢はみな


のみで語り合っていたのです{注:一部誇張表現有り}







夕暮れの川原での決闘

それは
漢の浪漫







小難しく考える必要なんて無い

子供だろうが

大人だろうが

拳を交えて初めて伝わることもある

言葉じゃ伝わらないことも、拳なら、まっすぐ伝えられる

伝えにくい思いも、体が勝手に動いて伝えてくれる



だって体は正直だもの



青春時代、何一つ威張れる事も無かったけど

あの時殴りあった友人達との友情は本物だ

そんな胸を張って叫べる、本物の友情


それは殴り合うことでしか得られないのだ



しかし、昨今では、先ほど述べたように、暴力=悪のレッテルが貼られている

これはいけない


かと言って

殴り合うことの素晴らしさを伝えようと

反対派を片っ端からぶん殴っていったら


ただのテロリストだ


そこで、『ルールが無いのが喧嘩のルール』

を少しだけ曲げて、ルールを作ってみよう

ここで重要なポイントをいくつかあげてみよう



@ まず、色々五月蝿いので、顔に傷が出来るような、全力の殴り合いは駄目

A でも、殴り合いにスリルが無いようでは喧嘩とは言えない

B 傷つく以上に、相手との言葉ではない心の交流が必要

C 喧嘩は路上でやるものなので、試合形式風なのも駄目



あれも駄目、これも駄目、これでは何も出来ない

上の4つのルールを全てクリアする喧嘩の方法は、果たしてあるのだろうか?




あった


皆さんは、少年チャンピオンで連載されている

『バキ』という漫画をご存知だろうか?

その中で、こんな場面が登場する







拳に、グリースをつけ、ガラスの破片をまぶす

「禁酒法以前――アル・カポネがまだチンピラだった時代に

ギャング達の間で考案された喧嘩法―――」

「君も真似たまえ、完全決着を望むなら」







これだ!!


私はこれにインスパイアーされました

といっても、何もこのままやるわけではありません、大体、グリースなんて

そこらに当たり前にあるものではありません

まず、必要なのは、ゴム手袋、常に持ち歩きます

そして、街中のいたるところにゴキブリホイホイを置きます

喧嘩が始まったら、手袋をつけ、ゴキブリホイホイを開け


つぶしてまぶす



凶 器 完 成



別に、ゴキブリで無くても構いません

偶然そこら辺で捕まえたネズミ―――

偶然そこら辺に落ちてた生ゴミ―――

偶然そこら辺に落ちてた犬の糞―――

使用を認められるとしたらそんなものです

とりあえず、ガラスとか、石とかをのりでつけるようなのは



良い子が真似するのでNGです


基本的に、精神ダメージの大きいものを選びます

そして、準備が整ったら、殴り合いです

そこからはもう一切のルール無しの殴り合い



だけど、もちろん、狙いは顔面への一撃必殺



このルールなら、全ての条件を満たせます

まず、@はOKです

これなら一発で終わりますから、怪我の心配はあまりしなくて良いでしょう

むしろ精神へのダメージが深刻です



Aも満たされます、何しろ、殴られたらエンガチョですから


そりゃ必死にもなりますわ

スリルどころの騒ぎじゃありませんしね



Bもまぁ、OKです

いかにして避けるか、いかにして当てるか

一撃同士の勝負は、真剣な相手の心理の読み合い

命を賭けて、相手の真実の声に耳を傾ける

どこを狙っているのか、どこを狙えばいいのか

そんな相手さえも知りえない情報に耳を傾ける



これぞ真実の会話


拳での語らいよりも、濃い会話

一撃に賭けられる、自分の全て

これほど濃密な会話が、他にあろうか?



Cに関しても、まぁ、許容範囲内だろう

手袋を持つ必要はあるが、別にそばに落ちている布切れで代用してもいい

ただ、それでどこまで防げるかは分からないので、二重にスリリングだ



これはいい、ただの素手での殴り合いが芸術にまで昇華した

ボクシング風味の喧嘩

アウトボクサーのフットワークと心理読み

一撃にかける意地

その、対極に位置するような二つが見事に調和している

一撃も当てられずに、一撃で倒す


まさにボクサーの完成形


一見、粗野で乱暴そうだが

別の見方をすれば近代的かつスマート


これこそまさに21世紀の喧嘩



さぁ、若者諸君、今すぐにでもこの方法で喧嘩を始めるが良い

きっと、今まで見えてこなかったものが見えるはずだ

掴めなかったものが掴めるはずだ

あぁ、なんて感動的なんだ!!





でもね、この喧嘩、一つだけ弱点があるんだよね

さっき言った、ボクサーに関係することなんだけどね

ちょっと、困ったチャンな人種が存在するのよ

多分、こいつらが参入すれば、この喧嘩は

その意味を成さなくなる

そんな困ったチャン達

その名も



ファイター


打たれても、打たれても、倒れずに前に出て打ち続ける

誤解の無いように言っておきますが、それもまたボクシングの形なのでしょう



でもね

この喧嘩法で

打たれまくって、顔中

ゴキブリだらけにした奴が眼前に迫ったら

あんたどうする?



言うなれば


小学校の運動会でステロイドを打つ少年



嫌なガキだ

ジャック・ハンマーでもそこまでやらん

そんな喧嘩じゃ、何も得られませんよ

勝っても負けても、虚しいだけですよ

浪漫もへったくれもありゃしない

もちろん、そんな人ばかりじゃないとは思いますが

ちょっと、怖い話をしてみましょう

さっきも出てきました、週刊少年チャンピオンに

『満天の星』というボクシング漫画があります

読んでいないという方には、一度お読みすることをお勧めいたします

この漫画、面白いし、好きなんですが

一つだけ駄目なポイントがあります、それは



ディフェンスの完全否定


ボクシングの理想は、さっきも言いました

『一発も打たせず、一発で倒す』に尽きると思うんですが

この漫画では、主人公自身が



「このリングに無傷の二文字はいらない!!」


と豪語しております

傷だらけの姿こそ美しい、ファイターの美学

それは分かりますが、何も、アウトボクサーの存在意義を失うようなこと言わんでもいいと思うんですがね

それで、その『満天の星』の世界観でこの喧嘩をすると、こうなります



まず、ボクサーだけに。グローブを使います

次に、そのグローブに、何かまぶすわけなんですが

別に、ゴキブリとかでもいいですが、ファイター相手にそれはぬるそうなので



糞尿を使います


そして、準備が整ったら、勝負開始

まずは、お互いの間合いまで歩を進めます

そして、互いに掛け声をかけます

「いっせい…の……セッ!!」

ガガッ!!


お互い、一歩も退かず殴り会う二人

脳が揺れ、歯が砕け、鼻が潰れ…

しかし、互いに退かずに打ち続ける

飛び散る血…汗…涙…



そして糞尿

互いの顔がボコボコになり、糞尿が傷口に染み込んでいきます

そして、それを見て、ギャラリーの一人がつぶやきます


キレイだ…



そして、決着まぎわに、片方がこう言います

「この喧嘩に、無傷の二文字はいらないんです!!」



考案者として、私は一言ツッコませてもらいたい

「お前ら、この喧嘩の趣旨分かってんのか?」



糞尿を飛び散らせながら、戦う二人の戦士
糞尿を傷に染み込ませながら、戦う二人の戦仕
糞尿が口に入っても、飲み込みながら、戦う二人の戦士



こいつらは、友情に目覚める前に



スカトロに目覚めます







やはり、ファイターの戦場はリングの上だけにしておいた方がいいようです

しかし、こういったファイターは必ずこれからも現れるでしょう

それを解決するにはどうするか?


もはや、手は一つしか残されていません

毒手です


常に、様々な毒薬を混合した、毒液を持ち歩き

喧嘩が始まる時になったら、互いに両手に毒液をかけます

これなら、かすっただけであの世逝きなので

ファイターに打ち返される心配はありません

ただ、一つ問題があります

そんなかすっただけであの世逝きの毒薬を手にかけるんですから

当然、皮膚から徐々に毒液は侵入し

仮に、相手を倒したとしても

直後に死にます


でもまぁ、武士道とは死ぬこととみつけたりって言うし

OKにしましょう

ようは、自分が死ぬより先に、相手を倒せればいいわけです

なんとも漢らしい

まさに新世紀の喧嘩!!



もし、死んでも、現代医学の粋を結集すれば、なんとかなるやもしれません

もしくは、仮死状態になるだけの毒薬とか

まぁ、いずれにせよ

遠い未来の化学の進歩した時代でしか出来ませんね、そんなもん

まぁ、いつかきっとそう遠くない未来、そんな喧嘩で

漢同士の語らいが出来る日が来るといいですね



…ここまで引っ張っておいて、結局未来オチってのは


夢オチより酷いな




注:読んで不快に思った方々へ、これはあくまでネタなので、ご了承ください

あと、途中で、『満天の星』の世界観と言っておりますが、途中少し

『バキ』の話の混じっているので、その辺りもご了承ください